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植物の小さなRNAがタンパク質合成を制御するしくみ研究成果

植物の小さなRNAがタンパク質合成を制御するしくみ

平成25年11月22日

東京大学分子細胞生物学研究所

1. 発表者:泊 幸秀(東京大学分子細胞生物学研究所 教授)

2. 発表のポイント:
- 植物の小さなRNA1)がタンパク質合成を制御するしくみを明らかにしました
- 植物の小さなRNAがはたらくために必要な条件を明らかにしました
- 将来人間に有用な作物を創出する際の基盤となることが期待されます

3. 発表概要:
  植物がもつ小さなRNAの一つであるmicroRNAは、特定の遺伝子のはたらきを制御することにより、花や、茎、根などを作る過程や、水分、ミネラル量の変化に対する応答、また病原体に対する抵抗性など、さまざまな生命現象に深く関わっています。しかし、植物のmicroRNAのはたらきについては、動物のmicroRNAと比べてまだ分かっていないことが多くありました。
  今回、東京大学分子細胞生物学研究所の岩川 弘宙 助教と泊 幸秀 教授は、試験管の中でmicroRNAのはたらきを再現することにより、植物のmicroRNAがタンパク質の合成過程を阻害するしくみを明らかにしました。さらに、microRNAがはたらくために必要な条件を明らかにしました。
本研究は、植物の遺伝子のはたらきを制御する「影の支配者」であるmicroRNAが機能するメカニズムを解明した重要な成果であり、将来人間に有用な作物を創出する際の基盤となる可能性が期待されます。

4. 発表内容:
  アミノ酸が連なったタンパク質は生物の最も重要な構成因子の一つです。タンパク質がどのようなアミノ酸からできているかという設計図は遺伝子としてDNAに書き込まれています。この情報は一度メッセンジャーRNA(mRNA)に写しとられます。そして、リボソームというタンパク質合成装置がmRNA上を一方向に進むことにより、RNAに書かれた情報をアミノ酸配列に「翻訳」し、タンパク質が生み出されます。
  ここ十数年で、タンパク質の情報が書き込まれていないRNA(非コードRNA)が、動物や植物の遺伝子のはたらきを広く制御していることが明らかとなってきました。約20塩基の長さを持つmicroRNAは、最も重要な非コードRNAの一つです。例えば、ヒトのゲノムには2,000種類以上のmicroRNAが存在し、ヒトのすべての遺伝子の半分程度を制御している可能性があることが示唆されています。一方、植物研究のモデルとしてよく使われているシロイヌナズナのゲノム中には、現在までに約300種類のmicroRNAが発見されており、それらは、花や、茎、根などを作る過程や、水分量、ミネラル量の変化への応答など、さまざまな生命現象に深く関わっています。

  microRNAは単独ではたらくわけではなく、Argonaute(アルゴノート)と呼ばれる酵素と複合体を形成してはじめて機能を発揮します。動物では、microRNAは自分自身の配列のごく一部(7塩基程度)と相補的な配列2)をもつ数多くの標的mRNAと結合し、タンパク質合成の初期段階を阻害することが知られています。一方植物では、microRNAは自分自身の配列と完全に相補的な配列を持つ標的mRNAをArgonauteの酵素活性を使って切断することが知られていました。ところが最近になって、植物のmicroRNAも動物のmicroRNAと同じように標的mRNAと結合することによりタンパク質合成も阻害することが分かってきました。しかし、どのようなしくみで植物のmicroRNAが標的mRNAに働きかけタンパク質の合成を阻害するのか、そして植物のmicroRNAがどの程度の相補的配列をもつmRNAまでを標的としうるのかは明らかになっていませんでした。

  今回、東京大学分子細胞生物学研究所の岩川 弘宙 助教と泊 幸秀 教授は、植物細胞の抽出液を用いることにより、microRNAがmRNA上のリボソームの進行を物理的に阻害することで、タンパク質合成を抑制することを明らかにしました。このしくみは世界で初めて発見された植物microRNAによる抑制機構です。次にどのような配列をもつmRNAがタンパク質合成の阻害を受けるかを調べました。すると、microRNAとほぼ完全に相補的な配列を持つmRNAは強く抑制されましたが、動物のようにmicroRNAの一部だけが相補的な配列を持つmRNAは全く抑制できませんでした。このように、標的mRNAを認識する条件が分かったことにより、これまで謎であった、植物のmicroRNAが制御する遺伝子の全体像が明らかになる可能性があります。

  本研究は、植物の遺伝子のはたらきを制御する「影の支配者」であるmicroRNAの機能の一端を解明した重要な成果です。また、将来人間に有用な作物を創出する際の基盤となることが期待されます。なお、本論文が掲載されるMolecular Cell誌には、今回の研究成果を図案化した表紙デザインが採用されました。本論文の研究成果が高く評価された結果と言えます。

5. 雑誌名:
Molecular Cell (オンライン掲載:米国東部標準時間11月21日)
論文タイトル:Molecular insights into microRNA-mediated translational repression in plants
著者:Hiro-oki Iwakawa and Yukihide Tomari

6. 問い合わせ先:
東京大学 分子細胞生物学研究所 教授 泊 幸秀(とまり ゆきひで)

7. 用語解説 :
1) RNA:日本語ではリボ核酸。一般的に知られているmRNAは、DNA(デオキシリボ核酸)が持つ遺伝情報のコピーであり、タンパク質の設計図としてはたらく。一方、小さなRNAはタンパク質の設計図にはならない。
2) 相補的な配列:アデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)からなるRNAの核酸塩基は、AとU、GとCがそれぞれ塩基対を形成し、それら対をなす塩基配列を相補的な配列と呼ぶ。

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