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繊毛の長さを決めるメカニズムの解明 ―繊毛のハサミKIF19Aの発見―研究成果

繊毛の長さを決めるメカニズムの解明
―繊毛のハサミKIF19Aの発見―

平成24年11月16日

東京大学大学院医学系研究科

1.発表者: 
廣川 信隆
(東京大学大学院医学系研究科細胞生物学・解剖学講座/分子構造・動態学講座 
特任教授)

2.発表のポイント: 
  ◆成 果:
新しいモーター分子KIF19Aというタンパク質を発見しそれが繊毛を切りそろえて長さを決めるハサミの役割をすることを発見した。
  ◆新規性:
50年以上もの間謎だった哺乳類の繊毛の長さを決めるメカニズムを世界で初めて解明し、このメカニズムの破綻が不妊症や水頭症などを引き起こすことを発見した。
  ◆社会的意義/将来の展望:
この成果は、不妊症や水頭症の遺伝子診断や遺伝子治療に結びつく可能性がある。

3.発表概要: 
東京大学大学院医学系研究科 廣川信隆特任教授、丹羽伸介特任研究員らの研究グループは、繊毛の長さを決める新しいモーター蛋白質KIF19Aを発見しました。
  我々人間を含む哺乳類の脳室や卵管などには、繊毛と呼ばれる長さ5~10ミクロンほどの「動く毛」が生えており、この繊毛の運動によって脳脊髄液の循環や卵巣から子宮への卵子の輸送などが行われています。繊毛の運動や長さの異常は、水頭症や不妊症などの病気を引き起こすことが知られていますが、50年以上もの間、繊毛の長さを決めるメカニズムは謎のままでした。
  研究グループは、新しいモーター蛋白質KIF19Aが繊毛の先端に局在することに着目し、試験管内の実験でKIF19Aタンパク質が伸びすぎた繊毛の先端を切りそろえるハサミとして働くことを発見しました。
また、KIF19Aタンパク質が働かないマウスを作成したところ、繊毛の長さが2倍から3倍になり、繊毛がうまく動けずに適正な水流を生じることが不能となることを発見しました。このマウスでは水頭症や卵管閉塞による女性不妊といったヒトの病気と同じ症状が見られます。 
今回の成果より、水頭症や不妊症のリスクの予測や予防、正確な遺伝子診断や遺伝子治療に結びつく可能性があります。
この成果はDevelopmental Cell誌電子版に11月15日付で掲載されます。

4.発表内容: 
東京大学大学院医学系研究科 廣川信隆特任教授、丹羽伸介特任研究員らの研究グループは、繊毛の長さを決めるKIF19Aという新しいモータータンパク質を発見した。これにより、50年以上謎のままであった哺乳類の繊毛の長さが決まるメカニズムの一端が初めて明らかになった。
  我々哺乳類の卵管や脳室などの細胞には、繊毛と呼ばれる長さ5~10ミクロンほどの微細な動く毛が存在する。卵管では卵管上皮細胞の繊毛の運動により卵子が卵巣から子宮に輸送される。脳室では脳室上皮細胞の繊毛の運動により脳脊髄液の循環が起こり、脳圧が一定に保たれている。繊毛に異常が起こると卵管閉塞による不妊症、脳圧の上昇による水頭症などの様々な病気が起こる。
  動く繊毛が卵管内部で卵子を輸送したり、脳脊髄液の流れを作り出したりするには、繊毛の長さが適切に保たれていなくてはいけない。長すぎても短すぎても繊毛の運動には支障が出て、不妊症や水頭症といった病気が起こる。そのため、我々哺乳類では何らかのメカニズムによって繊毛の長さが一定に保たれていることが50年以上前から予測されていたが、その実体は全く不明であった。
  研究グループは、繊毛の先端にKIF19Aが集積することを発見し、そのタンパク質に着目して機能を解析した。繊毛の内部は微小管と呼ばれる微小なチューブが束になって構成されていることが知られている。試験管内で精製したKIF19Aタンパク質と微小管を混ぜると、微小管が先端から徐々に壊されることがわかった。遺伝子工学の手法により作製したKIF19Aタンパク質が働かないマウス(KIF19Aノックアウトマウス)では、繊毛の長さが2倍から3倍ほどになっていた。これらのことからKIF19Aタンパク質は繊毛の先端を切りそろえるハサミの役割をしていると考えられる。また、KIF19Aノックアウトマウスの長すぎる繊毛には運動に支障がでていた。このため、KIF19Aノックアウトマウスでは卵管閉塞による女性不妊や水頭症といったヒトの病気とよく似た症状が起こった。卵管閉塞による女性不妊や水頭症の正確な原因は不明なことが多い。しかし、今回の発見はこれらの病気の正確な遺伝子診断や遺伝子治療、リスクの予測や予防などに役立つ可能性がある。
 
5.発表雑誌: 
雑誌名:「Developmental Cell」(11月15日オンライン版)
論文タイトル:KIF19A is a microtubule-depolymerizing kinesin for ciliary length control
著者:丹羽伸介、中島一夫、三木玄方、湊雄介、王斗斗、廣川信隆

6.問い合わせ先: 
東京大学大学院医学系研究科細胞生物学・解剖学講座/分子構造・動態学講座 特任教授
廣川 信隆

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