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記者会見「低コストな除染材の大量供給が可能に ―放射性セシウム除染布、量産工程を確立―」研究成果

記者会見
「低コストな除染材の大量供給が可能に ―放射性セシウム除染布、量産工程を確立―」

平成24年11月27日

東京大学生産技術研究所
小津産業株式会社

1.発表日時:
平成24年11月27日(火)15:00~16:00(受付開始 14:30)

2.発表場所:
東京大学生産技術研究所 総合研究実験棟An棟3F大会議室(An301、302)
〒153-8505 目黒区駒場4-6-1 駒場リサーチキャンパス

3.発表者:
東京大学生産技術研究所
石井 和之(准教授)
迫田 章義(教授)
工藤 一秋(教授)
立間  徹(教授)
黒岩 善徳(技術職員)
小尾 匡司(大学院生)
市原 孝之(派遣職員)
榎本 恭子(派遣職員)
小津産業株式会社
中田 範三(代表取締役社長)
河田 邦雄(取締役営業本部長)
金子 裕一(加工開発室)
野口 敏明(新事業開発室)
近藤 貴之(新事業開発室)
立野 智之(クリーンサプライ営業部)

4.発表ポイント:
①成果
プルシアンブルー(注1)を固定化した低コストな放射性セシウム除染布の量産工程を確立。

②新規性
プルシアンブルーとなじみやすい不織布(注2)を用いることで、従来品に比べ低コスト化が見込める放射性セシウム除染布の量産工程を確立。

③意義/将来展望
低コストな放射性セシウム除染布の大量供給が可能となり、放射能汚染水・汚染土壌の処理を加速化するものと期待される。

5.発表概要:
東京大学生産技術研究所と小津産業株式会社は、放射性セシウム吸着効果のある人工青色顔料「プルシアンブルー」となじみやすい不織布を用いることで、放射性セシウム除染布の量産工程を確立した。
東京大学生産技術研究所は、2012年5月に「プルシアンブルー」を繊維に固定化する新しい方法を開発・発表していた(注3)が、量産工程が確立されていなかったため、実際の除染作業における活用には至っていなかった。今回使用した不織布はプルシアンブルーが外れにくく、丈夫で軽く、扱いやすい。従来品に比べ低コストで大量に生産できるようになると見込まれる。小津産業株式会社は、放射性セシウム除染布の大量生産並びに供給を開始する。放射能汚染水・汚染土壌などの除染を加速するものと期待される。

6.発表内容:
背景
福島第一原子力発電所における未曾有の事故以降、放射性物質による環境汚染が深刻な問題となっている。なかでも半減期が長いセシウム137イオン(注4)を水や土壌から除くことが最重要課題である。東京大学生産技術研究所の化学系有志研究グループは、東日本大震災が発生した2011年3月から本研究を開始し、環境省の支援(環境研究総合推進費)と福島県飯舘村の協力を受けて、放射性セシウム吸着効果のある人工青色顔料「プルシアンブルー」を繊維に固定化する新しい方法を開発した。本方法により作製した放射性セシウム除染布は、他の陽イオンが多量に共存していても、微量のセシウムイオンを選択的に回収できる。このことは、同グループが福島県での実験で明らかにしている(2012年5月に発表、注3)。
しかしながら、量産工程が確立されていなかったため、実際の除染作業における活用には至っていなかった。

安価で丈夫な放射性セシウム除染布の量産工程確立に成功
今回、東京大学生産技術研究所と小津産業株式会社は、東京大学生産技術研究所が開発した放射性セシウム除染布の量産工程を確立した。プルシアンブルーとなじみやすい不織布を用いることで、生産ライン上でも、プルシアンブルーが不織布へ固定化された。

今回量産化が可能となった放射性セシウム除染布の特徴は、以下の通りである。
1)手作業で丁寧に試作した除染布と同程度のセシウムイオン回収能力を有する。
2)2種類の原料溶液へ不織布を順次浸すだけの簡便な生産方法である。
3)得られた吸着材は軽くて丈夫であり、プルシアンブルーが脱落しにくい。
4)切断も容易で、様々な大きさ・形にしやすい。
5)従来品に比べ低コスト化が見込まれる。

小津産業株式会社は、放射性セシウム除染布の大量生産並びに供給を開始する。除染布はシート状、ロール状など多様な形態に加工でき、水、土壌、下水汚泥、焼却灰などの除染への活用が期待される。今後、自治体、除染業者、除染装置メーカーなどへ供給する。なお、製品の特性上、使用後の処理も考慮し、基本的に個人への販売は行わない。

8.問い合わせ先:
研究内容に関する問合せ先
石井 和之
東京大学生産技術研究所物質環境系部門准教授

除染布供給に関する問合せ先
金子 裕一
小津産業株式会社

9.用語解説:
(注1)プルシアンブルー: 紺青、ベルリンブルーなどとも呼ばれる顔料。一般的に、フェロシアン化カリウムと塩化第二鉄から合成される。製法等によって組成や構造にわずかな違いが生じ、性質も異なる。適切に合成すれば非常に安定で、難溶性である。陽イオンを取り込む性質があり、とくにセシウムイオンを取り込みやすいことが知られている。原料であるフェロシアン化カリウムは厚生労働省により食品添加物として認められ、食塩に固結防止剤として加えられる。塩化第二鉄も栄養強化に関する食品添加物として認められている。プルシアンブルーは、ドイツなどでは体内からのセシウム除去を目的とした医薬品として販売されている。

(注2)不織布: 今回用いた不織布は、ふき取り性、吸収性が良く、焼却などによる廃棄処理が容易な事から原子力発電所用ワイピングクロスとしても長年の使用実績がある。

(注3)放射性セシウム除染布: 東京大学生産技術研究所で開発した放射性セシウム除染布は、十分な能力を持つことがすでに実証されている。(平成24年5月28日 記者会見「雨どいの放射能汚染水を飲料水基準値以下に ―放射性セシウム除染布を開発―」において発表。
参考URL: http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_240528_j.html
1)布1枚(図1、60×40センチメートル、18グラム)で最大2.5ミリグラムのセシウムイオン(セシウム137なら80億ベクレル)を吸着できる。
2)10リットル(10キログラム)の水に10ミリグラムのセシウムイオンが溶けている場合、その99パーセント以上を10グラムの吸着材で回収できる(他の陽イオンが存在しない場合)。
3)福島県での実験で、約20ベクレルの放射能を示す雨どいの水1リットルに、20グラムの吸着材を一晩浸したところ、放射能は検出限界(8ベクレル)以下になった。つまり、飲料水の基準値(リットルあたり10ベクレル)よりも低くできた。
4)アンモニウムイオンやカリウムイオンなど、セシウムイオンと競合する可能性のある陽イオンが多量にあっても、微量のセシウムイオンを選択的に回収できる。実際に、非常に高い濃度の肥料を含む水(約100グラムの硫酸アンモニウムと約100グラムのリン酸二水素カリウムを含む1リットルの水)の中であっても、セシウムイオンを回収することができた。
5)上記3)の実験を行った後の布の放射能は、取り扱いに危険を伴わないレベルであった。

(注4)セシウム137: ウラン235の核分裂などによって生成する放射性物質。半減期は約30年であり、福島第一原発の事故において、長期の放射能汚染の主因になると考えられている。水や土壌においては、1価の陽イオンであるセシウム137イオン(137Cs+)として存在していると考えられる。

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