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単細胞生物の柔軟な性研究成果

単細胞生物の柔軟な性

平成25年5月8日

東京大学大学院総合文化研究科

1.発表者: 
城川祐香 (東京大学 大学院総文化研究科広域科学専攻 特任研究員)
嶋田正和 (東京大学 大学院総文化研究科広域科学専攻/情報学環 教授)

2.発表のポイント:
  ◆どのような成果を出したのか
  単細胞藻類である珪藻を1細胞レベルで追跡したことにより、細胞が卵になるか精子になるかを決める重要な要因 (細胞系譜、細胞サイズ、細胞密度)を解明した。
  ◆新規性(何が新しいのか)
  生物が、どのような状況で、どちらの性になればより多くの子孫を残せるか予想する性比調節の進化は、進化ゲーム理論(注1)で最も成功したテーマの一つである。本研究は単細胞生物が、それぞれの個体の状態に応じて性比を調節していることを解明した、世界初の成果である。
  ◆社会的意義/将来の展望
  この結果は、単細胞生物の性分化の分子メカニズム解明や新たな進化生態学の理論構築の基盤となりうる重要な解明である。珪藻は地球上の光合成による一次生産の約20%を担っていると考えられており、その有性生殖の解明は生物資源の保全という点でも意義深い。

3.発表概要: 
東京大学大学院総合文化研究科の城川祐香特任研究員と嶋田正和教授は、単細胞藻類である珪藻を1細胞レベルで追跡し、個々の細胞状態に応じた性比調節を明らかにした。生物が、どのような状況で、どちらの性になるとより多くの子孫を残せるかを予想する性比調節の進化は、進化ゲーム理論で最も成功したテーマの一つである。しかし、従来は多細胞生物に研究が集中しており、単細胞生物のそれぞれの個体の性比調節戦略は解明されていなかった。本研究では単細胞生物の1つ1つの細胞の有性生殖を計測するために、レーザーを用いた微細加工技術により、スライドグラス上に0.1mm四方の微細な小部屋(マイクロチャンバー)を作成し、細胞を閉じ込めて追跡した。その結果、細胞サイズや周囲の細胞の数が、個々の細胞の雌雄どちらに分化するかにとって重要であることが分かった。また1つの細胞が分裂してできた2つの姉妹細胞は同じ運命をたどりやすく、多細胞生物で報告されてきたsplit sex ratio(娘を多く産する親と、息子を多く産する親に分かれる)にあたる現象が、単細胞生物でも見られることがわかった。
今回の実験結果は、単細胞生物がそれぞれの個体の状態に応じて行う性比調節を明らかにした世界初の成果であり、この結果は単細胞生物の性分化分子メカニズム解明や、新たな進化生態学理論構築の基盤となりうる重要な発見である。
4.発表内容: 
① 研究の背景
生物がどのような状況で、どちらの性になるとより多くの子孫を残せるか予想する性比調節は、進化ゲーム理論で最も成功したテーマの一つである。しかし多細胞生物に研究が集中しており、単細胞生物のそれぞれの個体の性比調節戦略は解明されていなかった。珪藻のような単細胞真核生物の多くは、生活史が長期の無性生殖期と短期の有性生殖期で構成される部分的有性生殖(図1)という、祖先的な有性生殖の生活環を持っており、単細胞生物の性比調節の解明は、性の進化を考えるうえで重要性が高い。
② 研究内容
  1つ1つの細胞の有性生殖を計測するために、レーザーを用いた微細加工技術によりスライドグラス上に0.1mm四方の微細な小部屋(マイクロチャンバー)を作成し、細胞を閉じ込めて撮影した (図2)。中心珪藻(注2)Cyclotella meneghinianaの各細胞は、海水濃度が上昇すると1個の卵もしくは4つの精子に分化する。有性生殖の一部始終を観察できたことにより、同じ遺伝子をもつクローン細胞集団であっても、以下の3つの要因(細胞サイズ、周囲の細胞の数、細胞系譜)により細胞は性比調節を行っていることが明らかになった(図3)。
(a)細胞サイズによる性比調節: 細胞サイズが大きい場合は卵に、小さい場合は精子になりやすいことがわかった。大きい細胞を卵に配分することで、より大きな次世代細胞をつくることができるという、性比配分戦略上のメリットがあると考えられる。
(b)周囲の細胞数による性比調節: 周囲の細胞が多い場合は卵に、少ない場合は精子に分化しやすいことがわかった。周囲に配偶相手が見つけにくい状況で、遊走可能で数が多い精子を多くすることで、受精成功を高められると考えられる。
(c)姉妹細胞は同じ運命をたどりやすい: 1つの細胞が分裂してできた2つの姉妹細胞は、両方とも卵もしくは精子に分化しやすく、多細胞生物で報告されてきたsplit sex ratio(娘を多く産する親と、息子を多く産する親に分かれる)にあたる現象が単細胞生物でも見られることがわかった。同じ母細胞から細胞分裂した2つの姉妹細胞での生理状態の類似が、メカニズムとして考えられる。
③ 社会的意義と今後の展望
今回の実験結果は、珪藻のそれぞれの細胞を追跡し、細胞状態と性比調節の関係性を明らかにした世界初の成果である。この結果は、単細胞生物の性分化の分子メカニズム解明や新たな進化生態学理論構築の基盤となりうる重要な発見である。珪藻は地球上の光合成による一次生産の約20%を担っていると考えられている重要な生物であり、その有性生殖の解明は生物資源の保全という点でも意義深い。

5.発表雑誌: 
雑誌名:「Proceedings of the Royal Society B:Biological Sciences」
(オンライン版の公開:英国夏時間5月8日午前0時1分)
論文タイトル:Sex allocation pattern of the diatom Cyclotella meneghiniana
著者:SHIROKAWA, Yuka and SHIMADA, Masakazu

6.問い合わせ先: 
東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻・広域システム科学系
嶋田正和 教授
城川祐香 特任研究員

7.用語解説: 
(注1)進化ゲーム理論:
ダーウィンの自然選択論と経済学のゲーム理論とが1973年に融合したもので、つき合い方の進化理論といわれる。しかし、ほとんど全ての実証例が多細胞生物に偏っていた。

(注2)中心珪藻:
不等毛植物門珪藻綱に属する単細胞藻類。細胞が珪酸質の殻で覆われているという特徴を
もつ。殻の形態により中心珪藻と羽状珪藻に分けられる。

8.添付資料
こちらからダウンロードできます。

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