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記者会見「ナノカーボンは毒?無毒?-道路舗装財よりも低毒性―」研究成果

記者会見「ナノカーボンは毒?無毒?-道路舗装財よりも低毒性―」

1 発表タイトル ナノカーボンは毒?無毒?
-道路舗装剤よりも低毒性 -

2 注意事項 解禁日 2006年9月8日(金)午前3時00分(日本時間)

3 発表日時 2006年9月5日(火) 15時30分~16時30分

4 発表場所 東京大学 本郷キャンパス 理学部4号館 4階 1417号室

5 発表者 東京大学大学院理学系研究科 化学専攻
中村栄一(教授)・磯部寛之(助教授)

6 発表概要
水に溶けるナノカーボンをつくり出し、安全性評価(リスク評価)を行った。金属をまったく含まないナノカーボンには、生体への急激な悪影響が無いことが世界で初めて示された。

7 発表内容
われわれの研究グループと医学部附属病院の野入英世講師、および科学技術振興機構(JST)・日本電気株式会社(NEC)の飯島澄男教授、湯田坂雅子博士の共同研究チームは、水に溶けるナノカーボンの標準物質をつくり出し、金属を含まないナノカーボンには強い毒性はないことを明らかにした。
  カーボンナノチューブをはじめとするナノカーボンは、次世代の材料として期待される一方で、環境や生体への悪影響が懸念されていた。しかし、これまでナノカーボンが毒であるとする結果から無毒であるとする結果まで、さまざまな報告があり、はっきりとした結論はでていなかった。この混乱の原因は、安全性評価に用いられるナノカーボンが、炭素のほかに金属粒子を含んでいたり、サイズがさまざまだったりと、複雑な混合物であるためだった。
  中村教授らの共同研究チームは、製造過程に金属を用いないカーボンナノホーンという物質に注目した。カーボンナノホーンは、カーボンナノチューブが、マリモのような形に百~数百ナノメートルの大きさに絡まったナノカーボンの一種。共同研究チームは、まずこのカーボンナノホーンを、水に溶かす化学修飾法を開発し、その化学組成、サイズを完全に決定した。これまで多種多様なナノカーボンが製造されているが、ここまで完全に構造を決定したものは世界でも例がない。
  さらに共同研究チームは、この水に溶けるナノカーボンの動物細胞への影響を調べたところ、道路舗装剤などに利用される石英微粒子の10分の1程度の毒性しかないことがわかった。この結果により、国際的な議論となっていたナノカーボンの毒性について、金属を含まないナノカーボンには細胞毒性はほとんどないという結論がようやく得られた。
  最近、化学物質や食品の安全衛生に関わる国際的研究グループである国際生命協会(ILSI; http://www.ilsi.org/,http://www.ilsijapan.org/)のリスクサイエンス研究所(RSI; http://rsi.ilsi.org/)が、ナノ物質の安全性評価に際し、確定すべき九つの物性を提唱した。これまでカーボンナノチューブをはじめとするナノカーボンには、これらの要件を満たした標準物質がなく、グループ間での安全性評価結果の比較が困難であった。今回の研究では、 RSIが提唱するすべての物性を世界で初めて明らかにし、ナノカーボンの安全性評価に最適な標準物質をつくり出した。今後、この標準物質を利用した安全性評価研究が進展することが期待される。
  この研究成果は、われわれの研究グループ、東京大学医学部附属病院の野入英世講師、名城大学理工学部の飯島澄男教授の統括する湯田坂雅子博士のグループ(JST-SORST, NEC)との共同研究によって得られたもので、ドイツ化学会誌(Angewandte Chemie International Edition)のオンライン版で公開される。本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金で行われた。

研究者の氏名・所属:
中村栄一:東京大学大学院理学系研究科(教授)、科学技術振興機構ERATO中村活性炭素クラ
スタープロジェクト
磯部寛之:東京大学大学院理学系研究科(助教授)、科学技術振興機構さきがけ、ナノバイオイ
ンテグレーション研究拠点(CNBI)
野入英世:東京大学医学部附属病院(講師)、ナノバイオインテグレーション研究拠点(CNBI)
湯田坂雅子:科学技術振興機構SORST、日本電気(株)(NEC)
飯島澄男:名城大学理工学部(教授)、科学技術振興機構SORST、日本電気(株)(NEC)
田中隆嗣:東京大学大学院理学系研究科(博士課程学生、COE拠点RA)
前田るい:東京大学大学院理学系研究科(COE拠点研究員)
ソリン・ニクラス:東京大学大学院理学系研究科(博士研究員)

8 発表雑誌 ドイツ化学会誌(Angewandte Chemie International Edition)
http://dx.doi.org/10.1002/anie.200601718(予定)
http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/jeview/26737/(予定)

9 問い合わせ先
東京大学大学院理学系研究科 化学専攻 教授 中村栄一
東京大学大学院理学系研究科 化学専攻 助教授 磯部寛之

10 用語解説
ナノ物質:ナノメートルのサイズをもつ物質。既存の物質にない特性をもつことから次世代材料として期待されている。ナノ科学・ナノ工学の中心的物質。
ナノカーボン:フラーレンやカーボンナノチューブなどをはじめとする新しい炭素材料。電気的、機械的、化学的特性などに多様性を示し、次世代産業に不可欠なナノテクノロジー材料として、現在、世界中で最も注目されているナノ物質材料である。
カーボンナノチューブ:飯島澄男教授が1991年に発見したナノカーボン。グラファイトシートが直径数ナノ(10億分の1)メートルに丸まった極細チューブ状構造を有している。
カーボンナノホーン:飯島澄男教授らのグループが1998年に発見したナノカーボンの一種で、角(ホーン)状の不規則な形状を持つグラファイトからできている。その微細構造を利用した小型燃料電池の電極材料としての開発がNECを中心に進められている。
石英微粒子:道路の舗装剤やシリコンゴムの補強材など、身の回りのさまざまな工業製品に使われるミクロ粒子。動物細胞に対する毒性が高いことが知られているが、加工法を工夫することで安全に用いられている。本研究で使用した石英微粒子の粒径は5マイクロ(100万分の1)メートル以下。

参考資料:
[カーボンナノホーン]
   http://www.jst.go.jp/pr/announce/20010830/
   http://www.jst.go.jp/pr/announce/20001219/
   http://www.s.u-tokyo.ac.jp/info/cnano.html
[ナノ物質のリスク管理]
   http://rsi.ilsi.org/Nanomaterial+Toxicity.htm(英文)
   http://www.particleandfibretoxicology.com/content/2/1/8(英文)
[石英微粒子]
   http://www.u-s-silica.com/mus.htm(英文)

11 図表
下記URLにて配布予定。パスワードは記者発表時に配布。
http://www.chem.s.u-tokyo.ac.jp/~physorg/PressRelease/NH/

 

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