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強相関絶縁体における歪み誘起磁化の起源を解明 歪みによって強相関電子のスピン及び軌道(電子雲の形)の整列現象を制御

掲載日:2013年8月28日

東京大学大学院工学系研究科の藤岡 淳 助教、十倉 好紀 教授らの研究グループは、本来磁性を持たない物質として知られる強相関電子系LaCoO3を薄膜化して歪みをかけることで生じる自発磁化が、電子の持つスピン・軌道の整列現象に起因することを明らかにしました。

© Jun Fujioka, スピン・軌道秩序パターンの一例。矢印、ローブはそれぞれ電子のスピン、軌道を表す。実線はCoの結晶格子を表す。

電子同士が強く相互作用し合う強相関電子系と呼ばれる物質群においては、ナノメートルスケールの電子の自己組織化が広く観測されています。電子の集団的量子現象の身近な例として磁石で見られる磁化の発現が挙げられます。ミクロに見るとこれは電子の内部自由度であるスピンの整列現象(秩序化)として理解されています。物質の温度、電子のバンドの充填度やバンド幅を変えることでこの整列現象が生じることはよく知られていました。

今回、研究グループは上記の方法とは異なり、もともと磁性を持たない物質でも歪みをかけることで電子の持つ内部自由度であるスピン・軌道自由度の整列現象が生じて磁化が生じ得ることを明らかにしました。具体的には、物質を構成しているイオンのスピン状態がわずかな結晶歪みによって変化してスピンの整列現象が引き起こされていることを突き止めました。イオンの持つスピン状態を操ることで電子の内部自由度の整列現象を制御するという手法はこれまであまり認識されておらず、新規な量子現象の開拓やスピントロニクス機能性の開拓に大きく寄与することが期待されます。

本研究は、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の山崎 裕一 助教、中尾 裕則 准教授、熊井 玲児 教授、村上 洋一 教授らと共同で、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)課題名「強相関量子科学」(中心研究者:十倉 好紀)の事業の一環として行われました。またこの成果は、2013年7月9日(米国東部時間)に米国科学誌「Physical Review Letters」のオンライン版(7月12日号)で公開されました。

プレスリリース

論文情報

J. Fujioka, Y. Yamasaki, H. Nakao, R. Kumai, Y. Murakami, M. Nakamura, M. Kawasaki, and Y. Tokura,
“Spin-Orbital Superstructure in Strained Ferrimagnetic Perovskite Cobalt Oxide”,
Physical Review Letters Online Edition: 2013/7/9, doi: 10.1103/PhysRevLett.111.027206.
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