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複雑なネットワークの動的頑強性 ―つながりの少ない要素の重要な役割―研究成果

複雑なネットワークの動的頑強性
―つながりの少ない要素の重要な役割―

平成24年2月1日

1.発表者
田中 剛平(東京大学 生産技術研究所 特任准教授)
森野 佳生(東京大学大学院 情報理工学系研究科 博士課程大学院生)
合原 一幸(東京大学 生産技術研究所 教授)

2.発表概要

東京大学生産技術研究所の田中剛平特任准教授と合原一幸教授らは、多数の要素が複雑につながったネットワークの動的頑強性(動的ロバスト性)の基礎理論を確立しました。これまで、つながりの多い要素、すなわち他のたくさんの要素とつながったハブ的要素の重要性についてはよく指摘されてきましたが、つながりの少ない要素の重要な役割については知られていませんでした。今回、ネットワークの動的安定性に関する基礎理論を構築し、複雑なネットワークの動的現象が、つながりの少ない要素の故障によりきわめて脆弱になり得ることを、数理モデルを用いた解析によって示しました。本結果は、脳の老化や心臓疾患などの疾病の進行を抑制する治療やスマートグリッドの安定な制御などに役立つ新しい指針につながると期待されます。この成果は、2012年1月25日にネイチャー・パブリッシング・グループの総合科学雑誌サイエンティフィックレポーツ(オンライン版)に掲載されました。掲載論文は下記URLからどなたでも無料で閲覧することができます。
http://www.nature.com/srep/2012/120125/srep00232/full/srep00232.html

3.発表内容

■背 景
  現実世界には、人間関係、インターネット、WWW、神経回路網、電力網、交通網などのように、複雑なつながり方をした大規模ネットワークが数多くあります。ネットワーク化は、機能の効率化や利便性の向上などのメリットをもたらしますが、同時に局所的な故障や不具合によってネットワーク全体が機能しなくなるリスクを伴います。例えば、細胞の壊死は生体の疾病を、発電設備の故障は大規模な停電を、サーバーダウンは大規模な通信システム障害を引き起こすことがあります。ネットワーク理論では、ネットワークをグラフ(注1)で表現し、一部の頂点や枝の除去によって生じるネットワークの構造変化を解析することで、故障耐性に関する一般的性質が研究されてきました。例えばスケールフリーネットワーク(注2)は、ハブの故障には極めて弱いことが広く知られています。しかし、実際には、つながっている要素間で電気信号、化学物質、パケットなどの物理量のやりとりがあります。このような相互作用を考慮した場合の、複雑ネットワーク上の動的現象の故障耐性、すなわち動的安定性についてはこれまで分かっていませんでした。

■内 容
  本研究グループは、振動現象(注3)を例として複雑ネットワーク上の動的現象の頑強性、すなわち動的頑強性を調べました。振動現象を表現する振動子モデル(注4)を多数つなげてネットワークを数学的に構成し、振動子間の相互作用として拡散効果(注5)を仮定しました。ネットワーク内で故障する振動子が増えていくと、全体の平均的な振動レベルは弱まっていきますが、故障率がある値を超えると突然すべての振動子が振動しなくなります。この振動が維持される最大の故障率を頑強性の指標として、理論計算と数値シミュレーションによる解析を行ったところ、予測に反して、つながりの少ない要素が全体の振動の維持に大きく寄与することが分かりました(図1)。実際、スケールフリーネットワーク上の振動活動は、つながりの少ない頂点の故障に非常に弱いことが明らかになりました(図2)。

■効 果
  本研究の成果は、ネットワーク機能の頑強性が、要素どうしのつながり方だけでなく、要素の動的性質と要素間の動的相互作用にも大きく依存することを示唆しています。現実のネットワークに対しても同様の手法で故障耐性を調べ、動的機能の維持にとって重要な役割をもつ要素と相互作用を同定できれば、将来的には、脳、心臓やすい臓などの疾病進行を抑制する治療、自然エネルギー源を多数導入したスマートグリッドの動的安定性を保ち大規模停電を回避する制御、震災時にも機能を保つ通信ネットワークの設計などに役立つ基礎理論になり得ると期待されます。

■今後の展開
  実際の生体や電力等のネットワークについて、要素の結合関係を表す実データと要素間の相互作用を表す数理モデルを組み合わせることで、個別のシステムの故障耐性を明らかにしていきたいと考えています。

4. 発表雑誌:

Gouhei Tanaka, Kai Morino & Kazuyuki Aihara: Dynamical robustness in complex networks: the crucial role of low-degree nodes. Scientific Reports 2, 232; DOI:10.1038/srep00232 (2012).

5. 問い合わせ先:
・田中 剛平(たなか ごうへい)
東京大学 生産技術研究所 特任准教授 

・合原 一幸(あいはら かずゆき)
東京大学 生産技術研究所 教授

6. 用語解説:
(注1)グラフ
要素に対応する頂点(ノード)と要素間のつながりに対応する枝(リンク)を用いた、ネットワークの表現方法。多数の頂点が多数の枝で複雑につながったネットワークを複雑ネットワークと呼びます。

(注2)スケールフリーネットワーク
一部の頂点が膨大な枝を持ち、ほとんどの頂点はごくわずかな枝しか持たないような複雑ネットワーク(図2)。人間関係、インターネット、WWWなどは実際にスケールフリー性を持つことが知られています。

(注3)振動現象
心拍や概日リズムに関係する細胞活動、発電機、発振電子回路など、様々な生物、物理、工学システムに見られる、物理量が時間とともに振動する動的現象。

(注4)振動子モデル
状態が時間と共に周期的に変動する振る舞いを表す数理モデル。本研究では、標準的な微分方程式モデルを用いて、正常な振動子の周期振動と故障した振動子の減衰振動を表しました(図3)。

(注5)拡散効果
物理量の流れが勾配に比例して起きる現象のこと。本研究のモデルでは、枝でつながっている振動子間には振動の大きさを同程度に均衡化しようとする作用が働きます。したがって、故障した振動子は単体では振動できませんが、ネットワーク内で十分な数の正常な振動子とつながっていれば相互作用によって弱い振動を維持することが可能です。

7. 添付資料:
20120201_01
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20120201_02

20120201_03

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