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抑制性神経伝達物質GABAが脳のシナプス刈り込みを制御する研究成果

抑制性神経伝達物質GABAが脳のシナプス刈り込みを制御する

平成24年4月27日

東京大学大学院医学系研究科

1.会見日時: 平成24年 4月23日(月)16:00 ~ 17:00  
 
2.会見場所: 文部科学記者会 会見場(東京都千代田区霞ヶ関3-2-2 東館12階)

3.出席者: 狩野 方伸(東京大学大学院医学系研究科神経生理学分野 教授)

4.発表のポイント
◆成果:発達期の脳における、必要な神経結合(シナプス)の強化と不要な神経結合の除去(シナプス刈り込み)の過程を抑制性伝達物質GABAが制御することを明らかにした。
◆新規性:GABAが神経細胞の活動を抑え込むことにより、残っている不要なシナプスの除去を促進し、刈り込みが完成することが明らかになった。
◆社会的意義/将来の展望:神経結合のバランスは脳機能の発達に重要であり、その異常の関連性が示唆されている統合失調症や自閉症の理解にとって新しい切り口を提供した。

5.発表概要: 
社会性障害をきたす代表的な疾患である統合失調症や自閉症には神経回路発達の異常が関わるとされており、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラム課題Dでは、神経回路発達を主要な研究対象としている。生後間もない脳には過剰な神経結合(シナプス)が存在するが、やがて必要な結合は強められ、不要な結合は除去されて、機能的な神経回路が完成する。この過程は「シナプス刈り込み」と呼ばれ、神経回路発達における普遍的現象であり、その異常は統合失調症や自閉症とも関係すると考えられている。
今回、東京大学大学院医学系研究科の狩野方伸教授らは、小脳において、シナプス刈り込みに抑制性神経伝達物質GABA(注1)の働きが必要であることを明らかにした。研究グループはGABAの合成が低下するように遺伝子改変されたマウスを用い、脳幹から小脳へ興奮性の信号を送る登上線維(注2)と小脳のプルキンエ細胞(注3)の間のシナプスを調べた。その結果、このマウスでは生後10日頃から16日頃までのシナプス刈り込みが障害されており、さらに、GABAの働きを増強する薬を投与すると、シナプス刈り込みが正常に起こることを確認した。
これまでの研究で、自閉症や統合失調症に神経回路発達異常が関わるとされ、統合失調症で前頭葉のGABA伝達系の低下が報告されていることから、マウスで見出された本研究の成果は、今後の更に詳細な研究とともにヒトでの臨床的な検証を踏まえて、これらの精神疾患の理解につながる可能性があると考えられる。
本研究は文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として、また科学研究費補助金の助成を受けて行われた。

6.問い合わせ先: 東京大学 大学院医学系研究科 神経生理学分野 
狩野 方伸 (かのう まさのぶ)教授

7.用語解説:
(注1)GABA:γアミノ酪酸。脳における主要な抑制性神経伝達物質。脳の神経細胞はGABAを結合する蛋白質(GABA受容体)を持っており、GABAを受け取ると神経細胞の活動は抑えられる。

(注2)登上線維:脳幹の延髄にある神経核(下オリーブ核)から、小脳皮質のプルキンエ細胞へ情報を伝える入力線維。大人では、ほとんどのプルキンエ細胞が、わずか1本の登上線維からシナプスを受けている。

(注3)プルキンエ細胞:小脳皮質に存在する大型の神経細胞で、小脳皮質の信号を小脳核を介して大脳、脳幹、脊髄に送り、円滑な運動を行うために重要な働きをしている。

会見当日の資料は、こちらからダウンロードできます。

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