【Campus Voice】女子中高生のための東大工学部紹介「Tech Girl Meetup 2022」イベントレポート

突然ですが、中高生の皆さんはこんな思いを抱いたことはありませんか?「大学には行きたいけど、そもそも大学で何を学べるのか分からない」「興味を持ってる分野はあるけど、それって大学で深められるのかな」…そんな皆さんにおすすめしたいのが、オープンキャンパスへの参加。大学の雰囲気を知ることができるだけでなく、大学での学びやその先について考える良い機会になりますよ!

8月3日にオンラインで開催された「Tech Girl Meetup 2022」では、全国の女子中高生に向けて、東大で学べることや工学部での研究生活などについての紹介が行われました。工学と聞くと難しそうな学問というイメージがあるかもしれませんが、実はとても裾野が広く、様々なことを探求できる学問なんです。

今回は、イベントの様子をレポートでお届けします。文系の方や工学がよく分からないという方も十分に楽しめる内容なので、ご心配なく。一緒に工学の奥深さに触れてみましょう!


2022.8.3
リポート/学生ライター
八尾 佳凜(教養学部4年)

1.挨拶(工学部長 染谷 隆夫先生)

はじめに、工学部長の染谷隆夫先生から、工学という学問の特徴についてお話がありました。工学は数学と自然科学を基礎とし、人類の安全のために新しい物事を作り出す学問分野です。工学は私たちの生活を豊かで健康なものにしてきましたが、グローバル化や気候変動など、現代社会の抱える課題は複雑化しています。

このような中、どのような職業や研究分野でもSTEM人材※1が強く求められています。工学部卒業後は、研究者だけでなく、産業界や官公庁をはじめ幅広いキャリアを築いている人が多くいます。

※1:STEMとは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の4つの教育分野を総称した言葉。STEM人材は、これらを学んだいわゆる理系人材のことを指します。

2.趣旨説明(工学系男女共同参画委員会委員長 片山 浩之先生)

続いて、工学系男女共同参画委員会委員長の片山浩之先生が、工学部の魅力を3点紹介しました。

[1] 海図なき世界を生き抜く力が身につくこと。
 価値観や産業・社会構造の揺らぎが大きい現代では、物事を分析し本質を見抜く力を磨くことが求められています。

[2] 幅広い業種や分野で活躍できること。
 工学部HPでは卒業生の活躍をWEB冊子で公開しているので、ぜひ見てみてくださいね。

[3] とにかく楽しいこと!
 研究をする中で、一生繋がる仲間ができます。詳しい研究内容については、工学部の若手研究者にスポットライトを当てた動画を参照してみてください。

では、実際に工学部の教員や卒業生、学生たちにお話を伺ってみましょう。

3. 講演1「分子1個を見て、調べて、化学する」(応用化学科 数間 恵弥子先生)

1人目の登壇者は、応用化学科の数間恵弥子先生。数間先生の研究分野は、物理化学と分析化学の融合分野で、走査トンネル顕微鏡(STM)と呼ばれる特殊な顕微鏡を用いて分子の性質や反応を調べています。
図1.STMで観察した分子の様子

なぜ個々の分子を研究?

分子は化学結合を持つ最も小さい単位物質であり、物質を形成するビルディングブロックのようなもの。ひとつの集団でも、個人の仲の良さによってお互いの距離が異なるように、物質は分子が置かれている状況や局所的な環境に極めて敏感なのです。例えば、銀(Ag)の表面に付着した酸素分子ひとつをとっても、配向(分子の分布や配列のようなもの)が違えば下地の銀からの影響も変わるので、見え方や反応性が異なるといいます。これは触媒の研究にも応用可能で、化学結合の本質を理解することに繋がるそうです…!

なぜ研究の道へ?

高校時代、数学が好きで国語は苦手ということもあり、理系への進学を決めた数間先生。大学院で東京大学に進学し、光エネルギー変換技術に興味を持ち、そのまま博士課程へ進むことを決めました。その後、これまでとは全く異なるアプローチで化学反応の解明に挑む必要があると考え、理化学研究所での研究を決意しました。

数間先生からは、やりたいことが既にある人はそれを追求し、まだ見つかっていない人も焦らず勉強を続けてほしいとのメッセージがありました。東大では様々な学問に触れてから学部を決定できるので、後者に当てはまる人にはぜひ進路の選択肢に入れてもらいたいです!

4. 講演2「水インフラを民間から支える私、母である私、楽しく生きたい私」(メタウォーター株式会社 柴田(大内) 智世さん)

2人目の登壇者は、工学部卒業後、民間企業に就職し、現在入社8年目を迎えた柴田智世さんです。理科二類から進学し、修士課程まで東大で学びました。現在は、1児の母として仕事と家庭を両立しています。

大学進学から就職まで

両親からは、地元の国立大学医学部への進学を期待されていたという柴田さん。しかし医学以外の分野を希望するも進学先を決めきれなかったこと 、上京したかったことから、 東大受験を決めました。入学後は理科二類に所属しながら、考古学や現地実習等 、文理問わず横断的に 学べる環境を楽しんだといいます。

後期課程への進学の際は、社会と関わりのある実学を学びたいという思いがあり、特に自分の口に入るものに関心があったため、水について工学的な視点から学べる 工学部都市工学科へ。周囲で就職活動が本格化していた学部3年の頃に、まだ水について何も研究ができていないのはもったいないと感じ、就職ではなく、修士課程への進学を決めたそうです。

その後、民間企業で水の官民連携事業に携わりたいと思った柴田さんは、仕事を長く続けつつ、 家庭を持ち、プライベートも楽しめる職場を探した結果、現在の会社にたどり着きました。

今はどんなお仕事を?

宮城県に 上水・工水・下水道事業を運営する会社を立ち上げ、兼務出向し、経営企画の業務を行っています。夫婦で家事育児を対等に行っており、宮城県への引越しや単身赴任が難しかったことから、東京でのテレワークを活用しながら、月に数回、宮城県へ出張するという働き方をしています。 工学部での水質調査のマネジメントや研究をやり抜いた経験は、今でも自分の仕事のベースになっているといいます。

柴田さんからは、工学部では研究者以外の進路がないということはなく、多様な就職先があるので、安心して、やりたいことや自分の望む生き方を見つけてほしいとのアドバイスがありました!

5. 講演3「私が工学部生になるまで」(電気電子工学科4年 三室 真帆さん)

3人目の登壇者は、理科一類入学後、電気電子工学科に進学した三室真帆さん。工学部に進学した理由や、学生生活の魅力を教えてくれました。

なぜ電気電子工学科へ?

高校の頃から数学や化学が好きだったものの、家族や親戚に理系がおらず、将来やりたいことがはっきりと分からなかったという三室さん。ある日、Google本社でプログラミングを教えてもらう機会があり、情報系の仕事への憧れが生まれました。

元々物理が苦手で、特に電磁気が嫌いだったため、入学当初は電気電子工学科への進学は全く視野に入れていなかったとのこと。しかし、学部ガイダンスや先輩の話を聞き、情報系もデバイス系も学べるという点に魅力を感じ、電気電子工学科への進学を決意しました。

電気電子工学科での学生生活ってどんな感じ?

実は、進学後の授業で、自分が情報系に向いていないことに気づいたという三室さん。半導体や回路などについて勉強するうちに、今度はデバイスへの興味が広がり、その中でも医療デバイスへの関心が高まったとか。現在は染谷研究室に所属し、肌に貼れる薄型金属デバイスで、生体情報の長時間計測を行っています。

現在の学生生活はこんな感じ。学科に入る前は、勉強漬けの毎日になると考えていましたが、ほとんどの人はサークルやバイトと学業を両立しており、助け合ったり議論したりしながら研究を進めていて、良い意味で裏切られたそうです。
三室さんは、目標は初めから決まってなくても、途中で変えても大丈夫だといいます。壁にぶつかり、そこから新たな道を見出した三室さんの言葉には説得力がありますね…!

6. 講演4「工学部で見つける、新しい夢の叶え方」(システム創成学専攻博士課程3年 石田 美月さん)

4人目の登壇者は、文科三類入学後、理転して工学部システム創成学科に進み、現在博士課程在学中の石田美月さんです。進路を選んだ理由に加え、東大で研究することの魅力も紹介してくれました。

なぜ理転を?

中高生の頃は社会科が大好きで、海外に対する猛烈な憧れがあったという石田さん。世界では限りある資源をめぐって争いが起きていることを聞いて、国連などの国際組織に入りたいと思っていました。東京大学への入学後、理転のきっかけとなったのは、工学部の教員から授業で聞いた話でした。資源をめぐる争いは、「新たな資源の発見」という形で解決可能であることに気が付き、そのための科学技術について学びたいとの思いに至りました。

数学が苦手で不安はあったものの、無事工学部システム創成学科のAコース(環境・エネルギーシステムコース)に進学。学科の雰囲気は和気藹々として非常に楽しく、商社、メーカー、ベンチャー、官僚など 様々な進路を選ぶ友人の存在が一生ものの財産になったそうです…! 

研究の魅力って?

石田さんは博士課程の最終学年ということで、東大で研究することの魅力についても語っています。充実した研究設備はもちろん、東大独自のネットワークのおかげで鉱山内部でのフィールドワークなど 貴重な経験ができたといいます。また、石田さんは様々な大学の支援制度も活用してきました。海外武者修行プログラムでは1ヶ月チリ大学で共同研究を行い、アメリカでの企業の視察研修にも参加したとか。

現在は、鉱山の形成過程を解明し、未知の資源の分布を予測する研究に取り組んでいます。新たな国内金鉱山を発見・開発し、日本を再び黄金の国ジパングにしたいという野望を持っています!
 

石田さんからは、夢の叶え方は1つではないので、選択肢をなるべく狭めないでほしいとのメッセージがありました。工学部は科学技術によって自分達が世界を変えるという野心を持った人が集まる場所でもあるので、ぜひ進学を検討してほしいとのこと!

7. 談話会

講演会の後にはブレイクアウトルームに分かれて、参加者の質問に教員と学⽣が答えました。いくつかの質問と回答をご紹介するのでぜひ参考にしてください。

理学部で学ぶ化学と工学部で学ぶ化学にはどのような違いがあるの?

おおまかなイメージですが、研究内容を社会の役に立てたいなら工学部、純粋に化学自体を学びたいなら理学部という感じですね。

研究したいことはどうやって見つけたの?

Fさん:私はそもそもやりたいことが見つかっていなかったので東大を受験しました。前期課程の授業で、ものづくりが楽しいと感じ、機械工学を選びました。そこから、人間に関わるものを研究したいと思い、脳関連の研究に。幅広く学ぶうちに絞られていったというイメージですね。
Hさん:入学時は決めてなかったのですが、物理に関わることをなんとなくやりたいと思って自分で調べました。理学部だと理論が中心、工学部は理論をもとに手を動かすことが多いので、自身は頭より手を使いたいと感じ、工学部に進みました。

工学部は女子が少ないけど、女子校出身でも大丈夫?

最初は女子とつるむことが多かったけど、次第に男子ともうまくやっていけるようになりました!女子が少ないからといって差別されることはないし、学部内にサポート体制もありますよ。

最後に

いかがでしたか?工学部の中には様々な分野があり、みなさん自分の興味にあった分野で研究を進めていることが伝わってきましたね!最初から何か興味分野が決まっていなくても、途中から変えても受け入れられる、そんな工学部の多様性が、特に印象的でした。レポートを読んでくれた中高生の皆さんが工学部に興味を持ち、自分の将来を少し立ち止まって考えてくれたら幸いです。
 
最後まで読んでいただきありがとうございました。