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家庭用インクジェットプリンタを用いて
様々な電子回路素子を短時間で印刷する技術を開発

平成25年11月5日

東京大学大学院情報理工学系研究科

1.発表者: 川原圭博(東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 准教授)

2.発表のポイント: 
◆ 家庭用インクジェットプリンタを用いて様々な電子回路素子を印刷する技術を開発。
◆ 市販の機器や材料をうまく活用することにより、電子回路基板のほか、タッチセンサやアンテナを低価格な機器を用いて即座に作ることができるようになった。
◆ 3Dプリンタやオープンソースハードウェアの普及との相乗効果により、一般の人でも高度な電子回路を手軽に作れるようになる。

3.発表概要: 
  センサやアンテナといった電子回路を構成する素子を製造するには高価な機器が必要で、手間と時間もかかることから、短期間に手軽に何度も試作を繰り返すことが難しいという問題がありました。
今回、東京大学大学院情報理工学系研究科(研究科長:坂井修一,以下情報理工)電子情報学専攻の川原圭博准教授は、英国マイクロソフトリサーチと米国ジョージア工科大学と共同で、一般的な家庭用のインクジェットプリンタと市販の銀ナノインク(注1)、紙、導電性接着材料を組み合わせ、独自の設計手法を確立することで、高精度のタッチセンサや通信用アンテナ、電子回路の配線を紙やPETフィルムといった柔軟な素材上に印刷することに成功しました。本手法では、従来の百分の一程度の価格の機器を使用し、従来の百分の一以下の1分程度の短い時間で高度な電子回路素子の作成が可能となります。本成果により、研究者やエンジニアがより手軽に柔軟な電子回路を製作できるようになったほか、電子工作愛好家やアーティストが手軽に回路の試作を繰り返すことができるようになりました。

4.発表内容: 
  紙やシート状のプラスチックなど、柔らかく変形可能な素材の上にセンサや電子回路を実装するフレキシブルエレクトロニクス技術が注目を集めています。これまでの世界最先端の研究成果では、厚さ約2マイクロメートルの極薄フィルム上に有機半導体を用いた電子回路(注2)を作成することにも成功しています。しかし、こうした電子回路を作成するためには特殊な装置と高度な知識とスキル、そして時間が必要でした。たとえば、回路素子用の配線を印刷するだけでも、スクリーン印刷技術ではマスクを製作する手間を要し、高価な産業用インクジェットプリンタを用いる場合でもヘッドの動きとノズルを数マイクロメートル単位で精密に制御できる代償として印刷速度が遅く、手のひら大のパターンを印刷するのに数時間を要することも稀ではありません。

  今回、情報理工の川原圭博准教授と、イギリスのマイクロソフトリサーチ、アメリカのジョージア工科大学のグループは、一般的に入手可能な家庭用インクジェットプリンタと市販の銀微粒子を含むインク、写真用紙やPETフィルム、導電性テープ等の従来の百分の一程度の価格の機器を使って、これまでの百分の一以下の1分程度の時間で高度な電子回路素子を作成できることを示しました。従来利用されていた銀ナノ粒子インクは印刷後に加熱などの後処理が必要でしたが、今回は三菱製紙株式会社が開発し市販している後処理が不要な化学焼結銀ナノ粒子インクを利用することで、大幅な時間短縮が可能になりました。家庭用のインクジェットプリンタを利用した場合、従来の製造法と比べて導電性や精度が犠牲になってしまうため、これまでこのインクはテスト用途に用いられるに限られていましたが、今回インクや紙の特性解析と独自の設計方法を考案することにより、電子回路素子の配線だけでなく、高感度なタッチセンサや、水分センサ、通信用の高感度なアンテナなども作成可能であることが示されました。ラミネートコーティングを施すことで、酸化を防いだり耐水性を持たせたりすることも可能です(図1,図2,図3)。

  今回発表した技術のみでは、トランジスタや太陽電池、発光ダイオードといった素子を印刷で作成することはできませんが、印刷した配線パターンの上に既存の素子を導電性両面テープで貼付けることで、電子回路として動作させることが可能です。これにより、研究者やエンジニアがより手軽に柔軟な電子回路を製作できるようになったほか、電子工作愛好家やアーティストが手軽に回路の試作を繰り返すことができるようになりました。一般の人であっても、本やメッセージカード、折り紙やペーパークラフトなどに電子回路による仕掛けを組み込むことも可能です。

  本研究成果は、2013年9月にスイス チューリッヒで開催されたユビキタスコンピューティング分野で最も権威のある国際会議「UBICOMP 2013」にて発表され、Best paper awardを受賞しました。本成果はNEDO産業技術研究助成事業(若手研究グラント)の研究成果です。

5.発表雑誌: 
雑誌名:Proceedings of the 2013 ACM international joint conference on Pervasive and ubiquitous computing (UBICOMP 2013), pp. 363-372, (2013)
論文タイトル:Instant inkjet circuits: lab-based inkjet printing to support rapid prototyping of UbiComp devices
著者:Yoshihiro Kawahara*, Steve Hodges, Benjamin S. Cook, Cheng Zhang, Gregory D. Abowd
DOI番号:10.1145/2493432.2493486
アブストラクトURL:http://dl.acm.org/citation.cfm?id=2493486

6.問い合わせ先: 
東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 准教授 川原圭博

7.用語解説: 
(注1)銀ナノインク
直径数十ナノメートル程度の銀粒子が均一に分散したインク。電子回路の微細配線用に用いられる。

(注2)極薄フィルム上に有機半導体を用いた電子回路
東京大学 大学院工学系研究科の染谷 隆夫 教授、関谷 毅 准教授らのグループが2013年に発表した、紙のようにくしゃくしゃにつぶしても、1メートル以上の高所から落としても、機能が壊れない丈夫な有機トランジスタ集積回路。羽毛よりも軽く、装着感のない(人間が感知できない)健康・医療や福祉用のセンサへの応用に期待が寄せられている。本研究成果に関するプレスリリースは以下の通り。
世界最軽量、世界最薄の柔らかいセンサーシステムの開発に成功
~羽毛よりも軽く、装着感のないヘルスケアセンサーへの応用が期待~
URL:http://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/release/2013/2013072501.html

添付資料はこちら

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