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精神遅滞と自閉症の原因分子IL1RAPL1は脳神経ネットワークの形成を制御する研究成果

「精神遅滞と自閉症の原因分子IL1RAPL1は脳神経ネットワークの形成を制御する」

平成23年9月22日

東京大学大学院医学系研究科

発表者:
三品 昌美(東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 教授)
吉田 知之(東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 講師)

発表概要:
膜蛋白質インターロイキン?1レセプターアクセサリープロテインライク1(IL1RAPL1)の遺伝子変異は、精神遅滞と自閉症を引き起こすことが知られています。今回我々は、IL1RAPL1が、脳神経ネットワーク形成において最も重要なステップであるシナプス形成を制御していることを明らかにしました。具体的には、神経細胞のシナプス後部に存在する膜蛋白質IL1RAPL1が、連結する相手の神経細胞のシナプス前部に存在する膜蛋白質受容体型チロシン脱リン酸化酵素 (PTP) δと互いに結合することにより、神経細胞間のシナプス形成を促進することを見出しました。これらの成果から、IL1RAPL1の欠損が脳神経ネットワーク形成の不全を引き起こし、精神遅滞と自閉症の引き金となっていると考えられます。今回の発見は、シナプス形成の障害が精神疾患を引き起こす経路となることを示唆しています。

発表内容:
精神遅滞と自閉症は、小児の重大なハンディーキャップの中では最も高頻度の要因の1つです。自閉症患者の約半数が精神遅滞を伴うとされ、これらの神経発達障害に共通した発病のメカニズムが考えられています。精神遅滞と自閉症はともに遺伝要因の関与が大きいことが知られていますが、非常に多様な因子が関与していることが次第に明らかになり、原因解明の壁となっています。

IL1RAPL1はX染色体連鎖型精神遅滞(注1)の原因遺伝子として同定され、自閉症家系においてもその遺伝子変異が報告されている細胞膜分子です。私たちはIL1RAPL1タンパク質が神経細胞においてどのような機能を担うかを明らかにするために、培養大脳皮質(注2)神経細胞を用いて研究を行いました。神経細胞にIL1RAPL1タンパク質を発現させると、IL1RAPL1タンパク質を発現する神経細胞とその周囲の神経細胞の間のシナプスの数が増加することがわかりました。一方、IL1RAPL1タンパク質の機能を抑制すると、シナプスの数が減少することがわかりました。また、IL1RAPL1タンパク質の細胞の外側に存在する部分をビーズに結合させ、このビーズを培養大脳皮質神経細胞の上にのせると、このビーズに接する神経細胞にシナプス前部(注3)の構造が作られることがわかりました。更に、IL1RAPL1タンパク質の細胞外部分には、受容体型チロシン脱リン酸化酵素 (PTP) δが結合することを明らかにしました。PTPδの機能を無くした神経細胞では、IL1RAPL1によるシナプス形成を促進させる効果が完全に失われました。即ち、隣接する神経細胞間でIL1RAPL1と PTPδが結合することによって神経細胞間のシナプスが作られることがわかりました。 また、マウス大脳においてIL1RAPL1と PTPδの結合を阻害するとシナプスの減少が見られました。

本研究から、精神遅滞や自閉症の発病に関わるIL1RAPL1タンパク質はPTPδと結合することによって神経細胞間のシナプス結合の形成を促進し、大脳皮質神経細胞のネットワーク形成に重要な役割を担っていることが明らかとなりました (図1)。この成果から、IL1RAPL1の欠損が脳神経ネットワーク形成の不全を引き起こし、精神遅滞と自閉症の引き金となっていると考えられます。今回の発見は、シナプス形成の障害が精神疾患を引き起こす経路となることを示唆しています。本研究の知見は精神遅滞と自閉症の発病メカニズムの理解と治療法の開発に役立つことが期待されます。

<用語解説>
(注1)
X染色体連鎖型精神遅滞:X染色体の上に存在する遺伝子の変異によって引き起こされる精神遅滞。通常は、男性が発症する。
(注2)
大脳皮質:大脳の表層を覆う灰白色の部分。神経細胞が数層に並び、知覚、運動、思考、記憶など、脳の高次機能を司る脳部位。
(注3)
シナプス前部:シナプスにおいてシグナルを伝える側の神経細胞の末端部分。

<添付資料>
20110922

図1. 精神遅滞と自閉症の原因分子IL1RAPL1は、連結する相手の神経細胞のPTPδと互いに結合することにより、脳神経ネットワークの形成を促進する

4.発表雑誌:
雑誌名:「The Journal of Neuroscience」(9月21日号)31巻13485-13499頁
論文タイトル:IL-1 Receptor Accessory Protein-Like 1 Associated with Mental Retardation and Autism Mediates Synapse Formation by Trans-Synaptic Interaction with Protein Tyrosine Phosphatase δ
著者:吉田 知之、安村 美里、植村 健、李 聖眞、羅 紋眞、田口 良、岩倉 洋一郎、三品 昌美

5.問い合わせ先:
東京大学大学院医学系研究科 薬理学講座分子神経生物学教室
教授 三品 昌美(みしな まさよし)
講師 吉田 知之(よしだ ともゆき)

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