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消費者物価を高精度かつ迅速に計測する手法の開発研究成果

消費者物価を高精度かつ迅速に計測する手法の開発

平成25年5月23日

東京大学大学院経済学研究科

1.発表者
渡辺努(東京大学大学院経済学研究科教授)
渡辺広太(中央大学商学部助教)

2.発表のポイント
◆日本の消費者物価を高精度かつ迅速に計測する手法を開発した。5月24日より、同手法を用いた物価の指標(名称「東大日次物価指数」)を日々計測し、ホームページ上で公開する。
◆消費者物価を高精度かつ迅速に計測することにより、政策効果のモニターが可能となる。また、株式、為替、国債などの市場の参加者に最新の物価情報をタイムリーに提供することにより、これらの市場における価格形成の効率性を高める効果が期待できる。

3.発表概要
東京大学大学院経済学研究科 教授 渡辺努らの研究グループは、日本の消費者物価を高精度かつ迅速に計測する手法を開発した。5月24日より、同手法を用いた物価の指標(名称「東大日次物価指数」)を日々計測し、ホームページ上で公開する。
東大日次物価指数は、日本全国のスーパーマーケット約300店舗で販売される20万点超の商品(食料品や日用雑貨など)の価格を集計した物価指数である。スーパーでの売れ筋商品を正確に捕捉し、それに基づく集計を行うことにより、消費者の実感に近い指数を作成できる。また、更新までのラグは3日であり、公表まで1カ月以上を要していたこれまでの指標と比べ大幅に短縮されている。同指数は日々更新される。
日本では、1990年代後半以降、消費者物価の下落(デフレ)が続いており、デフレ脱却を目指し日本銀行は新しい金融緩和策を導入している。本手法を用いて、消費者物価を高精度かつ迅速に計測することにより、政策効果のモニターが可能となる。デフレ脱却の確認がタイムリーにできるほか、予期せぬ物価の急上昇を監視する指標としても有効である。また、株式、為替、国債などの市場の参加者に物価に関する最新の情報をタイムリーに提供することにより、これらの市場における価格形成の効率性を高める効果が期待できる。

4.発表内容
東京大学大学院経済学研究科 教授 渡辺努らの研究グループは、日本の消費者物価を高精度かつ迅速に計測する手法を開発した。5月24日より、同手法を用いた物価の指標(名称「東大日次物価指数」)を日々計測し、ホームページ上で公開する。

新たに開発した物価指標である「東大日次物価指数」は、スーパーマーケットのPOSシステム(スーパーのレジで商品の販売実績を記録するシステム)を通じて、日本全国の約300店舗で販売される商品のそれぞれについて、各店における日々の価格、日々の販売数量を収集し、それを原データとして使用する。調査対象はスーパーで扱われている食料品や日用雑貨などであり、商品数は20万点超である。購買取引の行われた日の3日後までにデータを収集し、物価指数を作成・公開する。

「東大日次物価指数」は、これまでの物価指標と比べて、次の2点で望ましい性質をもつ。

【高精度】消費の実態に近い物価指数を作成するには、何が売れ筋商品かについて精度の高い情報を取得し、それに基づいて価格を集計することが重要である。日本をはじめとする各国の統計作成部署では、数年間に一度の頻度で売れ筋商品の調査を行い、それに基づいて物価指標を作成している。しかし、企業間の価格競争が激化している昨今では、売れ筋商品は日々変化しており、こうした調査には限界がある。東大日次物価指数では、販売価格だけでなく販売数量も記録されるというPOSデータの特徴を活用することにより、売れ筋商品の正確な捕捉を行う。具体的には、ある日のある商品の価格が、前年の同日から何パーセント変化したかを計算したうえで、その商品のその日における販売数量を踏まえたウエイトを用いて、価格の変化率を加重平均する。例えば、ある日におけるある商品の売れ行きが好調であれば、その商品の価格変化率が物価指標に及ぼす寄与が大きくなる。この加重平均法はトルンクビスト指数(注)とよばれており、指数理論に照らして最も望ましい性質をもつ物価指標である。なお、各国の統計作成部署では、価格収集を行う際の経費を節約するために、対象商品のサンプル抽出を行う。これに対して東大日次物価指数は、POSシステムを活用することによりオンラインで情報を収集するので、サンプル抽出の必要がなく、スーパーで販売されている全商品を対象とすることが可能である(全数調査)。この点も既存の指標との大きな違いであり、精度を高める効果がある。

注)トルンクビスト指数では、個々の商品の価格変化率を加重平均する際に、ウエイトとして、比較の対象となる2時点(例えば、今日と前年の同じ日)におけるその商品の販売シェアを足して2で割ったものを用いる。販売シェアの高い商品の価格変化率が物価指数に大きく影響する。これに対して、ラスパイレス方式のウエイトは、比較の対象となる2時点のうち過去の時点における販売シェアである。

【迅速性】日本の消費者物価指数は、総務省統計局によって作成されており、ある月の計数は翌月の月末に公表される。これに対して、東大日次物価指数では、ある日の物価をその3日後に公表する。例えば、国債の売買をしている投資家は、日銀の金融政策の今後の展開を予想し、それに基づいて売買を行っているが、日銀の政策を決定する重要な材料は物価であり、投資家は物価の先行きを予想しようとする。東大日次物価指数は物価に関する最新の情報を日々提供することにより、投資家が物価の先行きを予想する際の精度を高める効果があると期待される。また、メーカーや流通業者が、販売商品の価格づけを行う際にも有用な情報をタイムリーに提供できる。

図1は、東大日次物価指数の2011年以降の動きを示している。数字は前年の同日との比較で物価が何パーセント変化したかを示しており、プラスならばインフレ、マイナスならばデフレである。2011年3月11日の東日本大震災の前の時期には物価上昇率は-0.5%から-1%であり、デフレが進行していた。しかし地震の発生に伴い、生活必需品に対する需要が増加し、物価上昇率は1.5%のインフレへと急上昇した。東大日次物価指数は、こうした日々の動きを正確に捉えることができる。なお、2013年4月4日には、日銀による新金融緩和策が決定されたが、その後も物価は前年を1%下回って推移しており、デフレ基調には今のところ変化が見えない。図2は東大日次物価指数と総務省の公表値の比較である。総務省が毎月発表する数値は、スーパーで販売される商品以外も含むものであるが、ここでは比較のために、総務省の公表する品目別価格指数を用いて、POSデータ対象品目だけを取り出している。東大指数と総務省指数は概ね同じ動きを示しているが、東大指数の方が低めに出る傾向があり、多くの時期で東大指数は総務省の指数を0.5%から1%下回っている。売れ筋商品の価格上昇率が低く、東大指数ではそれらの商品のウエイトが高くなっているためである。

本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S)「長期デフレの解明」プロジェクト(研究代表者:渡辺 努)の研究費により行われました。

5.新指標の公開方法
東大日次物価指数は以下のサイトで5月24日より公開される。
http://www.price.e.u-tokyo.ac.jp/ (「長期デフレの解明」プロジェクトのHP)

6.問い合わせ先
渡辺努(東京大学大学院経済学研究科教授)
波多野弥生(東京大学大学院経済学研究科特任研究員)

7.添付資料
「4.発表内容」の図は以下のサイトで公開する。
http://www.price.e.u-tokyo.ac.jp/

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