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組織再生促進療法-幹細胞治療の実現化へ-研究成果

組織再生促進療法-幹細胞治療の実現化へ-

1. タイトル:
「組織再生促進療法-幹細胞治療の実現化へ-」

2.発表概要:
  組織プラスミノーゲン活性化因子の投与により、傷害組織の再生を促進することに成功した。生体内の血液線維素溶解系の活性化が、生体骨髄組織中の幹細胞の再生及び分化増殖を促進する機序を解明した。

3.発表内容:
幹細胞を利用した再生医療の実現化は21世紀の臨床医学における悲願の一つである。しかしながら胚性幹細胞(ES細胞)をはじめ、先頃報告された人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の生体外で培養される“万能細胞”幹細胞には倫理面や安全性の点で未だ課題が多い。
東京大学医科学研究所の服部浩一特任准教授らのグループは、生体内に存在する組織幹細胞(体性幹細胞)を利用した、画期的な組織再生促進方法の開発に成功した。服部特任准教授らは、これまで生体内の血栓形成等に関与するとされてきた線維素溶解系因子プラスミンが、マウス生体内でマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)という蛋白分解酵素の活性化を制御することに注目し、近年、血栓溶解剤として脳梗塞治療に急速に臨床普及が進む組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)の投与により、生体内でプラスミンの生成が増加し、MMPの活性化を介して幹細胞因子の産生分泌が促進されることを発見した。さらにこれを基礎として、tPAの投与により抗癌剤等によって傷害された骨髄組織の再生、組織幹細胞の分化増殖の誘導に成功した。
本研究成果は、組織再生の新機構と、これを活用した再生医療の新たな可能性について世界に先駆けて提示したもので、iPS細胞と同様、今後の再生医療の新機軸を担う重要性を有している。組織幹細胞は、通常成体に存在する幹細胞として知られ、その生体内分化増殖の誘導による組織再生の促進は免疫反応や、倫理面での問題は皆無に等しく、最も安全性の高い幹細胞治療の一つと考えられ、またtPAが、既に臨床に普及した薬剤であること等の理由から、本研究成果は臨床応用への至近距離に位置づけられるものである。服部特任准教授らは、現在、順天堂大学等の協力により生体内の造血器以外の他臓器組織再生への可能性を検討中である。本研究成果については2007年12月12日付で米医学誌「セル・ステムセル」及び第49回米国血液学会にて発表を予定している。

4.発表雑誌:
  セル・ステムセル

5.注意事項:
報道の解禁日時:12月13日(木)日本時間 午前2時以降
(米国東部時間 12日(水)正午12時以降)

6.問い合わせ先:
東京大学医科学研究所 再生医療の実現化プロジェクト 幹細胞制御領域
特任准教授 服部浩一

7.用語解説:
組織幹細胞:自らを生み出す能力(自己複製能)と他系列の異種の細胞を産生する能力(多分化能)を併せ持つ細胞の中で、胚性幹細胞(ES細胞)と異なり、骨髄をはじめとする各種成体組織中に存在するものを指す。Multipotent adult stem cell(MAPC)として知られている。

線維素溶解系:生体血液中において、血液凝固系の亢進による血栓形成を抑制する役割を担う機構。プラスミノーゲンはその中心的役割を担う生体因子の一つであり、プラスミノーゲン活性化因子の作用によりプラスミンへと活性化され、血栓形成の核となるフィブリンを分解する。
マトリックスメタロプロテイナーゼ:共通のアミノ酸配列を有し、細胞外マトリックスを基質とするマトリックスメタロプロテイナーゼ酵素群に属する金属要求性蛋白分解酵素。

幹細胞因子:Stem cell factorないしはKit-ligandの別名を有する代表的な造血因子、細胞増殖因子の一つ。

 

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