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シナプスに作用する脳内マリファナ類似物質の実体を解明研究成果

シナプスに作用する脳内マリファナ類似物質の実体を解明

「シナプスに作用する脳内マリファナ類似物質の実体を解明」

1.発表者:
・東京大学大学院医学系研究科 神経生理学分野
    谷村あさみ、橋本谷祐輝、川田慎也、橋本浩一、狩野方伸
・新潟大学脳研究所 細胞神経生物学分野
    山崎真弥、阿部学、﨑村建司
・北海道大学大学院医学研究科 解剖発生学分野
    内ヶ島基政、渡辺雅彦
・東京大学大学院医学系研究科 細胞情報学分野分野
    北芳博、清水孝雄

2.発表概要:
 脳の神経細胞の活動が高まると、神経細胞でマリファナに類似した物質が作られ、シナプスに作用して神経伝達物質の放出を抑える。今回、このマリファナ類似物質は、細胞膜のリン脂質からジアシルグリセロールリパーゼαという酵素によって作られる2-アラキドノイルグリセロールであることを解明した。

3.発表内容:
 私たちが研究している内因性カンナビノイドとは、身体の中で作られる、マリファナに類似した作用と構造を持つ物質のことである。内因性カンナビノイドは似たような構造を持ついくつかの分子の総称であるが、アナンダミドと2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)という2つの分子が主要なものであると考えられている(添付資料1)。
 これまでの研究から、脳において、内因性カンナビノイドは、神経細胞(ニューロン)の間のシナプス伝達の強さを調節することが明らかとなっている。シナプスでは、信号を送る側(シナプス前ニューロン)の神経突起の終末から神経伝達物質が放出され、信号を受けとる側(シナプス後ニューロン)の細胞膜にある神経伝達物質受容体を活性化させることによって情報が伝達される(添付資料2)。一方、内因性カンナビノイドは、シナプス後ニューロンで作られ、神経終末に存在するカンナビノイド受容体に働いて、神経終末からの神経伝達物質の放出を抑えることで、シナプス後ニューロンへの信号の伝達を抑えている。この現象は、情報の流れが通常のシナプス伝達とは逆向きなので、シナプス伝達の逆行性抑圧という。しかし、これまでシナプス伝達の逆行性抑圧に寄与する内因性カンナビノイドの分子実体は不明であった。
 私たちは、新潟大学の﨑村教授、山崎助教らとの共同研究で、2-AGの生合成酵素であるジアシルグリセロールリパーゼαとβ(DGLα、DGLβ)をそれぞれ欠損した2系統のノックアウトマウスを作製した。もし、2-AGがシナプス伝達の逆行性抑圧を担う分子であるならば、これらノックアウトマウスでは2-AGが作られないため、シナプス伝達の逆行性抑圧が起きなくなると予想される。この点を電気生理学的解析によって調べたところ、小脳、海馬、線条体という3つの脳部位において、通常のマウスはシナプス伝達の抑圧が起きるのに対し、 DGLαノックアウトマウスでは、シナプス伝達の逆行性抑圧が全く起きなくなっていた。また、DGLβノックアウトマウスでは、シナプス伝達の逆行性抑圧は通常のマウスと同様に起きることから、シナプス伝達の逆行性抑圧に必要な2-AGはDGLβではなく、DGLαによって産生されることが明らかとなった。
 以上、まとめると、今回の研究によって、シナプス伝達の逆行性抑圧を引き起こす内因性カンナビノイドの実体は2-AGであり、これはDGLαによってつくられることが明らかとなった(添付資料2)。内因性カンナビノイドは、記憶・学習をはじめ、様々な脳機能を調節することがわかっているので、今回の成果は、脳機能を理解するためだけではなく、臨床応用や創薬の観点からも重要であると言える。

 本研究の一部は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラム課題D:「社会的行動を支える脳基盤の計測・支援技術の開発」の成果である。また、本研究の一部は、文部科学省科学研究費(基盤研究(S)及び特定領域研究「脳の神経回路の機能解明」)の助成によって行われた。

4.発表雑誌:
Neuron (Cell Press) 
発表論文タイトル:
The endocannabinoid 2-arachidonoylglycerol produced by diacylglycerol lipase α mediates retrograde suppression of synaptic transmission
著者名:
Asami Tanimura, Maya Yamazaki, Yuki Hashimotodani, Motokazu Uchigashima, Shinya Kawata, Manabu Abe, Yoshihiro Kita, Kouichi Hashimoto, Takao Shimizu, Masahiko Watanabe, Kenji Sakimura and Masanobu Kano

5.注意事項:
2010 February 11 issueに掲載予定。米国東部時間で2010年2月11日の正午(日本時間2月12日午前2時)まで公表は禁止されています。

6.問い合わせ先:
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
東京大学大学院医学系研究科 神経生理学分野
狩野方伸(教授)

7.用語解説:

内因性カンナビノイド:身体の中で作られる、マリファナに類似した作用と構
造を持つ物質の総称。

シナプス: ニューロンとニューロンの間で信号を伝達するためのつなぎ目のこと。神経伝達物質が貯蔵されている神経終末(シナプス前ニューロンの神経突起の末端)とその神経伝達物質を受け取る受容体が集積したシナプス後部(シナプス後ニューロンの樹状突起など)がごく狭い隙間(シナプス間隙)を隔てている。


8.添付資料はこちら



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