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液体のナノ分析が可能に研究成果

液体のナノ分析が可能に

平成25年12月20日

東京大学生産技術研究所

1.発表者: 溝口 照康(東京大学 生産技術研究所 准教授)
松井 良樹(東京大学 大学院工学系研究科 大学院生(当時))
関 康一郎(東京大学 大学院工学系研究科 大学院生(当時))
火原 彰秀(東京大学 生産技術研究所 准教授(当時))

2.発表のポイント: 
  ◆ナノメートルレベル(注1)の高い空間分解能で液体の化学結合や動的挙動を調べることのできる新規な手法の開発に成功しました。
  ◆本手法により、液体と固体が接する場所の局所的な情報を得られるようになり、高性能な燃料電池や触媒の開発に大きく役立つと期待されます。

3.発表概要
「液体」は「固体」や「気体」と並ぶ物質の三態の一つであり、私たちの生命活動や社会活動に不可欠なだけではなく、物質を溶かす溶媒や化学反応の場として工業的にも幅広く利用されています。そのような液体の内部では、液体を構成する分子が動的に振動、回転、並進を繰り返していることが知られており、液体のさまざまな特性はそれら液体を構成する分子の動的な挙動によって支配されています。
液体内部の分子の挙動を調べる手法として赤外分光(IR、注2)や核磁気共鳴(NMR、MRI、注3)などが古くから広く用いられてきましたが、これらの手法は、液体試料全体の平均的な情報を得ることはできる一方、特定の場所の情報を得ることはできません。一方で、化学反応や触媒反応の中には、液体と固体が接する領域(固液界面)などで優先的に進行するものも多く、試料全体の平均的な情報ではなく、固液界面のような特定の領域の液体を分析できる手法が求められていました。
東京大学生産技術研究所の溝口照康准教授、火原彰秀准教授(当時)、松井良樹大学院生(当時)、関康一郎大学院生(当時)らは、液体を高い空間分解能で分析することができる電子線エネルギー損失分光法(EELS、注4)の吸収端近傍微細構造(ELNES、注5)に注目し、新規なELNES計算法を開発し、液体から測定されるELNESに液体を構成する分子の動的な挙動に関する情報が含まれていることを突き止めました。
本研究で開発した手法を用いることによりナノメートルレベルの高い空間分解能で液体を分析することが可能になります。この成果は今後の高性能な燃料電池や触媒の開発に大きく役立つと期待されます。
なお、本成果は英国Nature Publishing Group発行の「Scientific Reports」オンライン版に掲載されます。

4.発表内容
① 研究の背景・先行研究における問題点
水に代表される液体は物質の三態の一つであり、流体であるため体積が一定であっても形状を自在に変えることができます。私たち人間や生物の体は液体に満たされており、液体は生命活動に不可欠です。さらに、物質を溶かす溶媒や化学反応の場としても利用されており、液体は私たちの社会活動において不可欠です。そのような液体の内部では、液体を構成する分子が動的に振動、回転、並進を繰り返していることが知られており、液体のさまざまな特性はそれら液体を構成する分子の動的な挙動によって支配されています。
そのような液体の特性は古くから調べられており、特に液体を構成する分子の動的な挙動を調べるために赤外分光(IR)や核磁気共鳴(NMR、MRI)などが広く用いられてきました。しかしながら、これまで用いられてきた手法では、試料全体の平均的な情報しか得られませんでした。
一方で、触媒反応に代表される化学反応の中には、液体と固体が接する固液界面などで優先的に進行するものも多くあります。そのような反応を理解するためには、試料全体の平均的な情報ではなく、固液界面のような特定の領域の情報を取得できる手法が求められてきました。

② 研究内容
東京大学生産技術研究所の溝口照康准教授らは、電子線エネルギー損失分光法(EELS)の吸収端近傍微細構造(ELNES)に注目しました。ELNESは透過型電子顕微鏡(注6)を用いて測定されるため、高い空間分解能を有しています。ELNESを用いて液体を構成する分子の動的挙動に関する情報を得られれば、液体をナノメートルレベルの高い空間分解能で分析することが可能になります。
本研究では、燃料電池にも使用されているメタノールの炭素K端というELNESに着目しました。分子動力学計算(注7)と第一原理バンド計算(注8)を融合し、気体状態と液体状態のメタノールの炭素K端ELNESの理論計算を行った結果、液体状態の炭素のK端ELNESには、液体を構成するメタノール分子の原子構造や電子構造に関する情報だけではなく、メタノール分子の動的な挙動が含まれていることを突き止めることに成功しました(添付図1)。

③ 社会的意義・今後の予定 
液体は工業的に広く実用に供されています。本研究で行った理論計算法を用いることにより、液体をナノメートルレベルの高い空間分解能で分析できます。高性能な燃料電池や触媒を開発するためには固液界面などの領域を高い空間分解能で分析することが不可欠です。ナノメートルレベルの高い空間分解能を有しているELNESに分子の動的な挙動に関する情報が含まれていることを明らかにした本研究成果は、今後の高性能な燃料電池や触媒の開発に大きく役立つと期待されます。
本研究の成果は英国Nature Publishing Group発行の「Scientific Reports」オンライン版に掲載されます。

5.発表雑誌: 
雑誌名:英国Nature Publishing Group発行の「Scientific Reports」
オンライン版12月20日10時(イギリス時間)(日本時間 12月20日19時)
論文タイトル:An estimation of molecular dynamic behaviour in a liquid using core-loss spectroscopy(内殻電子励起分光法を用いた液体中分子の動的挙動の評価)
著者: Yoshiki Matsui, Koichiro Seki, Akihide Hibara, and Teruyasu Mizoguchi*
     (松井良樹,関康一郎,火原彰秀,溝口照康)

6.問い合わせ先: 東京大学生産技術研究所 准教授 溝口照康

7.用語解説: 
注1  ナノメートル
1ナノメートルは10億分の1メートル。髪の毛の約10万分の1の大きさ。

注2 赤外分光(IR)
赤外線を用いて分子の振動状態を調べる手法。

注3 核磁気共鳴(NMR,MRI)
磁気を用いて分子の構造などを調べる手法。

注4 電子線エネルギー損失分光法(EELS)
電子線を用いて測定される吸収スペクトル。主に透過型電子顕微鏡(注6)で測定され、ナノメートルレベルの高い空間分解能を有する。

注5 EELSの吸収端近傍微細構造(ELNES)
  EELSスペクトル(注4)に現れるある特定の領域のスペクトル。原子の配位環境や結合に関する情報を有している。EELSと同様に高い空間分解能を有している。

注6 透過型電子顕微鏡
電子を用いて物質を観察する顕微鏡で、高い空間分解能を有している。

注7 分子動力学計算
  原子に働く力を用いて原子構造を計算する方法。

注8 第一原理バンド計算
  電子構造を計算する方法。

8.添付資料: 資料はこちら

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