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Research News

ヒトの運動記憶を人工的に操作することに成功

運動学習中の脳の状態によって形成・想起される運動記憶

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教育学研究科・教育学部
2016/09/23

© 2016 Daichi Nozaki.異なる極性のtDCS刺激を加えながら、右向き・左向きの力がかかる状況で前方に腕を動かす運動を繰り返す(上パネル)。十分な訓練の後、再度腕を前方に動かそうとする際にtDCS刺激を加えると、その極性に関連づけて学習された腕の運動が自動的に蘇る(下パネル)。

脳の状態によって運動記憶が作られ、蘇る
異なる極性のtDCS刺激を加えながら、右向き・左向きの力がかかる状況で前方に腕を動かす運動を繰り返す(上パネル)。十分な訓練の後、再度腕を前方に動かそうとする際にtDCS刺激を加えると、その極性に関連づけて学習された腕の運動が自動的に蘇る(下パネル)。
© 2016 Daichi Nozaki.

東京大学大学院教育学研究科の野崎大地教授らは、ヒトの運動の学習に関わる「運動記憶」が、トレーニングを行うときの脳の状態に応じて作られることを明らかにしました。本成果は、脳の状態を操作した状態でのトレーニング法、特にアスリートの効率的なトレーニング手法や運動麻痺からのリハビリテーション手法などに応用することが可能であり、それらへの応用が期待されます。

ある場所を久しぶりに訪れると、そこでの思い出が突如蘇ってきたという経験があるかもしれません。このように、記憶が状況(文脈)によって形成・想起されることはよく知られています。最近の研究から「運動記憶」についても、同様な文脈依存性があることが分かってきています。例えば、同じ腕を動かす動きであっても、反対側の腕が動いているかどうかに応じて、それぞれ異なる運動記憶が形成されることが明らかになっています。しかし、このような運動記憶の文脈依存性を生み出すメカニズムについてはよく分かっていませんでした。

研究グループは、特定の運動を学習するときの脳の状態が異なっていれば、脳の状態ごとに別々の運動記憶が形成されるのではないかという仮説を検証しました。実験の参加者には、ハンドルを握ったまま腕を前方へ運かす運動、ただし、ハンドルには左向きあるいは右向きの力がかかるため、ハンドルを前方に動かすのは容易ではなく運動学習を必要とする課題を課しました。この課題を訓練する際、頭皮上に電極を配置して、一次運動野と呼ばれる脳の運動記憶の形成に中心的な役割を果たす領域に、二つの異なる電流刺激(陽極もしくは陰極の極性を持つ刺激)を加えることにより二つの状態を作り出します(この刺激方法は経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)と呼ばれています)。この訓練では、ハンドルにかかる力の方向とtDCSの極性が必ず一対一に対応するようにしました。十分な訓練によって運動学習が成立した後、参加者が学習した腕の運動を行おうとするときに、tDCSを加えて学習時の脳の状態を再現すると、ハンドルに左右の力がかかっていないにも関わらず、たとえば、右向きの力がかかっている状態で陽極のtDCS刺激を受けて運動を学習した場合には、陽極のtDCS刺激によって腕を左に押そうとする運動が観察され、極性に対応した運動記憶が自動的に蘇ってくることを示しました。

本結果は、人工的に作り出した二つの脳状態に応じて、参加者も気づかないうちに別々の運動記憶が形成されること、そして一旦運動記憶が作られれば、脳の状態を変えるだけでその状態に応じた運動記憶が呼び起こされることを示しています。つまり、運動学習およびその学習効果を発揮するときに脳の状態を同じように整えることがいかに大事であるかが明らかにされたと同時に、ヒトの運動記憶を人工的に外側から操作できることを示したものです。

野崎教授は「私たちの仮説通りとはいえ、tDCSの異なる極性に対応して運動記憶が見事に蘇ってくるデータを見たときは非常に驚きました」と話します。「今後は実践的なトレーニング方法としての応用を目指したい」と今後の展望を続けます。

論文情報

Daichi Nozaki, Atsushi Yokoi, Takahiro Kimura, Masaya Hirashima, Jean-Jacques Orban de Xivry, "Tagging motor memories with transcranial direct current stimulation allows later artificially-controlled retrieval", eLife Online Edition: 2016/07/29 (Japan time), doi:10.7554/eLife.15378.
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