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Research News

細胞内シグナリングの多重通信システム

インスリン時間波形による選択的制御システムを解明

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理学系研究科・理学部
2012/06/11

AKT経路によるインスリンの多重通信システム3つの血中インスリンの波形の情報は多重にAKTの時間波形に埋め込まれる(青:基礎分泌、赤:追加分泌、緑:15分の刺激)。AKTの下流のS6K、GSK3β、G6Paseは分子の制御構造や酵素の性質の違いにより、AKTに埋め込まれた多重の情報をそれぞれ選択的に取りだして応答している(矢印の太さが応答のし易さを表現している)。これにより、S6Kは追加分泌のみに、GSK3βは全ての波形に、G6Paseは追加分泌と基礎分泌に応答することができる。c Shinya Kuroda

生体内におけるインスリンの分泌には、食後に一過的に分泌される追加分泌や空腹時にも微量に分泌される基礎分泌、そして15分程度の周期的分泌などがあり、血中インスリンの量は複数の時間波形成分からなることが知られている(図1、下図左)。また、糖尿病の初期では追加分泌量が減少する一方で基礎分泌量が増加することや、糖尿病患者では15分周期の振動成分が欠失していることが報告されている。さらに、インスリンの15分程度の周期的刺激は、一定刺激よりも肝臓からの糖新生抑制や筋肉などによる糖の取り込み促進の効果が強いことが報告されている。肝臓の糖新生や筋肉の糖の取り込み制御は血糖値の制御に非常に重要である。以上のように、インスリン波形の生理的重要性はいくつも報告されているが、同じインスリンの分泌が選択的に生理作用を制御する分子メカニズムは不明であった。

東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻の黒田真也教授らの研究グループは、実験とシミュレーションを用いた解析により、複数のインスリンの波形の情報がシグナル伝達経路(注1)の一つであるAKT経路(注2)を介して多重に通信され、下流の分子を選択的に制御できることを明らかにした。つまり、生物が多彩な外界の変化の情報を分子の時間波形に埋め込み、多重通信による選択的応答システムを用いて処理し、多彩な応答を制御している可能性を見出した。現在の生物学では分子そのものが生物の多様な応答を制御する機能をもつと考えられてきたが、本研究により、分子の活性や量などの時間変化(波形)によっても生物の多様な応答を制御できることが明らかになった。

将来的にはモデル動物などを用いて検証を行い、糖尿病において効果的な投薬治療の設計や、15分程度の周期波形の生体内での作用メカニズムの解明にも繋がると考えている。また、糖尿病の初期によく観察される従来の生物学・医学ではうまく説明できない矛盾、つまりインスリンに対する応答性の低下により肝臓からの糖の放出が十分に抑制されず高血糖になる一方で、インスリンを利用する脂肪の合成が促進され脂肪肝になる現象の解明も期待される。

(注1)シグナル伝達(Signal transduction)…細胞外のホルモンや成長因子、栄養などの環境変化の情報は受容体などを介して細胞内に伝わっていき、最終的に細胞の応答を導く。細胞内に情報を伝える経路はシグナル伝達経路と呼ばれ、一般にリン酸化酵素などによる連鎖的な生化学反応によって構成されている。

(注2) AKT経路(AKT pathway)…細胞内シグナル伝達経路の一つ。主に、細胞の増殖・成長を制御している。特に肝臓・筋肉・脂肪などのインスリンの標的細胞では、インスリン刺激により活性化され、糖や脂質の代謝、タンパク質合成を制御している。

プレスリリース

論文情報

Hiroyuki Kubota, Rei Noguchi, Yu Toyoshima, Yu-ichi Ozaki, Shinsuke Uda, Kanako Watanabe, Wataru Ogawa, and Shinya Kuroda,
“Temporal Coding of Insulin Action through Multiplexing of the AKT Pathway”,
Molecular Cell46 June 2012: 1-13, doi: 10.1016/j.molcel.2012.04.018.
論文へのリンク

リンク

大学院理学系研究科

生物情報科学科

生物化学専攻

Kuroda Lab(黒田研究室)

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