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究極の2次元超伝導体の物理 乱れのない原子層レベルの厚さの超伝導体の量子状態を解明

掲載日:2015年10月7日

© 2015 斎藤 優下の図は、イオン液体をZrNCl上に乗せた電気二重層トランジスタ構造に表面に電場が加わっている様子を表している。イオン液体中の陽イオンはZrNCl表面に配列しているため、ZrNCl表面1-2層(1-2ナノメートル)には電子が誘起され、この領域で超伝導が現れる。上の図は、その超伝導体に磁場を加えた状態での磁束の動きを表している。極低温においても磁場中では量子揺らぎによって磁束が動き続けるため、有限の抵抗が発生し、超伝導状態は実現しない様子を表している。

ZrNCl電気二重層トランジスタと量子揺らぎによる磁束の動き
下の図は、イオン液体をZrNCl上に乗せた電気二重層トランジスタ構造に表面に電場が加わっている様子を表している。イオン液体中の陽イオンはZrNCl表面に配列しているため、ZrNCl表面1-2層(1-2ナノメートル)には電子が誘起され、この領域で超伝導が現れる。上の図は、その超伝導体に磁場を加えた状態での磁束の動きを表している。極低温においても磁場中では量子揺らぎによって磁束が動き続けるため、有限の抵抗が発生し、超伝導状態は実現しない様子を表している。
© 2015 斎藤 優

東京大学大学院工学系研究科の岩佐義宏 教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー)、同研究科の斎藤優 大学院生らの研究グループは、乱れが極めて少ない理想的な2次元超伝導体は、磁場が加えられた状態では量子ゆらぎによってその超伝導状態を維持できないことを明らかにしました。この結果は、今後、次世代のナノエレクトロニクスの材料の研究・開発していく上で重要な知見となるものと期待されます。

超伝導体はリニアモーターカーや核磁気共鳴(NMR)などに用いられる先端的な材料として、世界中で応用研究が盛んに行われています。特に近年のナノエレクトロニクスの発展に伴い、ナノ材料としての側面を持つ超伝導薄膜や超伝導細線の研究が注目を集めています。このうち超伝導薄膜の研究は、1970年代から続いていますが、その対象物質はビスマス薄膜などの非晶質、または不純物や欠陥を多く含む金属蒸着膜であったため、乱れの少ない理想的な2次元超伝導体が本来持つ性質は未だに明らかになっていませんでした。

 

本研究グループは、セラミック半導体の一種であり、原子膜材料である層状窒化物・塩化窒化ジルコニウム(ZrNCl)の高品質な単結晶をスコッチテープではがして(劈開)、不純物の極めて少ない薄膜を作製しました。そして、イオン液体を絶縁層として用いる電気二重層トランジスタ構造を形成することにより、原子層レベルの厚みを持ち、乱れの極めて少ない究極の2次元超伝導体が発現することを見出しました。さらにこの超伝導体に磁場を加えた場合の性質を詳細に調べた結果、乱れが極めて少ない超高品質の2次元超伝導体は、磁場下において極低温であっても量子ゆらぎによって磁束が動き続けるために、その超伝導状態(電気抵抗ゼロの状態)を維持できず、金属的な状態になることが明らかになりました。

 

今回の研究成果は、「今後、界面で起こる超伝導に特有の対称性の破れといった、電界効果による2次元超伝導体のさらに新しい性質を解明していく上での礎となるだけでなく、微細可能した2次元超伝導体を用いたナノデバイスへの応用につながると期待されています」と岩佐教授は話します。

本研究成果は、米国科学雑誌『Science』のオンライン速報版(ScienceXpress 2015年10月1日版)にて公開されました。

プレスリリース

論文情報

Yu Saito, Yuichi Kasahara, Jianting Ye, Yoshihiro Iwasa, Tsutomu Nojima, "Metallic ground state in an ion-gated two-dimensional superconductor", Science 2015/10/02: Online Edition (Japan time), doi:10.1126/science.1259440.
論文へのリンク(掲載誌

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