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博士の学位授与の取消しについて記者発表

博士の学位授与の取消しについて

平成22年 3月 5日

 東京大学は、アニリール・セルカン大学院工学系研究科建築学専攻助教に対し、平成15年3月28日付けで本学が授与した博士(工学)について、平成22年3月2日に取消しを決定しました。
 この決定は、東京大学評議会申合せ「学位授与の取消」における取消しの事由である「不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したとき」に該当するためです。(参考資料①、②)
 当該助教に対しては、この旨を通知して学位記の返還を要請しております。
 本件に関する本学の見解、また、再発防止のため、本日付けで工学系研究科長及び総長から本学構成員に宛てて発表された文書については、それぞれ参考資料③、④、⑤のとおりです。


参考資料①

「不正の方法により学位の授与を受けた事実」の概要

 東京大学においては、アニリール・セルカン氏(以下、アニリール氏という。)の学位請求論文に係る盗用の疑いについて調査した結果、概要下記のとおり重大な不正行為の事実を認定し、学位の授与を取り消すことが相当であるとの結論に至った。

1.当該学位請求論文(和名:「宇宙空間で長期居住を可能にする軌道上施設に関する研究」)
においては、他の著作物の一部を盗用した箇所が、全文376ページのうち149ページ(全体の約4割)にわたって存在する。

2.その主要な部分(第6章)においても120ページのうち53ページ(約4割)について、既発表の文献資料並びにウェブサイト上に公開されている文章もしくは図表を盗用して構成している。

3.これらの広範にわたる盗用について精査すると、出典不記載に止まらず、自らの創作物であるかのように偽装した悪質な盗用と判断できる箇所が11箇所、その疑いがあると判断できる箇所が計10箇所存在する。
  <悪質な盗用の態様例>
 ・ 原典における主語を著者に相当する語(I等)に置き換える
 ・ 原典の表現に著書の関与を加筆(by the Author等)

【取消しの根拠】
■ 「学位授与の取消」(平成4年3月17日評議会申合せ)
「学位規則の一部改正について、総長から、本件について諮り、審議の結果、原案どおり承認された。また、このたびの学位規則の一部改正により、第17条の学位授与の取消しに関する規定が削除されたが、今後とも、学士、修士、博士の学位を授与された者が、その後において、不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したときは、従来の手続きに従い、学位の授与を取り消すこととなるので、その旨ご承知おき願いたい旨発言があり、了承された。」 

■ 旧学位規則の規定(平成4年削除)
第17条 学位を授与された者が、その名誉を汚す行為をしたとき又は不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したときは、総長は、研究科委員会の議を経て、学位の授与を取消し、学位記を還付させ、かつ、その旨を公表する。(以下略)


参考資料②

本件に関する対応の経緯

平成15年 3月28日   東京大学がアニリール氏に学位(博士(工学))を授与

平成21年11月13日   工学系研究科コンプライアンス室に調査委員会を設置

平成22年 1月 5日   教育運営委員会のもとに学位審査の在り方等に関する特別調査委員会(委員長:佐藤愼一理事・副学長)を設置

平成22年 2月10日   工学系研究科コンプライアンス室調査委員会が報告書をとりまとめ(悪質な盗用の事実を認定)

平成22年 2月16日   学位審査の在り方等に関する特別調査委員会を開催し、学位授与の取消しに関する手続きについて確認するとともに、工学系研究科から調査の進捗状況を聴取

平成22年 2月18日   工学系研究科においてアニリール氏から弁明聴取

平成22年 2月24日   工学系研究科教育会議を開催し、アニリール氏に関する博士の学位授与認定の取消しを審議・決定、これを受けて保立和夫研究科長が濱田純一総長に対して学位授与の取消しを上申

平成22年 3月 1日   学位審査の在り方等に関する特別調査委員会を開催し、工学系研究科からの上申内容を確認

平成22年 3月 2日   教育運営委員会を開催し、工学系研究科の上申に基づく学位授与認定の取消しを承認。総長が博士の学位授与の取消しを決定


参考資料③

 このたび、学位請求論文に係る盗用が判明したことにより、本学が授与した博士の学位の取消しを行う事態となったことは極めて遺憾である。今後、引き続き原因究明及び再発防止策の策定を進め、二度とこのようなことが生じないよう、全学をあげて取り組んでまいりたい。

教育担当理事・副学長  佐 藤 愼 一


参考資料④

博士(工学)の学位授与の取消しを受けて

平成22年3月5日

 このたび、本研究科から博士(工学)の学位を認定された学位請求論文に関して重大な不正のあったことが判明したため、学位の授与が取り消されるという深刻な事態が発生致しました。科学技術の最前線を開拓する人材の育成を社会から負託されている東京大学大学院工学系研究科においてこのような事態が生じたことは、極めて遺憾であります。

 今回の不正は、本研究科博士課程に在籍していた学生から提出された学位請求論文において発覚致しました。本研究科では、不正を調査する委員会を設置して当該学位請求論文を精査して参りました。その結果、本論文中には他人による既発表の論文やウェブ上の記事から出典を明記しないまま使用された部分が論文全体にわたり多くの箇所でまた大量に存在し、かつ学位請求者本人の文章であるかのように見せかけるための修正も施されていて、悪質な盗用等の不正が存在すると判断するに至りました。そこで、本研究科は、教育会議において当該学位の認定を取消す決定を行い、それに基づき、総長は学位授与の取消しを決定しました。

 不正行為は、社会活動の如何なる場面においても許されるものではありませんが、特に研究活動においては、その性格上、さらに特別な意味を持ちます。研究とは新たな知を創造する活動であるからであり、捏造、改ざん、盗用といった不正は創造活動を正に根底から覆す行為であるからです。

 東京大学大学院工学系研究科の博士課程においては、学生は日々研鑚を積み、教員は研究指導に力を尽くすことによって、科学技術の進展と社会の発展に貢献すべく、新たな知を創造する役割を果たしつつ博士人材の育成に努力して参ったところであります。しかしながら、その中でこのような恥ずべき不正が行われ、それが見過ごされてしまったことは、研究科長として、誠に残念でなりません。工学系研究科として、今回の事態を極めて重く受け止め、深く反省するとともに、研究指導や学位審査の過程についてあらためて検証することにより、原因の究明と再発防止策の策定を急ぐ所存であります。

 工学系研究科の教員ならびに学生諸君には、再発防止についての理解と協力を要請するとともに、この機に、研究活動と研究倫理の深意を再確認して頂き、真に独創性に富んだ研究成果を生み出していくことを、あらためて誓って頂くように求めるものです。

東京大学大学院工学系研究科
研究科長  保 立 和 夫


参考資料⑤

研究倫理の保持と厳正な学位審査について(総長訓辞)

平成22年3月5日

 このたび、学位請求論文に係る重大な不正行為の存在が判明したことにより、博士の学位授与の取消しを行うという、前例のない事態が生じました。日本の博士人材育成にとって重要な役割・責任を果たすべき東京大学において、このような問題が発生したことは極めて遺憾であります。

 今回認定された不正行為は盗用であり、当該論文全体に広く存するなど、その態様は悪質です。改めて言うまでもなく、他者の論文や研究業績等を無断で使用し、さらには、それを自らの研究業績のように装うことは絶対にあってはなりません。知の拠点である大学の学術研究の担い手には、高度な倫理性が求められるのであり、不正行為は断じて許されないことです。

 研究をめぐる不正行為は、一義的には研究者・学生個人の倫理に関わる問題です。しかし、大学院教育の充実に力を注いできた東京大学にとって、今回の問題は、自らの教育指導や学位審査の在り方に対し、厳しく反省を迫るものであると受け止めています。既に原因究明と再発防止策の策定に着手していますが、まずもって、東京大学の構成員一人ひとりが、学ぶ者、知を探求して後進を導く者として、それぞれの責任を改めて自覚することが肝要です。

 全教員は、自らが研究倫理を遵守して創造性のある論文を生み出すことはもちろん、学位という目標に向け、学生に対するきめ細かな教育指導を一層充実しなければなりません。また、学位審査に携わる教員各位に対しては、学位の水準を維持するため、論文を精査して厳正な判断を下すよう、更なる努力を求めます。

 学生諸君、とりわけ博士課程の大学院学生は、自立した研究者の証である博士号の重みに思いを致して下さい。研究倫理を遵守した論文作成の過程こそが、諸君を鍛え、学問の蘊奥に導くのです。

 今回の事態によって損なわれた東京大学の学位に対する社会的信頼を回復するため、本学の全教員および全学生が、それぞれの立場で最善と考える行動をされることを強く求めます。


東京大学総長
濱田 純一

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