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microRNAが遺伝子の発現を制御するしくみ研究成果

microRNAが遺伝子の発現を制御するしくみ

平成24年11月2日

東京大学分子細胞生物学研究所

1.発表者: 泊 幸秀(東京大学 分子細胞生物学研究所 准教授)

2.発表のポイント:
  ◆ microRNAが標的遺伝子発現を制御する新しいしくみを発見しました
  ◆ microRNAが複数の異なる機構を介してはたらくという概念を提唱しました
  ◆ microRNA作用原理の正確な理解に基づいた医薬応用等が期待されます

3.発表概要:
microRNAとよばれる小さなRNA(注1)は、標的となる遺伝子からのタンパク質発現を抑制することにより、発生(注2)や癌化をはじめとする様々な生命現象を緻密に制御しています。microRNAは複数のタンパク質と複合体を形成することで初めて機能を発揮します。この複合体において重要な役割を果たすのが、microRNAに直接結合するArgonauteタンパク質と、Argonauteに結合するGW182というタンパク質です。これまでGW182は、microRNAが機能を発揮する上で必須の因子であると考えられてきました。
しかし今回、東京大学分子細胞生物学研究所の泊 幸秀准教授らは、GW182に依存しない新たなmicroRNA作用機構の存在を明らかにしました。さらに、今回発見されたGW182非依存的な抑制機構は、これまで知られてきたGW182依存的な抑制機構とともに、標的遺伝子の発現抑制に働いていることが分かりました。
この発見は、microRNAが異なる複数の機構を介して遺伝子発現を抑制するという新たな概念を生み出すとともに、その正確な理解に基づく医薬等への応用が期待されます。

4.発表内容:
小さなRNAの一つであるmicroRNAは、標的とするmRNAからのタンパク質合成(翻訳)を適切に抑制することで、発生や細胞増殖といった重要な生命現象を緻密に制御しています。また、癌などをはじめとする重篤な疾患への関与も知られており、それらを標的した治療法なども精力的に研究されています。しかし、「microRNAがどのようにして標的遺伝子を抑制するのか」という根本的な謎については、これまで相反する様々な報告がなされており、正確な理解が遅れていました。
  microRNAは単独ではたらくわけではなく、機能を発揮するためには、いくつかのタンパク質と複合体を形成することが必要です。この複合体で中心的な役割を担うのがArgonauteと呼ばれるmicroRNA結合タンパク質と、Argonaute結合タンパク質であるGW182です。
  タンパク質の設計図として働くmRNAは通常、末端にPoly(A)鎖(注3)と呼ばれる特徴的な構造を持っており、翻訳の促進やmRNA自身の安定化に寄与しています。microRNAは、標的mRNAの「Poly(A)鎖の分解」と「翻訳抑制」を介して遺伝子発現を抑制することが知られていますが、GW182は、microRNAがこれらの機能を発揮するために必須の役割を担っていると考えられてきました。
  今回、東京大学分子細胞生物学研究所の泊 幸秀准教授と新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻博士課程の深谷 雄志さんは、GW182が存在しない状況を作り出し、その際のmicroRNAの振る舞いについて詳細な解析を行いました。その結果、従来考えられてきたように、GW182はmicroRNAによる「Poly(A)鎖の分解」には必須でしたが、一方で「翻訳抑制」はGW182非存在下においてもきちんと進行することを初めて明らかにしました。さらにGW182自身も「翻訳抑制」を誘導する活性を持つことから、microRNAによる標的遺伝子の発現抑制には、1) GW182依存的な「Poly(A)鎖の分解」、2) GW182依存的な「翻訳抑制」、3) GW182非依存的な「翻訳抑制」、の少なくとも3つの経路が寄与することが分かりました。過去の報告では、これら複数の異なる現象をひとまとめにして観察してしまっていたために、一見矛盾する結果が生じていたと推測されます。今回の発見は、microRNAが遺伝子発現を正しく制御するしくみの解明につながる成果であり、その正確な理解に基づく医薬等への応用が期待されます。

5.発表雑誌:
雑誌名: Molecular Cell
(オンライン掲載: 米国東部夏時間11月1日正午)

論文タイトル:microRNAs mediate gene silencing via multiple different pathways in Drosophila
著者:Takashi Fukaya and Yukihide Tomari
DOI番号:10.1016/j.molcel.2012.09.024
アブストラクトURL:http://www.cell.com/molecular-cell/abstract/S1097-2765%2812%2900824-6

6.問い合わせ先:  東京大学 分子細胞生物学研究所
准教授 泊 幸秀 (とまり ゆきひで)

7.用語解説: 
1) RNA: 日本語ではリボ核酸。一般的に知られているmRNAは、DNA(デオキシリボ核酸)がもつ遺伝情報のコピーであり、タンパク質の設計図として働く。一方、小さなRNAはタンパク質の設計図にはならない。

2) 発生: 受精卵から成体ができる過程のこと。

3) Poly(A)鎖: アデニンのみが連続する特徴的な配列。RNAは通常、4種類の塩基(アデニン、ウラシル、グアニン、シトシン)の並びによって構成されるが、mRNAは片側の末端にアデニンのみが連続するPoly(A)鎖を持つ。Poly(A)鎖はタンパク質の設計図としてではなく、翻訳の促進やmRNAの安定化に働いている。

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