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「小さなRNA破壊の仕組みを解明 ―深まるRNA生物学―」

平成23年11月4日

東京大学大学院医学系研究科

1.発表者: 
鈴木  洋(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 分子病理学講座 特任助教)
宮園 浩平(東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 分子病理学講座 教授)

2.発表概要: 
東京大学大学院医学系研究科 鈴木 洋特任助教、宮園浩平教授らのグループは、細胞内のタンパク質の発現を調節し、癌などの様々な疾患に関与する小さなRNA(マイクロRNA, microRNA)が、MCPIP1と呼ばれる新たなRNA分解タンパク質によって調節されていることを世界に先駆けて突き止め、米科学誌Molecular Cell(モレキュラーセル)誌に発表しました。
この発見をもとに、miRNAと癌などの様々な疾患の関係に関する研究、およびこれに基づく診断・治療への応用に向けた研究が進展することが期待されます。

3.発表内容: 
  我々の体を構成する細胞の中で、RNA(リボ核酸)は、通常DNA(デオキシリボ核酸)・ゲノム(注1)がもつ遺伝情報からタンパク質を組み立てる際の、遺伝情報のコピー・タンパク質の設計図として使われます。しかし、一方で、現在、タンパク質の設計図とならないRNAが細胞の中には多く含まれていることも明らかになっています。
  この中でも、マイクロRNA (microRNA, miRNA)(注2)と呼ばれる小さなRNAは、主に、タンパク質の設計図となる他のRNAを抑制することで、様々なタンパク質の産生を調節するというユニークかつ重要な機能をもっています。miRNAは、その標的とするタンパク質の種類が極めて多岐にわたることを反映して、多種多様な細胞の機能を調節します。さらに、miRNAは、発生のタイミングといった重要な生命現象、および、がんなどの様々な病気にも関わっていることが明らかになっており、miRNAの測定に基づく病気の診断法やmiRNAの働きを応用した治療法の研究が世界中で進められています。

 miRNAは、細胞の中でDNAから長いRNA(miRNA一次転写産物)として作られた後、核の中でDrosha(ドローシャ)と呼ばれるRNA切断タンパク質によって切断されることで、ヘアピン状のやや小さなRNA(miRNA前駆体)へと形を変えます。その後、miRNA前駆体は、細胞質でもう1つのRNA切断タンパク質、Dicer(ダイサー)(注3)によって切断されることで、成熟型の小さなRNAへと変換され機能するようになります。miRNAが細胞内で作られるこれらの過程はこれまでの研究で明らかになってきましたが、一方で、miRNAの量が細胞内でどのように維持されているのか、あるいは、miRNAの量が細胞内で減るときにどのような仕組みで減るのかについてはほとんど分かっていませんでした。例えば、がんでさまざまなmiRNAが減ってしまうメカニズムを理解するためには、特にこの謎を解明することが重要です。

 今回、我々は、MCPIP1と呼ばれる、Drosha、Dicerとは別の新たなRNA切断タンパク質が、miRNA前駆体を分解・破壊することでmiRNAの産生を抑制することを突き止めました。
  様々なRNAに結合するタンパク質がmiRNAの調節に関与している可能性を検討した結果、細胞の免疫応答に関係するMCPIP1と呼ばれるタンパク質がmiRNAの活性と発現量を強く抑制することが分かりました。詳細に調べた結果、MCPIP1は、細胞質でmiRNA前駆体をRNA切断タンパク質として破壊し、DicerのRNA切断による成熟型miRNAの産生を阻害することが見出されました(図1)。DicerもMCPIP1もともにRNA切断タンパク質ですが、DicerがmiRNA前駆体のヘアピン構造の一本鎖状のループ部分と二本鎖状のステム部分の境界を規則正しく切断するのに対し(二本鎖状のステム部分が成熟型miRNAとなる)、MCPIP1はヘアピン構造のループ部分を不規則に切断する(図2)ことが明らかとなり、小さなRNAの誕生と破壊を司る2つのRNA切断タンパク質が細胞内にともに存在し、miRNAの産生を巧妙に調節するという新たな概念に到達しました。
  また、多くの癌でさまざまなmiRNAの発現異常が認められ、Dicerの発現量と癌の予後が関係することも報告されています。肺癌の遺伝子発現データを解析した結果、この解析でもDicerとMCPIP1が拮抗する関係にあることが示唆されました。

 これらの知見は、miRNAシステムの負の調節機構を明らかにし、miRNAが作られ機能する基本メカニズムと生命の進化の過程におけるその変遷をより深く理解し、がんなどのさまざまな病気でのmiRNAの異常を理解するための新たな視点を提供するものです。また、人工的な核酸などを薬として使う場合の細胞内のRNAの変化を理解し予測するためにも重要な知見であると考えられます。この発見をもとに、miRNAと様々な疾患の関係に関する研究、およびこれに基づく診断・治療への応用に向けた研究が進展することが期待されます。

 なお、本研究は東京大学大学院医学系研究科と順天堂大学との共同研究により行われました。また、本研究は文部科学省の科学研究費補助金、グローバルCOEプログラムなどの支援を受けて行われました。

4.発表雑誌:
雑誌名:「Molecular Cell」(2011年11月4日号)
論文タイトル:MCPIP1 ribonuclease antagonizes Dicer and terminates microRNA biogenesis through precursor microRNA degradation
著者:鈴木洋、荒瀬麻友、松山弘典、崔永林、上野敏秀、間野博行、杉本耕一、宮園浩平
アブストラクトURL:http://www.cell.com/molecular-cell/

5.注意事項:
報道解禁は、日本時間 :2011年11 月 4 日(金)午前 1 時
[米国東部標準時間(サマータイム):2011年 11 月 3 日(木)正午] となります。
新聞掲載は、11 月 4 日朝刊以降をもって解禁となります。

6.問い合わせ先: 
東京大学大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 分子病理学講座
特任助教  鈴木  洋

7.用語解説:
(注1)ゲノム
ある生物のもつ全ての遺伝情報、あるいはこれを保持するDNA配列。

(注2)マイクロRNA (microRNA, miRNA)
miRNAは二十数塩基からなる1本鎖RNAであり、タンパク質の設計図とならないRNAの1種です。miRNAは、主に、相補的な配列を持った一部の、タンパク質の設計図であるRNAと相互作用し、タンパク質への産生を抑制します。

(注3)Dicer(ダイサー)
miRNAは、DNA・ゲノムから一次転写産物として作られた後、核内と細胞質内で、DroshaとDicerという2つの「はさみ」に相当するRNA切断タンパク質によってそれぞれ切断されることで、成熟型miRNAへと作られます。Dicerは、細胞質でmiRNA前駆体を切断します。

20111104

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