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研究成果「ニホンウナギの産卵地点の発見」研究成果

研究成果「ニホンウナギの産卵地点の発見」

1. 発表概要
2005年6月,東京大学海洋研究所は学術研究船白鳳丸(JAMSTEC)を用い,マリアナ諸島西方海域で孵化したばかりのプレレプトセファルスを大量に採集することに成功した。これらはニホンウナギであることが遺伝子により確認された。ウナギのプレレプトセファルスが大量に採集されたのは世界初のことである。これにより,約半世紀におよぶニホンウナギの産卵場調査にひとまず終止符が打たれた。

2. 発表内容
「ウナギはどこで産卵するか?」。この謎は,古代ギリシャのアリストテレス以来,生物学者を悩ませてきた。前世紀初頭(1922年),ようやくデンマークの海洋学者ヨハネス・シュミット博士は,大西洋のアメリカウナギとヨーロッパウナギが,共にサルガッソー海に産卵場を持つことを明らかにした。
一方,太平洋のウナギの産卵場調査は1930年代に始まったが,最初のニホンウナギのレプトセファルスが採集されたのは,1967年になってからである。その後も調査が継続され,1991年7月,我々はついに東京大学海洋研究所の白鳳丸により,全長10 mm前後のニホンウナギのレプトセファルス約1000尾が採集され,北緯15度,東経140度あたりが産卵場であることがわかった。ここで生まれたニホンウナギの仔魚が,北赤道海流・黒潮を経て,約3000kmの旅をして東アジアまでやってくる。
この時点で,我が国のウナギ産卵場調査は大西洋に追いついたといえる。しかし,厳密な意味では,現在世界に18種いるウナギの産卵場は,まだ一種たりとも明らかになったとは言えなかった。なぜなら,孵化したての仔魚や卵,さらには産卵中の親ウナギはまだ見つかっていなかったからである。
私たちは,これまでのすべてのレプトセファルスの採集記録と海流データ,および海底地形図を詳細に解析した結果,ニホンウナギの産卵場はマリアナ諸島の北西約200マイルの地点にある3つの海山であると推定した(海山仮説)。さらに,レプトセファルスの耳石から日齢を求め誕生日を調べたところ,ニホンウナギは新月に同期して,一斉に産卵すると考えられた(新月仮説)。
これらの仮説に基づいて1998年6月の新月には,ドイツ・マックスプランク研究所の潜水艇JAGO号を白鳳丸に積み込み,海山で産卵中の親ウナギを直接観察しようと試みた。しかし計27回・91時間に及ぶ潜水調査にもかかわらず,産卵中のウナギを発見することはできなかった。
2005年の調査では,新たに考案した大型プランクトンネットを導入した。そして6月7日の新月の日,ついに目も口もできていない孵化したばかりのニホンウナギ・プレレプトセファルス(全長4.2-6.5mm)数百匹を採集することに成功した。未発達で形態による種査定ができないプレレプトセファルスについて,遺伝子解析により明確に種を特定したのは今回が初めてのことである。
採集場所は,海山仮説により予測されていた3つの海山のうち,最南のスルガ海山西100km足らずの地点であった。プレレプトセファルスの耳石による日齢解析から,これらが孵化したのは新月の2日前,親魚が産卵したのはそのさらに2日前と推定された。周辺の海流の速度と,プレレプトセファルスの日齢から推定した産卵場は,まさにスルガ海山のごく近傍であり,世界で初めてウナギの産卵場をピンポイントで特定することができた。
さらに,これまでに得られた全てのデータをあわせると,ニホンウナギの小型レプトセファルスの分布は,大西洋のウナギに比べて著しく狭いことが明らかになった。ニホンウナギは,北赤道海流から黒潮へ乗り換えて首尾よく東アジアへ回遊してくるためには,厳密に決まったピンポイントの地点で卵を産む必要があるものと考えられた。

3. 発表雑誌
Nature(2006年2月23日発表)

4. 注意事項
解禁日時:2006年2月23日午前3時(新聞は23日朝刊以降)
(英国ロンドン時間2月22日午後6時)

5. 問い合わせ先
東京大学海洋研究所 生命科学部門
塚本勝巳 教授
青山 潤 助手

6. 用語解説
・ ウナギ(genus Anguilla)の産卵場: 大西洋のウナギの産卵場は,前世紀の初頭デンマークの海洋生物学者ヨハネス・シュミット博士によって,西部大西洋のサルガッソー海であることがおおよそ明らかになった。一方,太平洋のウナギの産卵場は1930年代により調査が始められたが,30年以上もたった1991年になってやっとマリアナ諸島の西方海域であることが分かった。しかし,世界に分布する18種のウナギの卵や産卵中の親魚は見つかっておらず,いずれの種も産卵現場の特定はなされていない。

・ ニホンウナギ(Anguilla japonica):台湾,中国,韓国,日本など東アジアに広く分布する。我が国では,昔から蒲焼きなどとして食されてきたなじみ深い魚である。

・ レプトセファルス(Leptocephalus):カライワシ目魚類に特有の仔魚形態。透明で扁平な柳葉状を呈し,体内に多量の水分を含有する。ウナギの場合,産卵場から淡水の成育場まで海流によって受動的に輸送されるための浮遊適応と考えられている。

・ プレレプトセファルス(Pre-leptocephalus):孵化直後から卵黄を吸収しつくすまでの前期仔魚で,まだ眼も黒化しておらず,針歯状の歯も未発達である。

・ 耳石(Otolith):硬骨魚類の内耳の中にある微小な硬組織で,一日一本形成される同心円状の輪紋がみられる。この「日周輪」を数えることにより個体の「日齢」がわかる。またこれを採集日から逆算することで孵化日(誕生日)が推定できる。

・ 新月仮説(New moon hypothesis):ウナギは5月から10月までの約半年に及ぶ長い産卵期の間に,毎日だらだらと無秩序に産卵するのではなく,ひと月の内の新月前後の日に同期して,一斉に産卵するという仮説。

・ 海山仮説(Seamount hypothesis):ニホンウナギの産卵場はマリアナ諸島(グアム島)の北西約200マイルの地点にある3つの海山(南からスルガ海山,アラカネ海山,パスファインダー海山)であろうという仮説。これらの海山は水深3000-4000 mの海底から頂上が海面下約10mまでそびえ立つ富士山クラスの海の中の山々である。実際シービームと呼ばれる最新の音波探査機器を用いてこれらの海山をマッピングしてみると,美しいコニーデ型の,富士山そっくりの山であることがわかった。

・ 北赤道海流(North equatorial current):北緯10度から20度にわたる西向きの海流。孵化したニホンウナギの仔魚は,北赤道海流と黒潮によって運ばれる。

7. 添付資料
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