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グラフェンの光学量子ホール効果の観測に成功 固体中の“ニュートリノ”(質量ゼロのディラック粒子)が示す奇妙な光学現象

掲載日:2013年5月23日

グラフェンは炭素原子が蜂の巣格子状に結合した原子一層からなる物質である(2010年のノーベル物理学賞の対象)。グラフェン中の電子は、奇妙にも相対論的(ディラック)粒子で質量がゼロの粒子(ニュートリノに似る)のように振る舞い、またその速度は、固体中の粒子としては非常に速い(光速の約1/300)。これらの性質のため、グラフェンは次世代の高速電子デバイス材料の有力候補として期待されている。

c Ryo Shimano. グラフェン(炭素原子が蜂の巣格子状に結合した物質)で、量子ホール効果によって生じるファラデー効果の概念図。わずか一層の炭素原子によって光波の振動方向(偏光面)が回転する。回転角は物理学の基本定数である微細構造定数を単位として、グラフェン特有の半整数値をとる(光学量子ホール効果)ことが初めて観測された。

グラフェンが示す最も興味深い物理現象の一つに半整数量子ホール効果がある。ホール効果とは、試料に磁場をかけ、磁場の向きと垂直に電圧をかけたときに、電圧と磁場の双方に直交した方向に電圧(ホール電圧)が発生する現象である。ホール電圧と電流の比例係数であるホール抵抗は古典電磁気学では磁場に比例するが、強い磁場下の2次元電子系では、 (量子力学的な理由のために物質に因らず!) 物理学の基本定数h/e2~25.8kΩ(hはプランク定数、eは電気素量) の整数分の1倍という跳び跳びの値になる。これが整数量子ホール効果であり、今日では電気抵抗(Ω)の標準にも使われている。グラフェンでは、この量子ホール効果がディラック粒子特有な半整数値をとる。

東京大学大学院理学系研究科の島野亮准教授のグループは、青木秀夫教授、NTT物性科学基礎研究所の日比野浩樹グループリーダ、理化学研究所の森本高裕基礎科学特別研究員らと共同で、グラフェンがテラヘルツ波という、光に近い高周波数の電磁波に対しても明瞭に量子ホール効果を示すことを、ファラデー効果という光学現象を利用して観測することに成功した。

ファラデー効果とは磁場中にある物質を透過した光の振動方向(偏光)が回転する現象であり、光アイソレータなどに利用されている。通常、回転角は磁場の強さと物質の厚さに比例する。僅か炭素原子一層のグラフェンでもファラデー回転が観測されたが、回転角は磁場に単純に比例するのではなく、物理学の基本定数である微細構造定数を単位として半整数に対応する跳び跳びの値をとることが観測された。この現象は、直流電気伝導に対する量子ホール効果の“光版”(光学量子ホール効果)と言えるものであり、理論からの期待とも合致する。本研究はグラフェンを、テラヘルツ波の偏光を超高精度で制御する素子など、新しい光エレクトロニクス材料として、しかも低い磁場や室温という普通より緩い条件でも応用する可能性に道を拓くことが期待される。

プレスリリース

論文情報

R. Shimano, G. Yumoto, J. Y. Yoo, R. Matsunaga, S. Tanabe, H. Hibino, T. Morimoto, H. Aoki,
“Quantum Faraday and Kerr rotations in graphene”,
Nature Communications Online Edition: 2013/5/14, doi: 10.1038/ncomms2866.
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