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量子効果で銀細工
―界面単原子層による1nm厚金属超薄膜内電子状態の次元制御―

平成24年7月27日

東京大学物性研究所

1.発表者: 松田 巌(東京大学物性研究所 准教授)

2.発表のポイント: 
◆どのような成果を出したのか
半導体基板上に自己組織化により形成する金属超薄膜について、膜厚及び界面原子層を制御することで、その電子状態の次元性を制御することに成功した。
◆ 新規性(何が新しいのか)
銀薄膜は電子状態を3次元から2次元に変えることが知られていたが、さらに1次元に変えることに成功した。室温で量子効果による自発的な構造及び電子状態変化で、成膜及び薄膜機能の新しい制御法である。
◆社会的意義/将来の展望
新しい“金属細工”は今後の量子ナノデバイス技術への応用が期待される。

3.発表概要: 
東京大学物性研究所の松田巌准教授及び大学院生の小河愛実氏(大学院理学系研究科 博士課程3年)はイタリア、アメリカの研究グループと共に、半導体基板上の厚みが数ナノメートル以下の薄膜(超薄膜)に閉じ込められた電子状態が3次元、2次元、1次元と制御できることを示した。
金属の薄膜は1ナノメートル(10-9 m, nm)まで薄くすると量子サイズ効果が実現され、電子状態は3次元から2次元系へと転移させることができる。本研究では半導体基板上に1nm周期の原子鎖列を用意し、その上に超薄膜を成長させることで、この2次元電子状態をさらに1次元系へと転移させることに成功した。これら電子状態の幾何学的な変化は、高輝度放射光光源を用いた光電子分光法による電子構造(フェルミ面)の直接観測で確認された。このような自己組織的な超薄膜において電子の次元制御が実証されたのは世界で初めてのことである。
これら低次元の電子状態はいずれも室温で実現されており、また電子を閉じ込めている銀薄膜も簡単な蒸着法により作製している。超微小材料では室温でも量子効果が発現し、その結果、金属結晶において原子構造及び電子状態の次元性の転移が自発的に促されることを本研究は初めて明らかにした。量子力学を利用したこの新たな“金属細工”法はナノデバイス技術に新しい可能性を示す。

4.発表内容: 
ナノテクノロジーに代表される微細化技術は内在する電子の波長程度の大きさに達し、伝導を担うキャリアも古典的な粒子の振舞いに加えて量子力学に基づく波動的な電子状態も形成する。金属薄膜では厚さを1nm程度にすると、いわゆる“量子閉じ込め効果”によって電子状態は3次元から2次元系へと転移する。1nmとは3~6原子層に相当し、薄膜内部(バルク)層に対する表面・界面単原子層の割合(表面/バルク比)は極めて大きい。その結果、表面・界面単原子層をうまく選ぶことで、超薄膜の電子物性を劇的に変えることが期待される。
本研究では代表的な半導体であるシリコン(Si)結晶を基板として、導電性が高い銀(Ag)の1nm厚の超薄膜を自己組織的に成長させ、まずは内在する電子系が2次元的であることを示した。実験は国内外の高輝度放射光実験施設において行われ、角度分解光電子分光法(注1)により直接的にその電子構造(フェルミ面)が確認された。電気伝導などの金属物性は、内在する電子の中で最もエネルギーが高い(フェルミエネルギー)ものが支配している。金属中の電子は結晶全体に渡って存在し、そのため位置よりもその波数(波長)で表現する方が妥当である。フェルミ面とはこの波数空間において描かれたフェルミ準位における等エネルギー面であり、3次元系の自由電子はフェルミ球(sphere)を成している。量子閉じ込め効果が実現された1nm厚のAg超薄膜では、電子は量子井戸状態を形成して系は2次元系となる。そして光電子分光測定においてフェルミ円(circle)が確認された。
次にSi結晶基板上へのインジウム(In)原子の蒸着と加熱処理により、太さが原子4個分のIn原子鎖の列を約1nm周期で作製した。そしてこの上に、銀(Ag)の薄膜を自己組織的に同様に成長させると膜内に1次元的相互作用が発生し、その結果フェルミ線(line)が形成されることが光電子分光法で実証した。本研究ではこのような電子状態解析をX線回折法による構造解析と系統的に行い、この1次元相互作用の起源を超薄膜の原子構造から明らかにしている。また超薄膜内に形成された1次元電子状態と界面原子層の1次元電子状態が相互作用することで、系全体が安定化する新奇な低次元の薄膜物性も詳細な解析により今回発見した。
エレクトロニクスにおいて電気伝導の異方性は極めて重要であり、そのためには伝導を担うキャリア系の次元性を制御することが最も有効である。従来法では薄膜の厚さを制御することで系を3次元から2次元へと変化させていたが、本研究では界面原子層も組み合わせることでさらに1次元へと転移(トポロジカル転移)できることを自己組織化金属ナノ薄膜において初めて示した。このような金属超薄膜は単純な蒸着法で作製でき、またこの低次元量子効果も室温で実現している。
多機能及び省エネデバイスにおけて電子素子の微細化は重要であり、本研究が見出したわずか長さ1nmの微小空間における特有な電子状態の制御方法は、量子効果を利用した新しい“金属細工”法として今後のデバイス開発において新たな可能性を生み出している。
 
5.発表雑誌: 
雑誌名:「Physical Review Letters」(7月13日)
論文タイトル:Controlling the topology of Fermi surfaces in metal nanofilms
著者:M. Ogawa, A. Gray, P.M. Sheverdyaeva, P. Moras, H. Hong, L.C. Huang, S. J. Tang, K. Kobayashi, C. Carbone, T.-C. Chiang, I. Matsuda
DOI番号:10.1103/PhysRevLett.109.026802
アブストラクトURL:http://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.109.026802

6.問い合わせ先: 
東京大学物性研究所 准教授 松田巌

7.用語解説: 
注1 角度分解光電子分光法
結晶に(真空)紫外線を照射すると光電子が放出される(光電効果)。その電子の運動エネルギーと放出角を測定することで結晶の電子構造(バンド分散、フェルミ面)が決定できる方法。

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