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超伝導ナノエレクトロニクスの新機能開拓 空間反転対称性の破れに基づく2次元超伝導ダイオードを実現

掲載日:2017年6月15日

© 2017 若月良平、斎藤優空間反転対称性が破れた系で特定の方向に磁場をかけると一般に整流特性が生じるが、超伝導状態では常伝導状態と比べて大きな整流特性が観測される。

超伝導状態での整流特性
空間反転対称性が破れた系で特定の方向に磁場をかけると一般に整流特性が生じるが、超伝導状態では常伝導状態と比べて大きな整流特性が観測される。
© 2017 若月良平、斎藤優

東京大学大学院工学系研究科の若月良平 大学院生、斎藤優大学院生、同研究科の岩佐義宏教授(理化学研究所創発物性科学研究センターチームリーダー兼任)、永長直人教授(理化学研究所創発物性科学研究センター副センター長兼任)らの研究グループは、原子膜材料である二硫化モリブデン(MoS2)の電気二重層トランジスタ構造を用いて空間反転対称性の破れた2次元超伝導体では、特定の方向に磁場を印加した状況で整流特性(ダイオード特性)を示すことを世界で初めて発見しました。この結果は、次世代の超伝導ナノエレクトロニクス材料の機能開拓をしていく上で重要な知見を与えるものと期待されます。

超伝導は電気抵抗がゼロになる現象で省エネルギーにつながる次世代の技術として期待され、基礎及び応用的な面から世界中で研究されています。特に超伝導体の集積化は、超伝導量子ビットなど次世代のコンピューティングシステムで非常に重要な役割を担うと予測され、こうした超伝導体の集積化において超伝導ナノエレクトロニクスの新機能の開拓が広く求められています。特に整流性を持つ超伝導体、すなわち超伝導ダイオードを実現することは超伝導ナノエレクトロニクスの発展の上で極めて重要になっています。こうした中、空間反転対称性が破れた常伝導体結晶では、整流性を持つことが最近の研究で明らかにある一方、空間反転対称性の破れた超伝導体の整流性の研究は今まで行われていませんでした。

今回研究グループは、原子膜材料の一種である層状物質、二硫化モリブデン(MoS2)の高品質な単結晶を用いて、電界効果トランジスタの一種である電気二重層トランジスタ(EDLT)構造を製作しました。この構造では、超強電界によって誘起された電子の集団がMoS2の単結晶表面に蓄積できるため、原子層1層分の厚さの、極めて薄い、究極の2次元超伝導を人工的に実現することが可能です。本研究では、作製したMoS2-EDLTデバイスの面直方向に磁場をかけた状態での電気伝導特性を測定しました。電気抵抗の倍周波成分を測定することで整流特性を調べた結果、超伝導状態で極めて大きい整流特性が観測されました。

また、超伝導揺らぎ電流の理論計算によって、常伝導相と比べて整流特性が飛躍的に大きくなることを説明し、さらに、一般に空間反転対称性の破れた超伝導体においてそのような整流特性の増大が起き得ることを示しました。

「今回の研究成果で発見した、整流特性や電流の非線形応答は、空間反転対称性が破れた超伝導体に普遍的な現象であると考えられます。」と永長教授は話します。「空間反転対称性が破れた2次元超伝導という新たな学術分野を切り開く礎となるだけでなく、超伝導ナノエレクトロニクスの機能開拓へ向けた一歩となることが期待されます」と続けます。

プレスリリース

論文情報

Ryohei Wakatsuki, Yu Saito, Shintaro Hoshino, Yuki M. Itahashi, Toshiya Ideue, Motohiko Ezawa, Yoshihiro Iwasa, and Naoto Nagaosa, "Nonreciprocal charge transport in noncentrosymmetric superconductors", Science Advances Online Edition: 2017/04/21 (Japan time), doi:10.1126/sciadv.1602390.
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