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酸化ストレス誘導性の細胞死を制御する新たなメカニズムを解明研究成果

酸化ストレス誘導性の細胞死を制御する新たなメカニズムを解明

平成24年10月26日

東京大学大学院薬学系研究科

1.発表者:
一條秀憲(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 教授)
関根悠介(東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 助教)

2.発表のポイント:
◯どのような成果を出したのか
ヒトのさまざまな疾患の病態に関与する酸化ストレスによって引き起こされる細胞死に、KLHDC10というタンパク質が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

◯新規性(何が新しいのか)
酸化ストレスに応答するKLHDC10という新しいタンパク質を発見し、このタンパク質がASK1を持続的に活性化することにより細胞死を誘導していることを明らかにしました。

◯社会的意義/将来の展望
本研究成果により、酸化ストレス誘導性の細胞死が関与することが知られている神経変性疾患などのヒトの疾患に対する新たな治療薬開発につながることが期待されます。

3.発表概要:
  活性酸素種(注1)の発生によって生じる酸化ストレス(注2)は、神経変性疾患や代謝性疾患、がんなどヒトのさまざまな疾患の病態に関与します。重度の酸化ストレスは細胞を死に至らしめますが、どのような分子機構で細胞死が誘導されているかについては、不明な点が残されていました。東京大学大学院薬学系研究科の一條秀憲教授と関根悠介助教らの研究グループは、酸化ストレスに応答して細胞死を誘導する細胞内シグナル伝達分子(注3)であるASK1というタンパク質に着目し、ASK1の活性を調節する新しいタンパク質を発見しました。そのタンパク質(KLHDC10)は、ASK1の阻害因子であるPP5というタンパク質の機能を抑制することで、ASK1の持続的な活性化を可能にし、細胞死を誘導していることを明らかにしました。本研究成果により、酸化ストレス誘導性の細胞死が関与するパーキンソン病やアルツハイマー病といった神経変性疾患などのヒトの疾患に対する新たな治療薬開発につながることが期待されます。本研究成果は、2012年10月25日(米国時間)に、米国の科学雑誌「Molecular Cell」のオンライン版に公開されます。なお、本研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として、また科学研究費補助金ならびに先駆的医薬品・医療機器研究発掘支援事業などの助成を受けて行われました。

4.発表内容: 
<研究の背景>
  生体内での活性酸素種の過剰な産生は、生体を構成するタンパク質や核酸、脂質などに傷害を与え、その機能不全を引き起こす危険性があります。生物は活性酸素種を適切に解毒するさまざまな防御機構を備えていますが、それでも処理しきれない重篤な酸化ストレスが生じた場合、細胞死が誘導されます。このような細胞死は、神経変性疾患や代謝性疾患、がんなどヒトのさまざまな疾患の病態に関与することが知られています。しかしながら、どのような分子機構で酸化ストレスによって細胞死が誘導されているかについては、不明な点が残されていました。今回、東京大学大学院薬学系研究科の一條秀憲教授と関根悠介助教らの研究グループは、同研究科の三浦正幸教授らの研究グループとの共同研究によって酸化ストレスによって引き起こされる細胞死の分子機構の解明に取り組みました。

<研究の詳細>
  これまでに一條教授らは、ASK1という細胞内のシグナル伝達を担うタンパク質が、活性酸素種に応答して活性化し、細胞死を誘導することを明らかにしていました。しかしながら、酸化ストレス依存的なASK1の活性化がどのような分子機構で制御されているかについては不明な点が多く残されていました。そこで、ASK1の活性を制御する新たなタンパク質の探索を、遺伝学的研究に広く用いられているショウジョウバエを用いて行いました。その結果、KLHDC10というタンパク質がASK1を活性化することを明らかにしました。続いて、KLHDC10がどのようにASK1を活性化しているのかを明らかにするために、KLHDC10と結合する分子の探索を行った結果、PP5というタンパク質を同定しました。一條教授らは以前の研究で、PP5は酸化ストレス依存的にASK1に結合し、ASK1の機能を抑制する分子であることを明らかにしていました。そこで、KLHDC10がASK1を活性化する分子機構として、KLHDC10がPP5のASK1抑制効果を阻害することで、ASK1を活性化しているのではないかと仮説を立て、検証を行いました。その結果、KLHDC10は酸化ストレス依存的にPP5に結合すること、KLHDC10はPP5の活性を抑制することができること、KLHDC10の発現を抑制した細胞では、酸化ストレス依存的なASK1の持続的な活性化ならびに細胞死が抑制され、その効果はPP5の発現を同時に抑制することでキャンセルされることを明らかにしました。これらの結果は、KLHDC10がPP5の活性を阻害することで、酸化ストレス依存的なASK1の持続的な活性化を可能にし、細胞死を誘導していることを示唆しています。

 
<社会的意義・今後の期待>
  今回の研究成果の重要な点のひとつは、酸化ストレス誘導性の細胞死に重要な新たなタンパク質を発見したことです。酸化ストレスによって引き起こされる細胞死は、パーキンソン病やアルツハイマー病といった神経変性疾患をはじめヒトの様々な疾患の病態に関与することがしられています。また、ASK1の遺伝子を欠損させたマウスの解析から、ASK1も酸化ストレスが関与するさまざまな疾患において、細胞死を誘導することでその病態に関与していることが示唆されています。今後さらに詳細な解析を行うことで、KLHDC10によるASK1活性制御をターゲットとした新たな治療薬開発につながることが期待されます。

5.発表雑誌: 
雑誌名:Molecular Cell
論文タイトル:
The kelch repeat protein KLHDC10 regulates oxidative stress-induced ASK1 activation by suppressing PP5.
著者:
Yusuke Sekine, Ryo Hatanaka, Takeshi Watanabe, Naoki Sono, Shun-ichro Iemura, Tohru Natsume, Erina Kuranaga, Masayuki Miura, Kohsuke Takeda and Hidenori Ichijo

6.問い合わせ先: 
  一條秀憲 教授
  東京大学・大学院薬学系研究科 薬科学専攻 細胞情報学教室

 一條不在時
  関根悠介 助教
  東京大学・大学院薬学系研究科 薬科学専攻 細胞情報学教室

※「文部科学省 脳科学研究戦略推進プログラム」に関するお問い合わせ
脳科学研究戦略推進プログラム 事務局 (担当:大塩)

7.用語解説: 
(注1)活性酸素種:酸素分子に由来する、スーパーオキシド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素などの反応性の高い分子種の総称。ミトコンドリアでのエネルギー産生や細胞膜での酵素反応等によって生成される。
(注2)酸化ストレス:生体内での活性酸素種の産生とそれに対する抗酸化システムのバランスが崩れ、 活性酸素種による細胞傷害効果が優位になった状態。
(注3)細胞内シグナル伝達分子:細胞内外の環境で起こったさまざまな変化を感知し、その情報を核や細胞小器官へと伝達する一連の分子群。

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