半導体スピントロニクス材料GaMnAsにおけるバンド構造の新たな描像研究成果

半導体スピントロニクス材料GaMnAsにおけるバンド構造の新たな描像 |
1.タイトル:
半導体スピントロニクス材料GaMnAsにおけるバンド構造の新たな描像
2.発表概要:
最も典型的な強磁性半導体として10年以上にわたって活発に研究の行われてきたGaMnAsにおいて、そのバンド構造とフェルミ準位の位置が未解明であることが近年大きな問題となっていた。本研究では、高精度のエッチング手法と共鳴トンネル分光を組み合わせたユニークな手法を開発し、様々なGaMnAs試料においてフェルミ準位の位置とバンド構造を初めて系統的に明らかにした。得られた結果は、今まで一般的に受け入れられてきたバンド構造の理解とは大きく異なっており、今後、強磁性半導体材料系の基礎研究、およびこれらを利用した次世代の半導体スピントロニクス素子を実現する上で、重要な指針となることが期待される。
3.発表内容:
近年、今まで半導体素子では利用されてこなかった電子のスピン自由度を用いて、半導体で新しい機能を実現しようという試みが盛んに行われている。半導体に磁性不純物を添加することにより作製される強磁性半導体は、大変着目されている材料系である。特にGaMnAsは、最も典型的な強磁性半導体として、その発見以降10年以上にわたって、活発に研究が行われてきた。しかし、GaMnAsの最も基礎的な物性とも言えるそのバンド構造、特にフェルミ準位の位置が未だに解明されておらず、近年、大きな問題となっていた。フェルミ準位の位置を解明することは、これらの材料系における強磁性発現のメカニズムを解明する上でも、デバイス応用を考えるためにも、極めて重要である。本研究では、GaMnAs表面層の表面をエッチングによって削ることにより、その膜厚をnmオーダーで制御した。この手法を用いて、表面GaMnAs層に形成される共鳴準位(量子準位)のGaMnAs膜厚依存性を、様々なGaMnAs試料に対して詳細に調べた。その結果、すべての試料において、①フェルミ準位が禁制帯中に位置すること、②GaMnAsの価電子帯構造がGaAsのそれとほとんど同一であること、③価電子帯のスピン分裂が極めて小さく数meV程度であること、④価電子帯が空間的に均一であることを明らかにした。本結果は、従来広く受け入れられてきた強磁性半導体の概念とは大きく異なっており、今後の強磁性半導体の基礎研究および応用研究における新たな指針になることが期待される。
4.発表雑誌:
英国科学誌Nature Physics(2011年2月6日Online)に掲載予定
5.注意事項: 日本時間2011年2月7日午前3時まで発表禁止
6.問い合わせ先:
田中雅明(東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授)
※詳細はリリース文書をご覧下さい