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記者会見「たんぱく質分解装置の形成機構を解明」研究成果

記者会見「たんぱく質分解装置の形成機構を解明」

記 者 発 表
たんぱく質分解装置の形成機構を解明

発表日時: 2009年5月26日(火)14:00~

発表場所: 東京大学薬学系総合研究棟2階講堂

発 表 者: 東京大学大学院薬学系研究科 教授 村田茂穂

発表概要:
  細胞内で重要な働きをする巨大なたんぱく質分解装置「プロテアソーム」が正しく形成される仕組みを明らかにしました。この成果は新しい作用機構の抗癌剤の開発につながるものとして期待されます。

発表内容:
<研究の背景>
  細胞内では遺伝子の情報を元に合成された無数のたんぱく質が働くことにより、細胞周期の進行や細胞内情報伝達をはじめとしたあらゆる細胞内の事象が進行しています。一方、これらのたんぱく質の過剰な働きや異常たんぱく質の蓄積は癌や神経変性疾患など様々な病気を引き起こします。
  プロテアソームはこれら細胞内で不要になったたんぱく質を選択的に分解し、除去することにより細胞を健全な状態に保つために必須の役割を果たしているたんぱく質分解装置です。近年、癌細胞でプロテアソームの機能が亢進していること、神経変性疾患や老化で低下していることが知られはじめ、プロテアソーム機能の調節機構の解明が喫緊の課題となっています。

<研究成果の概要>
  プロテアソーム機能の調節機構のひとつに、プロテアソームの形成機構が挙げられます。プロテアソームは66個ものたんぱく質が分子集合して形成される巨大で複雑な複合体で、その精緻な構造と働きから細胞内のナノマシンともいえます。しかし、細胞内でプロテアソームがどのようにして正しく組み立てられるのか、大きな謎でした。
  今回の研究では、プロテアソームの形成を助ける4つの分子(ガンキリン、p27, S5b, PAAF1)の同定に成功しました。これらの分子はプロテアソームを構成する部品ととともに細かい組み立て単位(サブアセンブリ)を形成し、さらにサブアセンブリ同士の組み立てを仲介することにより円滑で正しいプロテアソームの形成を助けていることを明らかにしました。

<研究成果の意義>
  様々な癌でプロテアソームの機能が異常亢進していることから、近年プロテアソームが抗癌剤の新しい分子標的として注目を浴びています。実際、すでにプロテアソームの活性阻害剤であるボルテゾミブ(商品名:ベルケード)が新しい抗癌剤として脚光を浴びています。しかし、プロテアソームの活性は癌細胞のみならず、通常の健康な細胞が生きるためにも必須であり、プロテアソーム活性阻害剤には多彩な副作用が懸念されます。
  癌細胞は通常の細胞に比べて、プロテアソームの形成が非常に盛んです。今回プロテアソーム形成促進因子として同定したガンキリンは、元々癌遺伝子として発見されていたものです。このことから、プロテアソームの形成を阻害すれば、プロテアソームの活性を阻害するよりも癌細胞に特異性が高く、副作用の少ない治療が可能になると考えられます。本研究成果はプロテアソームの形成を標的とした新しいタイプの抗癌剤の開発のために重要な知見をもたらすものです。

発表雑誌:
  「セル」(Cell)5月29日発行号

  今回の研究成果はヒトの細胞を用いて解析された成果ですが、酵母を用いた同様の解析結果が東京都臨床医学総合研究所 田中啓二所長代行のグループから同時に発表されます。

 

問い合わせ先:
東京大学大学院薬学系研究科 統合薬学専攻 蛋白質代謝学教室
教授 村田茂穂(MURATA Shigeo)

用語解説:
プロテアソーム:プロテアソームはユビキチン(分解の目印となる小さなタンパク質)を付加されたタンパク質を選択的に分解するたんぱく質分解酵素です。プロテアソームは、ユビキチンを付加されたたんぱく質を捕まえ、その構造を解きほぐすことにより分解可能な状態にする19S複合体と、たんぱく質分解を実行する20Sプロテアソームから構成されています。今回の研究成果はこの19S複合体の形成機構を明らかにしたものです。

参考資料:

図

 

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