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電気伝導性と磁性が切り替わる純有機物質の開発 重水素移動が握る物性変換の鍵

掲載日:2014年10月1日

水素結合は、水や氷、DNAやタンパク質中などに存在し、私たちの生命や生活にとって必要不可欠な役割を果たしています。この水素結合を利用して分子やイオンを物質中で上手に連結させると、その物質の誘電性やイオン伝導性を制御したり、ある温度で切り替えたりすることが可能となります。このような水素結合を用いた物性・機能の制御や切り替えは、基礎学術的な観点だけではなく、応用・実用的な観点からも大変興味深いものです。しかし、水素結合を用いた切り替えの成功例はこれまでのところ誘電性など、ごく一部の物性に限られていました。

開発した純有機物質κ-D3(Cat-EDT-TTF)2は、左図の緑色で囲ったCat-EDT-TTF分子が (O???D???O) 水素結合でつながれたユニット構造から構成されている。185K (?88℃)で (O???D???O) 水素結合部における重水素(D)が移動し、これに連動してCat-EDT-TTF 分子間での電子移動が起きることで、2個のCat-EDT-TTF 分子上の電荷のバランスが変化し、結果として電気伝導性(半導体⇔絶縁体)と磁性(常磁性⇔非磁性)が切り替わる。

© 2014 上田 顕
開発した純有機物質κ-D3(Cat-EDT-TTF)2 は、左図の緑色で囲ったCat-EDT-TTF分子が (O???D???O) 水素結合でつながれたユニット構造から構成されている。185K (?88℃)で (O???D???O) 水素結合部における重水素(D)が移動し、これに連動してCat-EDT-TTF 分子間での電子移動が起きることで、2個のCat-EDT-TTF 分子上の電荷のバランスが変化し、結果として電気伝導性(半導体⇔絶縁体)と磁性(常磁性⇔非磁性)が切り替わる。

東京大学物性研究所の上田 顕助教、森 初果教授らの研究グループは、水素結合ダイナミクスを用いて電気伝導性と磁性を同時に切り替えることができる純有機物質の開発に初めて成功しました。そして、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の村上洋一教授、熊井玲児教授、中尾裕則准教授、総合科学研究機構の中尾朗子副主任研究員、岡山理科大学応用物理学科の山本 薫准教授、東邦大学理学部の西尾 豊教授らと共同で、この物性の切り替えが熱による水素結合部の重水素移動と電子移動の相関に基づく新しいスイッチング現象であることを解明し、さらに、重水素を水素の代わりに導入したことがこのスイッチング現象の実現の鍵であることを突き止めました。

このような水素結合を用いた固体電子物性の切り替えは大変珍しい現象です。基礎学術的な観点だけでなく、応用・実用的な観点からも大変興味深く、水素結合を基にした新しいタイプの低分子系純有機スイッチング素子・薄膜デバイスの開発につながると期待されます。本成果の詳細は、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」2014年8月27日号に掲載され、また、同誌のSpotlights(編集者が選ぶ注目論文)に選ばれました。

プレスリリース [PDF]

論文情報

A. Ueda, S. Yamada, T. Isono, H. Kamo, A. Nakao, R. Kumai, H. Nakao, Y. Murakami, K. Yamamoto, Y. Nishio, and H. Mori,
“Hydrogen-Bond-Dynamics-Based Switching of Conductivity and Magnetism: A Phase Transition Caused by Deuterium and Electron Transfer in a Hydrogen-Bonded Purely Organic Conductor Crystal”,
Journal of the American Chemical Society 136, 2014: 12184-12192, doi: 10.1021/ja507132m.
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