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子供とお年寄りが協力して守り、その他は逃げる
―アブラムシの巧みな分業体制―

平成25年1月16日

東京大学大学院総合文化研究科

1.発表者:
植松 圭吾(日本学術振興会海外特別研究員(ケンブリッジ大学動物学科所属))
柴尾 晴信(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系 特任研究員)
嶋田 正和(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系 教授)

2.発表のポイント
  ◆どのような成果を出したのか
アブラムシにおいて、個々のメンバーが自らの役割に応じて防衛に適したフォーメーション(陣形)をとり、天敵の侵入に備えることを明らかにした。
  ◆新規性(何が新しいのか)
最高齢と最若齢の個体が協力して防衛を行い、中間齢の個体は安全な場所に逃げて繁殖に専念するという、新規な分業体制を発見した。
  ◆社会的意義/将来の展望
生物社会における分業体制の多様性およびその進化について新たな視点を与える。

3.発表概要: 
東京大学大学院総合文化研究科博士課程(現・日本学術振興会海外特別研究員)の植松圭吾らは、昆虫の社会において、最も若い個体と最も年寄りの個体が協力して防衛を行い、中間の齢の個体は安全な場所に逃げて繁殖に専念するという、新しい分業体制を発見しました。
植松らは、常緑樹のイスノキに虫こぶという巣を形成し集団生活を営む社会性アブラムシ「ヨシノミヤアブラムシ」という種を研究対象としました。本種では、産まれたばかりの幼虫と繁殖を終えた成虫との2種類が、天敵に対して防衛を行う「兵隊」になります。野外調査と室内実験の結果、敵の侵入を示唆するシグナルに応答して、2種類の兵隊はともに敵の侵入口に集合する一方で、その他の個体は安全な場所に避難することで、防衛に適したフォーメーション(陣形)をとることが示されました。これらの結果より、繁殖の期待値が少ない若い幼虫とすでに繁殖を終えた老いた成虫が防衛に回ることで、集団全体での子孫の数をより多くするよう最適化していることが示唆されました。
  集団内で最も年上と年下の個体が同時期に利他的な行動を行う例は世界で初めての発見であり、今回の研究は生物の社会の進化について新たな視点を与えるものです。

4.発表内容: 
ヒトの社会では仕事から家庭に至るさまざまな場面で分業(役割分担)をおこなっていますが、昆虫の社会においても、個々のメンバーが役割を分担するという分業システムが発達しています。例えば、ミツバチの社会では働き蜂は蜜を運んだり子の世話をするのに対して、女王蜂は繁殖に専念します。このような分業体制はアリやハチなどでよく知られていますが、アブラムシの仲間にも「社会性アブラムシ(注1)」が存在し、防衛・労働・繁殖において分業を行っています。今回我々は、常緑樹のイスノキに虫こぶ(注2)を形成する社会性アブラムシであるヨシノミヤアブラムシ(注3)という種を研究対象としました。本種の虫こぶは1匹の創設個体によって作られ、虫を包み込むようにして完全に閉鎖された空間を作ります。その中でアブラムシは単為生殖(注4)で子を産み、最終的には数千匹を収容する巣のような構造になります(図1)。単為生殖を行うので、これら数千匹の個体は全て同じ遺伝子情報を持ったクローンです。成熟した虫こぶは次年の春に裂開して脱出する穴が生じ、そこから翅をもった有翅虫が出てきます。しかし、虫こぶに穴が出来ると、テントウムシ幼虫などの天敵が侵入する可能性が高まります。そこで、穴が開いた虫こぶでは天敵の侵入を防ぐ防衛行動が進化しています。
  植松らの研究グループのこれまでの研究から、ヨシノミヤアブラムシには自らを犠牲にして防衛を行う2種類の「兵隊」が存在することが明らかになりました。産まれたばかりの1齢幼虫と、もう一つは老いた無翅(翅を持たない)成虫です。1齢幼虫は口吻を突き刺して天敵を攻撃します。一方、無翅成虫は繁殖を終えた後も長生きする「おばあちゃん」アブラムシで、腹部から分泌液を出して敵に体ごと付着することで防衛します(以前のプレスリリースを参照:http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_220618_j.html)。このように、若い個体と老いた個体が全く異なる方法で自己犠牲的な防衛を行います。植松らの研究グループは2種類の兵隊による防衛を個別に報告してきましたが、両者が集団内でどのように協力して繁殖個体を守っているのか、また異なる防衛にどのような意義があるのか、ということは未解明でした。

 どのようにして、これらの防衛や繁殖を担う個体がコロニー内で上手く機能し、適応的に振る舞うのでしょうか?今回植松らの研究グループは、虫こぶ内部での各個体の動きに着目しました。上で述べたように、虫こぶが裂開して穴が開くことは、敵に侵入される危険性が増えることを意味します。したがって、穴が開くという刺激に応答して、各々の個体が自らの役割に応じて虫こぶ内での配置を変えて、最適なフォーメーション(兵隊は危険な場所へ、繁殖個体は安全な場所へ)をとるのではないかと考えました。
  まず、穴がすでに開いている虫こぶを、捕食されやすさにもとづいて3つの区域に分割して、それぞれに含まれるアブラムシの個体数の割合を調べたところ、1齢幼虫と無翅成虫は捕食されるリスクの高い虫こぶ裂開部に多く分布していました。一方,その他の個体は安全な虫こぶの奥の方に多く見られました。さらに、人為的に虫こぶに穴を開けて、12時間後の分布を調べたところ、穴の周りに1齢幼虫と無翅成虫が集合したのに対して、その他の個体は穴から遠ざかることがわかりました。
以上の結果から、各個体が虫こぶの裂開というシグナルに素早く応答し、虫こぶ内部を移動することにより、最適なフォーメーションが実現されることが示されました。

 このように、集団の中で最も若い個体と年寄りの個体が自己犠牲的な防衛を担い、中間の齢期の個体が繁殖をするという分業体制は、社会性を持つ生物において初めての発見です。ヨシノミヤアブラムシという体長が1mmにも満たない小さな昆虫が、巧妙な戦略を編み出して集団を維持していることが今回の研究で明らかになりました。
  では、なぜ一番年下と年上の個体が防衛を担うのでしょうか?その意義として、将来の子孫の数をより多くするための戦略が考えられます。虫こぶは裂開した後枯れてしまうため、栄養の質が悪化します。よって若い幼虫は成長して成虫になるためにより多くの資源と長い時間を必要とします。また、年老いた無翅成虫も子を産み終えているため、将来の繁殖には寄与しません。繁殖の期待値が少ないこれらの個体を防衛に回し、繁殖の期待値が高い残りの個体は安全な所に逃すことで、子孫の数を最大化していると考えられます。
  しかしながら、今回の研究では未解明の点もあります。例えば、なぜ1種類の防衛行動のみが自然選択によって残るのではなく、2種類の異なる防衛行動が進化的に維持されているのでしょうか。この理由の一つとして、2種類の防衛が何らかの相乗効果を持つということが考えられます。積極的に口吻で突き刺す1齢幼虫と分泌液で動きを止める無翅成虫という、全くメカニズムの異なる2つの防衛行動が組み合わされることで単なる足し算以上の効果をもたらしているのかもしれません。防衛行動の生態学的・生理学的メカニズムの理解をさらに進めることで、この新規の分業システムが進化してきた過程を明らかにできるでしょう。

5.発表雑誌:
雑誌名:英国王立協会 「Biology Letters」(オンライン版1月16日(英国時間)掲載予定)
論文タイトル:Juveniles and the elderly defend, the middle-aged escape: division of labour in a social aphid
(日本語タイトル 子供と高齢者が守り、中年は逃げる:社会性アブラムシにおける労働分業)
著者:Keigo Uematsu, Masakazu Shimada, Harunobu Shibao
DOI番号: 10.1098/rsbl.2012.1053

6.問い合わせ先:
日本学術振興会 植松圭吾 海外特別研究員(ケンブリッジ大学動物学科所属)

7.用語解説:
(注1)社会性アブラムシ
ミツバチ、アリ、シロアリ、アザミウマ、寄生蜂、キクイムシなどに加え、アブラムシにも社会性を有するものがいる。社会性昆虫の特徴として、繁殖に専念する個体(例:女王蜂)のほかに、自分の繁殖を犠牲にしてメンバーを助ける利他的階級(例:働き蜂)の存在が挙げられるが、社会性アブラムシの場合、利他行動を行うのは主に「兵隊」と呼ばれる個体である。兵隊の主な役割は外敵に対するコロニー防衛であるが、巣内の清掃や壊れた巣の修復を行う兵隊も知られている。
(注2)虫こぶ
虫こぶは、昆虫類などの寄生の影響により、植物の芽や葉などの一部がふくれて変形したもので、内部が空洞になっており、そこに暮らす昆虫に食物と住みかを提供する。虫えい(ちゅうえい)やゴール(Gall) と呼ばれることもある。アブラムシにおいては、摂食時に口針から注入される唾液成分によって虫こぶ形成が誘導されると考えられているが、その機構は不明である。
(注3)ヨシノミヤアブラムシ
アブラムシ科(Aphididae)ヒラタアブラムシ亜科(Hormaphidinae)ムネアブラムシ族(Nipponaphidini)に属する昆虫。学名はQuadrartus yoshinomiyai。イスノキ(Distylium racemosum)に径3cmほどの不定形の虫こぶを形成する。中のアブラムシは虫こぶ内部で師管液を吸って成長し、単為生殖を行う。はじめは生まれた虫は翅をもたない無翅成虫となるが、無翅成虫から生まれた子供は翅をもった有翅成虫となる。虫こぶは1年かけて成長し、春に裂開して脱出孔が生じ、そこから有翅成虫が順々に飛び立っていく。有翅虫はクヌギなどの別種の木に移動し、そこで新たに繁殖を始めるが、残った虫こぶは裂開後2ヶ月以内に枯れてしまう。
(注4)単為生殖
雌が作った卵が受精することなく単独で発生を開始し、成体となる生殖様式。


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