このページのトップです。
東京大学ホーム > 広報・情報公開 > 記者発表 > 研究成果発表一覧 > 水、農業、生態系、健康分野における世界の気候変動影響評価の最新の知見―世界13ヶ国による国際共同研究プロジェクトの成果―
space

広報

記者発表一覧

水、農業、生態系、健康分野における世界の気候変動影響評価の最新の知見
―世界13ヶ国による国際共同研究プロジェクトの成果―

平成25年12月26日

東京大学生産技術研究所



1. 発表者: 
金  炯俊 (キム ヒョンジュン、東京大学生産技術研究所 助教)
佐藤 雄亮 (東京大学大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 博士後期課程3年)

2. ポイント:
◆世界13カ国合計40の研究機関が参加した国際プロジェクトによる世界初のグローバルな多分野横断型の温暖化影響評価。
◆水、農業、生態系、健康の4分野を共通の枠組みで横断的に扱った影響評価として気候変動研究分野で先駆的な試みであり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)にも貢献。
◆地球全体の平均気温の変化と気候変動影響とを関連付け、水資源や生態系に対して、特に大きな温暖化影響が予測される地域を抽出。

3. 発表概要: 
気候変動は環境の変化を介し私たちの社会に大きな影響を与えるため、緩和策・適応策の議論には具体的な影響の予測が欠かせない。気候変動研究において数値モデルを使ったシミュレーションは多くの情報を提供してきたが、モデルや実験設定により結果にばらつきが生じるため予測には不確実性が伴う。そこで複数のモデルを同一条件下でシミュレーションし、相互に比較することが不確実性を定量化するために極めて重要であるとされている。これまで大気や陸面過程など個別の分野ではモデルの性能に関する相互比較が進められてきたが、影響評価(※1)に関する比較プロジェクトの前例はなく今回が世界初の試みである。

今回、東京大学生産技術研究所の沖大幹 教授、金炯俊 助教、佐藤雄亮 大学院生らが参加する気候変動影響評価のモデル相互比較国際プロジェクト“ISI-MIP”(The Inter-Sectoral Impact Model Intercomparison Project) では、水資源・水災害、農業・食糧生産、陸域生態系、健康(マラリア)の4分野を対象とし、5つの気候モデル(※2)が予測する将来の気候条件を合計35の影響評価モデル(※2)に与え統合的な気候変動の影響評価を行った。その結果、複数分野に及んで温暖化の影響を顕著に受ける地域(ホットスポット)として、アマゾン南部、欧州南部、アメリカ中部、アフリカ東部などを特定した。また、気温の上昇に伴い慢性的水不足に分類される地域が増大し、影響を受ける人口も増加すると推計した。

ISI-MIPの成果は、PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)12月17日号の特集記事で11の論文として発表された。なお、ISI-MIPはドイツ・ポツダム気候影響研究所が主導し、世界13ヶ国合計40の研究機関が参加している国際プロジェクトである。日本からは東京大学のほか、国立環境研究所が参加している。

これらの研究は科学研究費補助金基盤研究(S)23226012ならびに文部科学省委託事業気候変動リスク情報創生プログラムの成果の一部である。

4.発表内容: 
  気候変動は環境の変化を介し私たちの社会に大きな影響を与えるため、緩和策・適応策の議論には具体的な影響の予測が欠かせない。気候変動研究において数値モデルを使ったシミュレーションは多くの情報を提供してきたが、モデルや実験設定により結果にばらつきが生じるため予測には不確実性が伴う。そこで複数のモデルを同一条件下でシミュレーションし、相互に比較することが不確実性を定量化するために極めて重要であるとされている。これまで大気や陸面過程など個別の分野ではモデルの性能に関する相互比較が進められてきたが、影響評価に関する比較プロジェクトの前例はなかった。
  今回、東京大学生産技術研究所の沖大幹 教授、金炯俊 助教、佐藤雄亮 大学院生らが参加する気候変動影響評価のモデル相互比較国際プロジェクト“ISI-MIP”では、水資源・水災害、農業・食糧生産、陸域生態系、健康(マラリア)の4分野を対象とし、5つの気候モデル(※2)が予測する将来の気候条件を合計35の影響評価モデル(※2)に与え統合的な気候変動の影響評価を行った。
ISI-MIPで行った研究の大きな特徴の一つは温暖化の影響を地球全体(全球)の平均気温の上昇の大きさ(⊿GMT)と対応づけた点にある。温暖化の緩和/適応策の政策決定において⊿GMTは重要な指標である。例えば緩和策の議論では、⊿GMTを産業革命以前に比べて2℃以内といった目標値内に収められるように二酸化炭素排出量が協議されている。またそのような議論は、分野ごとに異なる気候変動の影響を広く考慮し分野横断的になされるべきであるが、従来は個別分野で扱われてきた。そこでISI-MIPでは新たに (i)⊿GMTの上昇に伴って温暖化の影響がどう推移していくかということと (ii)⊿GMTに対する影響の深刻度が複数の分野にどの程度またがっているのかという重複度を定量化することの2点の重要性に着目し、これらをまとめた。

以下に本研究の評価の対象となった分野、影響評価モデル数、評価対象項目を示す。

20131226_01

ISI-MIPでは今回PNASに特集記事として11本の論文を掲載した。そのうち、東京大学の研究グループが関わり、論文に共著者として名前が入っている論文は5本である。この5本のうち、東京大学生産技術研究所 金 炯俊 助教と同大学大学院工学系研究科 佐藤 雄亮 博士課程大学院生の貢献が高い2本の論文の成果を紹介する。

 
論文1: “Multisectoral climate impact hotspots in a warming world”
本論文では水資源・水災害、陸域生態系、農業・食糧生産、健康(マラリア)の4分野それぞれについて注目変数の平均状態が現在と異なる状態に遷移する⊿GMTを調べ、複数分野にわたって顕著な温暖化影響を受ける地域(ホットスポット)を特定した。温暖化は分野ごとに異なる影響を総合的に扱い議論されるべきテーマであるが、複数の分野に対し横断的に影響を調べる研究は今回が世界初となる。
その結果、アマゾン南部、欧州南部、アメリカ中部、アフリカ東部などがホットスポットに分類された。さらに今回の解析から、 (1) ⊿GMTが1980-2010年の平均より3℃ほど高くなると生態系を中心として2つ以上の分野で顕著な影響が表れるケースが急増する、(2) ⊿GMTが4℃になると世界人口の11%が複数分野に亘ってそれぞれの閾値を超える大きな変化を経験する、(3) どの分野についても⊿GMTが1~3℃となる際に閾値を超える地域が最も増加しており、今後その⊿GMTを迎える時期に最も大きな環境の変移が生じることが明らかとなった。(図1、2)

 
論文2: “Multimodel assessment of water scarcity” 
本論文で温暖化の水ストレス(※3)への影響を評価した。本研究は水分野のみを扱い、合計12の水資源・水災害分野の影響評価モデルを用いた解析を行った。ここでは、⊿GMTの増加に従い河川流量及び水ストレス影響下にある人口がどのように変化するかを調べた。例えば、1980-2010年の平均気温を基準として全球平均の気温が1℃、2℃、3℃上昇(=産業革命前より1.7℃、2.7℃、3.7℃上昇)した場合、気温の上昇に伴い“慢性的水不足(※3)”に分類される地域に住む人口は世界人口の13%、21%、24%、その中でも“絶対的水不足(※3)”に分類されるのは世界人口の6%、9%、12%になると推計された。一方、水ストレスは需要量の増加と供給可能量の減少の両面が原因となりうる。そこで水ストレスの変化の原因のうち温暖化に由来する割合を調べたところ、例えば⊿GMTが1℃の場合温暖化の寄与は58%程度であるが、その寄与率は人口増加に伴って小さくなることも判明した。
これまでの水分野のモデル比較は流出量の比較などにとどまっており、本研究は初めて複数の影響評価モデルを使用して水ストレスの将来予測を行い、影響モデル間の不確実性も明らかにした。ISI-MIPでは論文1も含めて多くの論文が“気候モデルが予測する気象の不確実性よりも影響評価モデルに由来する不確実性の方が大きい点”を指摘しており、温暖化影響評価におけるモデル比較プロジェクトの有用性を示している。(図3,4)  

5.発表雑誌:

雑誌名:「the Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」

論文タイトル:

ISI-MIPで掲載した11本の論文のうち、東京大学の研究グループが関わり、論文に共著者として名前が入っている論文を列記。

1.“Multisectoral climate impact hotspots in a warming world”
Franziska Piontek, Christoph Muller, Thomas A.M. Pugh, Douglas Clark, Delphine Deryng, Joshua Elliott, Felipe J. Col´on-Gonz´alez, Martina Fl¨orke, Christian Folberth, Wietse Franssen, Katja Frieler, Andrew D. Friend, Simon N. Goslin, Debbie Hemming, Nikolay Khabarov, Hyungjun Kim, Mark Lomas, Yoshimitsu Masaki, Matthias Mengel, Andy Morse, Kathleen Neumann, Kazuyah Nishina, Sebastian Ostberg, Ryan Pavlick, Alex C. Ruane, Jacob Schewe, Erwin Schmid, Tobias Stacke, Qiuhong Tang, Zachary Tessler, Adrian M. Tompkins, Lila
Warszawski, Dominik Wisser and Hans Joachim Schellnhuber

2.“Multi-model assessment of water scarcity”
Jacob Schewe, Jens Heinke, Dieter Gerten, Ingjerd Haddeland, Nigel Arnell, Douglas B. Clark, Rutger Dankers, Stephanie Eisner, Balazs M. Fekete, Felipe J. Colon-Gonzalez, Simon N. Gosling, Hyungjun Kim, Xingcai Liu, Yoshimitsu Masaki, Felix T. Portmann, Yusuke Satoh, Tobias Stacke, Qiuhong Tang, Yoshihide Wada, Dominik Wisser, Torsten Albrecht, Katja Frieler, Franziska Piontek, Lila Warszawski, and Pavel Kabat

3.“Constraints and potentials of future irrigation water availability on agricultural production under climate change”
Joshua Elliott, Delphine Deryng, Christoph Muller, Katja Frieler, Markus Konzmann, Dieter Gerten, Michael Glotter, Martina Florke, Yoshihide Wada, Neil Best, Stephanie Eisner, Balazs M. Fekete, Christian Folberth, Ian Foster, Simon N. Gosling, Ingjerd Haddeland, Nikolay Khabarov, Fulco Ludwig, Yoshimitsu Masaki, Stefan Olin, Cynthia Rosenzweig, Alex C. Ruane, Yusuke Satoh, Erwin Schmid, Tobias Stacke, Qiuhong Tang, and Dominik Wisser

4.“Hydrological droughts in the 21st century: hotspots and uncertainties from a global multi-model ensemble experiment”
Christel Prudhomme, Ignazio Giuntoli, Emma L. Robinson, Douglas B. Clark, Nigel W. Arnell, Rutger Dankers, Balazs M. Fekete, Wietse Franssen, Dieter Gerten, Simon N. Gosling, Stefan Hagemann, David M. Hannah, Hyungjun Kim, Yoshimitsu Masaki, Yusuke Satoh, Tobias Stacke, Yoshihide Wada, and Dominik Wisser

5.“First look at changes in flood hazard in the Inter-Sectoral Impact Model Intercomparison Project ensemble”
Rutger Dankers,Nigel Arnell,Douglas B. Clark,Pete D. Falloon,Balazs M. Fekete,Simon N. Gosling,Jens Heinke,Hyungjun Kim,Yoshimitsu Masaki,Yusuke Satoh,Tobias Stacke, Yoshihide Wada,and Dominik Wisser

6.問い合わせ先: 

東京大学生産技術研究所沖研究室
助教   金  炯俊
博士後期課程3年 佐藤 雄亮 

7. 用語解説: 

※1 影響評価
気候変動に対する適切な対応を議論する判断材料を供する事を目的に、温暖化や気候変動が私たちの暮らしにどれほどの影響を与えるのかを定量的に表す。評価項目に合わせ指標と判断基準が定められ、温暖化や気候変動によってそれがどのように変化するかが算出される。例えば、水資源・水災害分野では、温暖化の進行を被害人口や被害額に翻訳することでその影響を評価する。

※2 気候モデルと影響評価モデル
まず気候モデルが将来の気象情報を予測する。その情報を影響評価モデルに入力データとして与えることで各分野の予報変数の将来予測をする。

※3 水ストレスと“絶対的水不足”/“慢性的水不足”
水ストレスとは、人が生活するにあたり必要な量の水を安定的に利用できない状態を指す。水ストレスの指標は複数存在するが、今回の研究では平均流量を人口で除した値を指標に用いている。単位は[m3/人]。これが1000m3未満の場合を慢性的水不足、500m3未満の場合を絶対的水不足と分類した。

8.添付資料: 資料はこちら

space