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感染症の情報による人間行動の変化を考慮した感染症伝播の数理モデル解析研究成果

感染症の情報による人間行動の変化を考慮した感染症伝播の数理モデル解析

平成24年11月28日

東京大学生産技術研究所

1.発表者:
王  冰  Bing Wang(科学技術振興機構 合原最先端数理モデルプロジェクト 研究員 /
       東京大学 生産技術研究所 民間等共同研究員)
曹  Lang  Lang Cao(東京大学 大学院情報理工学系研究科 数理情報学専攻 博士課程)
鈴木 秀幸 Hideyuki Suzuki(東京大学 生産技術研究所 准教授)
合原 一幸 Kazuyuki Aihara(東京大学 生産技術研究所 教授)

2.発表ポイント
①新型インフルエンザなどの感染症の感染拡大に関する情報が人々の行動に与える影響を考慮した、新しい感染症伝播の数理モデルを構築・提案した。
②人々が自身の安全を考えて、感染が拡大している地域を避け、感染が拡大していない地域を選んで移動することが、全体としては感染の拡大を促進し得ることを、本モデルの解析により明らかにした(図2)。
③本モデルは、現実の感染拡大のメカニズムの理解や対応策の検討のための理論的基盤となることが期待される。

3.発表概要:
東京大学生産技術研究所の王冰研究員(内閣府/JSPS FIRSTプログラム 合原最先端数理モデルプロジェクト研究員)、鈴木秀幸准教授、合原一幸教授らの研究チームは、新型インフルエンザなどの感染症の感染拡大に関する情報が人々の行動に与える影響を考慮した、新しい感染症伝播の数理モデルを構築・提案した。
本研究では、多数の国や都市などの間を人々が行き来する状況を抽象化した感染症モデルであるメタポピュレーションモデル(注1)をベースに、感染状況の情報による人々の行動の変化を考慮した数理モデルを構築した(図1)。また、このモデルの解析により、人々が自身の安全を考えて、感染が拡大している地域を避け、感染が拡大していない地域を選んで訪れることが、全体としては感染の拡大を促進し得ることを明らかにした(図2)。
この成果は、2012年11月27日にネイチャー・パブリッシング・グループの総合科学雑誌「Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ誌)」(オンライン版)に掲載されました。掲載論文は下記URLからどなたでも無料で閲覧することができます。
http://www.nature.com/srep/2012/121126/srep00887/full/srep00887.html

4.発表内容:
■背 景
   新型インフルエンザなどの感染症の感染拡大のメカニズムを理解することは、感染の拡大を防ぐための対応策などを検討するために重要である。そのため、感染症の数理モデルを用いた研究が行われてきているが、従来のメタポピュレーションモデル(注1)においては、感染症の感染拡大に関する情報が人々の行動に与える影響の理論的な解析がなされていなかった。

■内 容
  本研究グループは、この問題に対して、多数の国や都市などの間を人々が行き来する状況を、ネットワーク構造を用いて抽象化して表現した感染症モデルであるメタポピュレーションモデル(注1)をベースに、人々の行動の変化を考慮した感染症の数理モデルを構築した(図1)。このモデルでは、人々は各地域の感染状況の情報を得て、それに基づき行動を変化させる。このモデルに対して、複雑ネットワーク理論の平均場近似手法を用いることにより、基本再生産数(感染の拡がりやすさを定量的に評価する指標)等の計算方法を理論的に導出した。さらに、この結果を複雑ネットワークモデルおよび日本の国内航空ネットワークの実データに適用して、人々の行動の変化が感染伝播に及ぼす影響を解析した。具体的には、人々が感染の拡大している地域と拡大していない地域のどちらを選好するか表現するパラメータを変化させたときに、感染が拡大するために必要な感染力(感染しやすさ)と、感染が拡大する範囲を評価した。その結果、人々が感染の拡大していない地域を選好すると、低い感染力でも感染拡大を引き起こし、広い範囲に感染が拡がることを明らかにした(図2)。この結果は、現実の感染拡大においても、人々が自身の安全を考えて、感染が拡大している地域を避け、感染が拡大していない地域を選んで訪れることが、全体としては感染の拡大を促進し得ることを示唆している。

■効 果
  本研究は、人間行動の変化を考慮した数理モデルを提案し、複雑ネットワーク理論を応用することにより、モデルの理論的解析を可能としたものである。このモデルは、現実の感染拡大の理解や対応策の検討のための理論的基盤となることが期待される。

5.発表雑誌:
Bing Wang, Lang Cao, Hideyuki Suzuki, Kazuyuki Aihara. Safety-information-driven human mobility patterns with metapopulation epidemic dynamics. Scientific Reports. (2012).

6.問い合わせ先:
・鈴木 秀幸(すずき ひでゆき)
東京大学 生産技術研究所 准教授

・合原 一幸(あいはら かずゆき)
東京大学 生産技術研究所 教授

8.用語解説:
(注1)メタポピュレーションモデル
多数の国や都市などの間を人々が行き来する状況を、ネットワーク構造(注2)を用いて抽象化して表現した感染症モデル(図1)。ネットワークの頂点は地域を表し、枝は地域間の人の移動を表す。各地域内では一様な感染が起きるものと仮定する。このような仮定により、実際の人の移動の多様性をある程度表現しつつ、理論的にも解析可能なモデルを構築することができる。

(注2)ネットワーク
複数の構成要素間のつながりを表現する数理的概念で、グラフとも呼ばれる。各構成要素に対応する「頂点」と、要素間のつながりに対応する「枝」によって構成される。特に、人間関係、インターネット、WWW、遺伝子ネットワーク、たんぱく質相互作用ネットワーク、神経回路網、電力網、交通網など、多数の頂点が複雑につながったネットワークは現実によく現れ、このようなネットワークのことを複雑ネットワークと呼ぶ。

添付資料はこちら

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