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「造血幹細胞の増幅に関与するシグナルを解明」研究成果

「造血幹細胞の増幅に関与するシグナルを解明」

1.タイトル:「造血幹細胞の増幅に関与するシグナルを解明」

2.発表概要:
  存在頻度が極めて低いために、従来の方法では不可能であった造血幹細胞のシグナル伝達を、定量的に解析する手法を確立し、自己複製する造血幹細胞の内部でどのように情報が伝達されるかを初めて観察することに成功した。

3.発表内容:
  造血幹細胞をはじめとする組織幹細胞は自己複製能と多分化能を併せ持つことから高い再生能力を持ち、組織の発生・修復・維持や再生医療の鍵を握る細胞である。またその能力のコントロールが乱れることは発癌につながると考えられている。しかし最も研究が進んでいる造血幹細胞ですら、骨髄細胞中で2万5千個に一個という存在頻度の低さから、幹細胞の中でどのように情報が伝達され、その能力がいかにコントロールされているのかを観察することは、極めて困難であった。今回、造血幹細胞を高速に純化する手法と、100個以下の細胞を対象にして高精度で蛍光免疫染色を行う手法を組み合わせることにより、造血幹細胞においてどのようなシグナル伝達が起こっているかを定量的に解析する手法を確立した。この手法を用いて、サイトカイン刺激に反応して自己複製を開始する造血幹細胞を解析したところ、複数のシグナル伝達経路が活性化・非活性化していることが観察された。これまでの手法ではシグナル伝達の観察には数十万個の細胞が必要であったのに対し、今回の手法が必要とする細胞数は数百個であり、しかも個々の細胞毎に情報が得られることから、造血幹細胞のみならず、これまで数が少ないために解析することが困難であった様々な組織幹細胞・癌幹細胞などにおける細胞内の情報処理の解析が可能となり、再生医療の発展や発癌過程の理解に大きく貢献することが期待される。
4.発表雑誌
米国科学アカデミー紀要誌
Jun Seita1, Hideo Ema1, Jun Ooehara1, Stoshi Yamazaki1, Yuko Tadokoro1, Akiko Yamasaki1, Koji Eto1, Satoshi Takaki2, Kiyoshi Takatsu2, Hiromitsu Nakauchi1.
"Lnk negatively regulates self-renewal of hematopoietic stem cells by modifying thrombopoietin-mediated signal transduction"
Proceeding of the National Academy of Science of the United States of America
1東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター高次機能研究分野
2東京大学医科学研究所感染・免疫大部門免疫調節分野

5.解禁日
平成19年1月29日午後5時(米国東部標準時間)にオンラインで発表予定
日本時間では1月30日午前7時

6.問い合わせ先
東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター高次機能研究分野教授
中内 啓光

7.用語解説
造血幹細胞:骨髄中に極わずかに存在する、自らを再生する能力(自己複製能)と全ての血液細胞を産生する能力(多分化能)を併せ持つ細胞。この自己複製能と多分化能が巧妙に調節されることによって一生にわたり枯渇すること無く血液細胞を供給する。またこの調節機構が破綻することは再生不良性貧血や白血病の発症につながると考えられている。

組織幹細胞:大人の体の中の様々な組織には、各組織に特異的な幹細胞が存在し、その自己複製能と多分化能により組織の恒常性が維持されている。造血幹細胞の他に腸上皮幹細胞、表皮幹細胞、精子幹細胞、神経幹細胞、色素幹細胞などが知られている。

8.ポイント
・ 極めて少ない数の細胞を用いて、細胞内シグナル伝達を定量的に解析する方法を開発。
・ その手法を用いて、自己複製をしている造血幹細胞の細胞内シグナル伝達を観察することに成功。
・ これまで数が少ないために解析することが困難であった様々な組織幹細胞・癌幹細胞などにおける細胞内の情報処理の解析が可能となり、癌幹細胞の増殖を特異的に阻害する薬剤などの開発につながる。

9.背景
  造血幹細胞をはじめとする組織幹細胞は自己複製能と多分化能を併せ持つことから高い再生能力を持ち、組織の発生・修復・維持や再生医療の鍵を握る細胞である。またその能力のコントロールが乱れることは発癌につながると考えられている。サイトカインなどの外界からの刺激が幹細胞に到達すると、幹細胞の内部で様々なタンパク質のリン酸化・脱リン酸化によりシグナル伝達が順次起こり、その情報は最終的に核に伝えられ、自己複製能や多分化能に関する遺伝子の発現が制御されてゆく。しかし最も研究が進んでいるマウス造血幹細胞ですら、骨髄細胞中で2万5千個に一個と存在頻度が極めて低く、細胞内のタンパク質の挙動、特にシグナル伝達に関与するタンパク質のリン酸化・脱リン酸化を定量的に解析することは従来の方法では不可能であった。

10.研究手法・成果
  今回、造血幹細胞を高速に純化する手法、100個以下の細胞を失うことなく蛍光免疫染色を行う手法、そしてレーザー共焦点顕微鏡を用いて蛍光情報を定量的に解析する方法を組み合わせることにより、造血幹細胞においてどのようなシグナル伝達が起こっているかを定量的に解析する手法を確立した。この手法を用いて、サイトカイン刺激に反応して自己複製を開始する造血幹細胞を解析したところ、複数のシグナル伝達経路が活性化・非活性化していることが観察された。

11.今後の期待
  これまでの手法ではシグナル伝達の観察には数十万個の細胞が必要であったのに対し、今回の手法が必要とする細胞数は数百個であり、しかも個々の細胞毎に情報が得られることから、造血幹細胞のみならず、これまで数が少ないために解析することが困難であった様々な組織幹細胞・癌幹細胞などにおける細胞内の情報処理の解析が可能となり、再生医療の発展や発癌過程の理解に大きく貢献することが期待される。現在、シグナル伝達をターゲットとした抗ガン剤の開発が進められているが、本研究を発展させることにより、正常幹細胞と癌幹細胞のシグナル伝達を詳細に解析し、癌幹細胞特異的増殖シグナル阻害薬の開発などが期待される。


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