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研究成果「インターネット通信性能で世界最高を達成」研究成果

研究成果「インターネット通信性能で世界最高を達成」

東京大学大学院情報理工学系研究科
平木 敬

2004年11月15日-東京大学とWIDEプロジェクトの研究者が日本、カナダ、米国、オランダとCERN研究所(スイス・ジュネーブ)の研究者との協力により、米国ピッツバーグから日本を経由してスイス・ジュネーブから日本を経由してスイス・ジュネーブまでの世界最長の10ギガビット回線を構築し、ピッツバーグのSC2004国際会議会場に設置された東京大学のシステムからCERN研究所に設置された東京大学のシステム間を接続し、TCPによる高速通信実験を実施しました。ネットワークの全長は約31,248Kmあり、17のタイムゾーンを通過しています。

実験では、一個のTCPストリームだけを用いて、7.21ギガビット/秒のデータ転送を実現しました。データ転送は1500バイトの標準イーサネットフレーム長を用い、20分間行いました。

この国際協調プロジェクトは、研究と教育における国際ネットワーキングの世界を拡大し、新しい国際共同研究の基礎となるものです。

今回実現したネットワークは、10Gigabit イーサネット WAN PHY 技術と OC-192POS 技術を組み合わせて用いることにより、CERN研究所の計算機とピッツバーグの計算機を直結しています。ピッツバーグのSC2004国際会議会場に設置された東京大学の計算機から、SC2004国際会議会場ネットワークっであるSCinetを経由し、Abilene によりシカゴの StarLight を経由して APAN/JGN2 ネットワークで東京に到達し、WIDE Project が運用する T-LEX に接続し、T-LEX から米国シアトルまでは TycoTelecommunication が IEEAF に寄贈した回線が用い、Pacific NorthwestGigapop の機器に接続しました。シアトルからは、回線は CA*net4 の専用のラムダによってシカゴの StarLight まで運ばれました。 StarLight では SURFnet シカゴ-アムステルダム間のラムダに接続されて、アムステルダムの NetherLight に接続されました。NetherLight と CERN研究所の間は、SURFnet のアムステルダム-ジュネーブのラムダによって接続されています。(

単一ストリームのTCP転送実験は、1組の Chelsio T110  10Gigabit イーサネットインタフェースカードを実装した AMD Opteron プロセッサを用いたサーバ間で実施され、7.21Gbps の実質データ転送速度を得ました。実験で用いたパケット長は、イーサネット標準パケット長である1500バイトです。ネットワークにおけるバンド幅・距離積は225,298テラビット キロメートル/秒です。実現したデータ転送速度を用いると、1台のパソコンと1枚のネットワークカードを用いて、DVD一枚が約5.5秒で世界の何処にでも転送できる速度であることを意味しています。

7.21Gbps の長距離データ転送速度は、標準パケット長を用いたTCPシングルストリームの転送速度として世界最高速である225,298テラビット キロメートル/秒のバンド幅・距離積であり、従来の記録(Internet Land Speed Record)の124,935テラビット キロメートル/秒を80%越しています。

また、データレゼボワールシステムは、1台のOpteron サーバを使用することにより、1.6Gbps のディスク間転送を達成しました。これは、200MB/s の能力を持つサーバが容易に実現できたことを示しました。

この高速TCP通信技術は、東京大学のデータレゼボワール/GRAPE-DR プロジェクトにより、長距離高バンド幅ネットワークにおける大量データのTCP通信の最適化研究やデータ共有システム研究に用いられます。TCP技術は、科学技術データの転送だけでなく、インターネットを用いたウェブページアクセスや、音楽・画像ファイル転送に広く用いられている方法であるため、高速TCPの実現は、より地球を更に狭くする情報化社会の実現に貢献します。

なお、本実験はSC2004国際会議におけるバンド幅チャレンジの一環として実施し、シングルストリームTCP通信において世界記録を達成したことにより Land Speed Record 賞を受賞しました。本プロジェクトは本賞を3年連続で受賞しています。

なお、本成果は、科学技術振興調整費「重要課題解決型研究等の推進」プログラムの実施課題「分散共有型研究データ利用基盤の整備」によるものです。本実験をサポートして頂いたNTTコミュニケーションズ、東京大学情報基盤センターに感謝します。

この実験は、次の企業による機材の提供やサポートを得て実現されました:Foundry Networks、Juniper Networks、物産ネットワークス、及びネットワンシステムズ。

矢印 矢印 矢印 [PDFファイル 727KB]

 

実験参加者

東京大学 平木 敬、稲葉真理、中村 誠、玉造潤史、青嶋奈緒、西村 亮
(株)富士通コンピュータテクノロジーズ 来栖竜太郎、坂元眞和、古川裕希、生田祐吉
WIDEプロジェクト 加藤 朗、山本成一
NTTコミュニケーションズ 長谷部克幸、村上満雄、梶尾美由紀
チェルシオ・コミュニケーションズ(米国) Felix Marti、Wael Noueddine

ネットワーク担当機関
 APAN
 JGN2
 IEEAF
 Tyco Telecommunications
 Northwest Giga Pop
 CANARIE
 StarLight
 SCinet
 SURFnet
 SARA
            Pieter de Boer
 University of Amsterdam
            Gees de Laat
            Paola Grosso
            Freek Dijkstra
 CERN
            Catalin Meirosu


東京大学データレゼボワール/GRAPE-DR プロジェクトは文部科学省科学技術振興調整費に基づいた研究プロジェクトで、科学技術データの国際的な共有システムの構築および天文学や物理学、生命科学のシミュレーションを実施する高速計算エンジンの実現を目指しています。GRAPE-DR プロジェクトでは2008年に2PFLOPS の計算エンジンと数 10Gbps のネットワークを利用する国際的な研究基盤を構築します。詳細は
http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/ および
http://grape-dr.adm.u-tokyo.ac.jp/ をご覧下さい。

WIDE Project は、インターネットに関連する各種技術の実践的な研究開発を行う研究プロジェクトであり、1988年から活動を行っています。133の企業と11の大学を含む他の沢山の組織と連携して、インターネットの様々な発展に寄与してきました。Root DNS サーバの一台である M.ROOT-SERVERS.NET の運用を1997年から行っており、また IEEAF 太平洋リンクのホストとして T-LEX(http://www.t-lex.net/)の運用も行っております。詳細は http://www.wide.ad.jp/ をご覧下さい。

APANは、1997年6月に東京でコンソーシアムを設立、同年12月にネットワークの構築を開始し、翌年9月には米国政府機関NSFから研究資金も受領して、対米リンク(TransPAC)の運用も始めた国際研究ネットワークです。その後も研究・教育ネットワークの参加が相次ぎ、APANはアジア域内のほぼ全ての研究・教育ネットが結集するコンソーシアムに成長、アジア域内の運用センター機能を提供すると共に、北米やヨーロッパと連携してグローバルな研究・教育ネットワークを構成、先端的国際共同研究を進めています。

JGN2は、1999年4月から2004年3月まで運用されたJGN(Japan Gigabit Network:研究開発用ギガビットネットワーク)を発展させた新たな超高速・高機能研究開発テストベッド・ネットワークとして、独立行政法人情報通信研究機構(以下、「NICT」)が2004年4月から運用を開始したオープンなテストベッド・ネットワーク環境です。産・学・官・地域などと連携し、次世代のネットワーク関連技術の一層高度化や多彩なアプリケーションの開発など、基礎的・基盤的な研究開発から実証実験まで推進することを目指しています。JGN2は、全国規模のIPネットワーク、光波長ネットワーク、光テストベッドの研究開発環境を提供しています。また、2004年8月から日米回線を整備し、国内外の研究機関とも連携して研究開発を推進しています。

CANARIE はカナダの先端インターネットの非営利組織で、次世代研究ネットワークやそのアプリケーション、サービスを促進しています。主要なメンバーや世界中の同様な組織との強調を促進することによって、CANARIE は技術革新と成長を促し、社会的、文化的、経済的な利点をカナダ国民にもたらすことに貢献します。CANARIE はカナダを先進ネットワークで世界のリーダと位置づけ、メンバーやプロジェクトパートナー、カナダ政府によってサポートされています。CANARIE はカナダの研究教育ネットワークである CA*net4 の開発および運用を行っています。詳しくは http://www.canarie.ca/ をご覧下さい。

CERN研究所は素粒子物理のヨーロッパの研究所で、基礎研究センターとして世界的に著名な研究所の一つで、LHC(Large Hadron Collider)加速器を現在建設中です。LHCは、これまでで最も野心的な科学プロジェクトで、微小な粒子を正面衝突させることにより自然界の基本法則を解明しようとするものです。2007年に稼動開始予定で、世界中の大学や研究所の約7,000人の研究者が、この加速器を利用して科学の最も根元的な疑問の幾つかに解答を与えようとしています。詳細は http://www.cern.ch/ をご覧下さい。

Pacific Northwest Gigapop はアメリカ北西部に於ける次世代インターネットの基盤で、アプリケーションの協調やテストベットであり、国際的な peering 交換地点である Pacific Wave を運用し、またWIDE と協調して IEEAF 太平洋回線の運用を行っています。PNWGP と Pacific Wave は共に広帯域な国際および国内のネットワークを、ワシントン、アラスカ、アイダホ、モンタナ、オレゴンの各州や太平洋地域の大学や研究機関、先端的な R&D やニューメディア企業へと接続しています。詳細は http://www.pnw-gigapop.net/ をご覧下さい。

SURFnet はオランダの150を越える高等教育機関や研究所を接続しているネットワークの運用と開発を行っており、国際的な先端的な研究ネットワークの一つです。SURFnet は、オランダ通商産業省、教育機関、研究機関のプロジェクトである次世代ネットワーク Gigaport の実現に責任を持っており、国内の知識基盤の強化を図ります。光およびIPネットワークやグリッドはプロジェクトの主要な要素です。詳細は http://www.surfnet.nl/ をご覧下さい。

IEEAF (Internet Educational Equal Access Foundation) は通信帯域や機材の寄贈を受け、国際的な研究教育コミュニティを提供することを目的とした非営利組織です。IEEAF 太平洋回線は Tyco Telecom によって5年間の IRU として寄贈された二番目の 10Gbps の海底ケーブルによる回線です。最初の回線である IEEAF 大西洋リンクはニューヨークとオランダのグローニガンを接続しており、2002年から運用されています。IEEAF の寄贈は現在17のタイムゾーンに跨っています。詳細は http://www.ieeaf.org/ を参照して下さい。

チェルシオ・コミュニケーションズ(本社:米国カリフォルニア州)は10ギガビット・イーサネットのネットワークインタフェースカードと、プロトコルプロセッサ技術を開発し、実験で用いた T110 10ギガビットイーサネットプロトコルエンジンを製造・発売しています。

SCinet は、SC2004 国際会議の展示場において最先端のネットワークを提供する組織で、全世界のネットワーク組織から集められた技術者により運営されています。

 

用語解説

インターネット  広義では、多数のユーザにより共有して使われ、国内・海外のネットワーク通信を実現しているネットワークを意味するが、通常は、ウェブページアクセス、メール、ファイル転送などに広く用いられている TCP を用いたネットワーク体系のことである。

TCP  Transmission Control Protocol の略。ネットワーク上では、エラーの発生、複数の通信の衝突による利用可能バンド幅の減少と不安定性が問題である。これを解決するため、受信側が送信側に受理した確認(アクノレッジ)を返すことにより、送信側が正常に通信が行われたことを確認するとともに、次に送る流量を決定する通信プロトコル。正常なアクノレッジが返らなかった場合には、データの再送により信頼ある通信を実現する。

Internet Land Speed Record  インターネットを用いたデータ転送能力を、バンド幅、距離積で評価し、その最高記録である。米国 Internet2 で認定する。カテゴリーは、IPv4、IPv6 について、TCP の単一ストリームのクラスに分けられる。今回は、IPv4 の TCP 単一ストリームおよび複数ストリームのカテゴリーに対応する実験である。詳細は http://lsr.internet2.edu/ 

OC-192 POS技術  超高速光通信の方式の一つ。光通信の国際標準規格である SONET 上に、直接 IP パケットを載せることにより実現する。OC-192 は、9.6Gbps の帯域幅を持つ。現在、国内外の幹線に用いられ始めている。

WAN PHY 技術  超高速光通信の最新技術。上記光通信の規格である SONET 上に、イーサネットのパケットを直接載せる方式。WAN PHY 技術を用いることにより、通常用いられているイーサネットをそのまま国内外の大域ネットワークとして拡張可能になる。また、OC-192 POS 技術と比較して、安価な実現が可能であり、また LAN のスイッチを共用できる場合があるため、安価な長距離光通信実現技術として注目されている。

SC2004  スーパーコンピューティングと、超高速ネットワークに関する国際会議。毎年11月に開催され、この分野では最も高い権威を持っている。東京大学データレゼボワールプロジェクトは、2002年と2004年に論文発表を行った。2004年には、データレゼボワールプロジェクト以外では、JAXA による流体シミュレーションに関する発表、JAMSTEC による地球シミュレータを用いた高速地球シミュレーションが行われた。全体では59件の論文が採録された。

バンド幅チャレンジ  SC2004 に併設して実施される高速ネットワーク利用に関するコンテスト。高速ネットワークをいかに高速、かつ科学技術に有意義に用いたかで競われる。データレゼボワールプロジェクト・GRAPE-DR プロジェクトチームは、2002、2003年に引き続き、3年連続で受賞した。

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