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壊死病変の組織再生に成功-梗塞治療に画期的展開研究成果

壊死病変の組織再生に成功-梗塞治療に画期的展開

「壊死病変の組織再生に成功-梗塞治療に画期的展開」

1.発表概要:
 組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)の投与により、虚血性壊死に陥った組織の再生を促進することに成功した。生体内の血液線維素溶解系因子が、末梢組織の再生を制御する新機構を解明した。

2.発表内容:
 心筋梗塞や脳梗塞等の動脈硬化症を基礎とした虚血性疾患(注1)の多くは、血管閉塞に伴う壊死組織の形成-梗塞を主病態としている。従来の医療では、虚血性壊死に陥った組織を再生することは極めて困難とされ、壊死組織の量をいかに少なく抑えるかが治療の主体であった。東京大学医科学研究所の服部浩一特任准教授らのグループは、順天堂大学、名古屋大学との共同研究により、生体に既存の組織修復能力を最大限に高めることによる、画期的な組織再生療法の開発に成功した。同グループは、生体内の血液凝固機能を制御する線維素溶解系(注2)因子プラスミン(Plasmin)が、組織中の細胞移動に関与するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)(注3)という蛋白分解酵素の活性化を制御することに注目し、近年、血栓溶解剤として急速に臨床普及が進むtPAの投与により、プラスミンの生成増加、MMPの活性化、造血因子の分泌亢進のプロセスを介して骨髄由来細胞の組織中への動員が促進されることを発見した。さらにこうして組織内に動員された骨髄由来細胞中の細胞表面マーカーCD11b陽性細胞には、代表的な血管新生因子である血管内皮増殖因子(VEGF)(注4)を供給する能力があることが判明した(図参照)。これらを基礎として服部特任准教授らは、tPAの投与により、マウス大腿動静脈の末梢に形成された虚血性壊死組織の再生と機能回復に成功した。本研究成果は、生体内組織再生の新機構と、これを最大限に活用した再生医療の新たな可能性について世界に先駆けて提示したもので、iPS細胞等の細胞移植治療とは一線を画し、倫理面、安全面で極めてハードルが低い再生医療の新機軸を担う重要性を有している。またtPAが、既に臨床に普及した薬剤であること、さらに虚血性壊死のみならず、抗癌剤、放射線等による傷害に対しtPAの組織再生促進作用が既に同グループによって確認、報告されていることもあって、本研究成果は、その実現性の点でも、臨床応用への至近距離に位置づけられるものである。なお本研究成果については2010年1月29日付で米国血液学会雑誌「Blood(電子版)」に発表された。

3.発表雑誌:
  米国血液学会雑誌「Blood (ブラッド)」


4.問い合わせ先:
東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター 幹細胞制御分野
特任准教授 服部浩一

5.用語解説:
(注1)虚血性疾患:動脈硬化等を基礎とした血管閉塞、動脈血流減少による各種臓器組織構成細胞の変性、萎縮、組織化-梗塞等を主体とした疾患一般(心筋梗塞、脳梗塞、肺梗塞、虚血性腸炎、閉塞性動脈硬化症、バージャー病等)を指す。

(注2)線維素溶解系:生体血液中において、血液凝固系の亢進による血栓形成を抑制する役割を担う機構。プラスミノーゲン(Plg)はその中心的役割を担う生体因子の一つであり、tPA あるいはウロキナーゼ型PAの作用によりプラスミン(Plasmin)へと活性化され、血栓形成の核となるフィブリンを分解する他、近年マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の活性化を制御していることも明らかとなった。

(注3)MMP:共通のアミノ酸配列を有し、細胞外マトリックスを基質とするMMP群に属する金属要求性蛋白分解酵素。その多くは潜在型酵素プロ酵素として産生されプラスミンやMMP相互間で活性型MMPへと変換される。生体組織中に骨髄由来細胞(好中球、単球、マクロファージ、マスト細胞、血小板等)が侵入、移動していく際には不可欠と考えられている。

(注4)VEGF:代表的な血管新生因子で、血管内皮増殖因子。血管内皮細胞の分化、増殖、遊走を促進する他、血管透過性の亢進に関与している。血管発生過程においては血管発生Vasculogenesisから、血管新生Angiogenesisの全般を制御することが解ってきている。

6.添付資料:別紙


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