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磁性をデザインする新たな手法を開拓 バンドエンジニアリングと量子閉じ込め効果を用いた磁化制御

掲載日:2017年5月26日

© 2017 田中・大矢研究室(a) 量子井戸層の膜厚が厚い場合、量子閉じ込め効果が弱く、主に磁化容易軸は下の図の赤い領域のように二回対称性をもつ。
(b) (c) 量子井戸層の膜厚を薄くすると、量子閉じ込め効果が強まり、下の図の緑と白の領域のように4回対称性が強まる。

量子閉じ込め効果の強さの変調と磁化容易軸の対称性(状態密度の磁化方向依存性)の変化
(a) 量子井戸層の膜厚が厚い場合、量子閉じ込め効果が弱く、主に磁化容易軸は下の図の赤い領域のように二回対称性をもつ。
(b) (c) 量子井戸層の膜厚を薄くすると、量子閉じ込め効果が強まり、下の図の緑と白の領域のように4回対称性が強まる。

© 2017 田中・大矢研究室

東京大学大学院工学系研究科の宗田伊理也特任研究員(当時)、大矢忍准教授、田中雅明教授らのグループは、バンドエンジニアリング(物質中の電子のエネルギー帯構造を制御する手法)を用いて強磁性薄膜内の磁化の向きやすい方向(磁化容易軸)を人工的に制御する新しいコンセプトを提唱し、実際にそれが実現可能であることを実証しました。

物と物とがネットワークにつながるIoT/IoE社会では、電子デバイスのさらなる低消費電力化が必須です。スピントロニクスは、強磁性体の磁化がもつ不揮発性(電源を供給しなくても状態を維持できる性質)を利用して電子デバイスの低消費電力化の実現を目指す重要な研究分野です。しかし、現在、磁化を反転させる時に必要な電力が大きいため、その消費電力が問題となっています。強磁性を示す材料内の磁化容易軸を人工的に制御することができれば、消費電力を大幅に低減できると期待されます。

研究グループが用いたのはナノメートルの大きさの非常に薄い強磁性薄膜からなる量子井戸と呼ばれる構造です。量子井戸層の膜厚が薄ければ薄いほど、より強く量子効果が働き、電子や正孔(正の電荷をもつ電子の抜け孔)が強く量子井戸薄膜内に閉じ込められます。研究グループは、半導体でありながら強磁性を示すユニークな強磁性半導体GaMnAs(Ga:ガリウム、Mn:マンガン、As:ヒ素)を用いて、膜の厚さが異なり量子閉じ込め効果の強さの異なるGaMnAs量子井戸を有する様々なトンネルダイオード素子を作製しました。磁化を様々な方向に向けた状態でトンネル電流を測定したところ、電圧(正孔のエネルギー)の変化に対して磁化容易軸の方向(厳密には状態密度の磁化方向依存性の対称性)が大きく変化することを初めて見い出しました。また、量子井戸膜厚が薄く量子閉じ込め効果の強い素子ほど、この現象が顕著に現れることが明らかになりました。

本研究は、半導体で培われてきたバンドエンジニアリングの概念を強磁性体に応用したユニークな例であり、新しい磁化の制御方法の実現と、それによる電子デバイスの低消費電力化につながることが期待されます。

「磁化容易軸の制御手法と電界効果を組み合わせることによって、より低い消費電力で磁化を操作できる新しい可能性が生まれると期待しています。」と田中教授は語ります。また「バンドエンジニアリングによる磁性の制御は、ほとんど研究が行われていない未開拓の分野であり、今後、さらなる新たな展開が期待されます」と続けます。

実験を担当した宗田特任研究員は「別のテーマの実験をしている時に偶然発見しました。どんな現象が起きているか、注意深く実験と考察を重ねることで、非常に明確で系統的な結果を導き出すことができました。また今回の研究により強磁性半導体の新しい可能性を引き出すことができたと考えています」と話しています。

論文情報

Iriya Muneta, Toshiki Kanaki, Shinobu Ohya, and Masaaki Tanaka, "Artificial control of the bias-voltage dependence of tunnelling-anisotropic magnetoresistance using quantization in a single-crystal ferromagnet", Nature Communications Online Edition: 2017/05/22 (Japan time), doi:10.1038/ncomms15387.
論文へのリンク(掲載誌UTokyo Repository

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