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計測信号の時間ゆらぎの発見によりヒト脳計測の精度が飛躍的に向上 脳情報処理の解明および脳神経活動・脳血管状態の分離観測による医療応用へ

掲載日:2013年10月29日

近年のヒトの脳機能に関する発見の多くは磁気共鳴機能画像法(fMRI:functional Magnetic Resonance Imaging)を用いた成果によるものと言えます。fMRIは脳を傷つけることなく外側から(非侵襲的に)脳内の酸素濃度の変化を計測して、神経の活動を観測する装置です。しかし、神経活動はミリ秒単位で起こる一方で現在のfMRIは秒レベルの信号を観測しているため、時間的な精度(時間解像度)の向上が期待されています。また、fMRIは数ミリレベルの空間的な精度(空間解像度)ももちますが、脳の微細な構造を理解する上では空間的な解像度の向上も欠かせません。

© Masataka Watanabe, 二つの隣接する視覚刺激に対応する脳活動(赤と緑)左上:後期酸素濃度上昇成分を用いての解析 左下:後期酸素濃度上昇成分の時間ゆらぎを用いて抽出した初期酸素濃度下降成分を用いての解析 右:二つの成分の空間的広がりの様子

現在のfMRIの時空間解像度の限界には、観測している信号の種類が関係しています。神経活動の上昇に伴う酸素濃度の変化を反映する信号が2つ(「初期酸素濃度下降成分」と「後期酸素濃度上昇成分」)あると言われています。「初期酸素濃度下降成分」は鋭く変化する信号で神経活動を直接的に反映しています。一方で「後期酸素濃度上昇成分」は緩やかに変化する信号で、神経活動を受けての脳血管系の反応を捉えたものです。現在のfMRI計測は鋭く変化する「初期酸素濃度下降成分」の観測が困難なため、緩やかに変化する「後期酸素濃度上昇成分」に基づいており、「初期酸素濃度下降成分」を抽出できるようになれば、fMRIの時空間解像度の向上が見込めます。

今回、東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻の渡辺正峰准教授らは、fMRIの「後期酸素濃度上昇成分」が数秒程度の「時間ゆらぎ」をもつことを発見し、これが「初期酸素濃度下降成分」の観測を困難にしていることを突き止めました。そして、「時間ゆらぎ」を踏まえた新たな解析手法を開発し、「初期酸素濃度下降成分」を高い信頼性をもって抽出することに成功しました。「時間ゆらぎ」を利用した解析により、原理的には100ミリ秒の時間遅れ、そして100μm(マイクロメートル)の空間解像度まで測定限界を引き上げられるようになります。本研究の成果により、fMRIを用いてより時空間解像度の高い脳機能の測定が可能になれば、これまでの数ミリ単位の計測から得られた「脳活動地図」を越えて、ヒトの脳の微細機能構造に迫ることにより、 言語・論理・直感などの高次脳機能の解明へつながると期待されます。

本研究成果は、2013年10月17日12時(米国東部時間)に「Current Biology 」誌のオンライン速報版で公開されました。

プレスリリース

論文情報

Masataka Watanabe, Andreas Bartels, Jakob Macke, Yusuke Murayama, Nikos Logothetis,
“Temporal jitter of the BOLD signal reveals a reliable initial dip and improved spatial resolution”,
Current Biology Online Edition: 2013/10/17 (EST), doi: 10.1016/j.cub.2013.08.057.
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