PRESS RELEASES

印刷

3つのセンサ・デバイスを国際学会MEMS2014で発表 東京大学IRT研究機構が米サンフランシスコにて研究成果

3つのセンサ・デバイスを国際学会MEMS2014で発表
東京大学IRT研究機構が米サンフランシスコにて

平成26年1月27日

東京大学IRT研究機構


1.発表者: 国立大学法人 東京大学 IRT研究機構

2.発表のポイント:
◆シリコンと有機半導体を用いた高感度な赤外線検出器を実現
◆筋肉の収縮によって生じる圧力波を効率よく計測するセンサを実現
◆任意の周波数帯域の超音波を体内や導電性の海水を含む液中に放射する素子を実現

3. 発表概要:
東京大学IRT研究機構(*1)(機構長:下山 勲、以下、IRT)下山 勲 教授らは、2014年1月26日から30日にかけてアメリカ、サンフランシスコで開催される国際学会MEMS2014(The 27th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)で、3つのセンサ・デバイスに関する発表を行います。

(1) 「有機半導体ナノ構造を用いた赤外線検出器」:
東京大学の下山 勲 教授、九州大学の安達 千波矢 教授とNMEMS技術研究機構の安食 嘉晴 交流研究員(オリンパス株式会社)らは、シリコンと有機半導体を用いた高感度な赤外線検出器を実現しました。介護・見守り向けの人体検知、車載用の暗視装置や、及び材料分析等のさまざまな赤外光線を検出するための機器へ応用が期待されます。

(2) 「筋音センサ」:
下山 勲 教授、東京大学大学院 情報理工学系研究科 金子 智則 大学院生(修士課程1年)らは、筋肉の収縮によって生じる圧力波(筋音)を効率よく計測するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)センサを実現しました。筋音(*2)は、皮膚の発汗の影響を受けない利点をもつため、筋電計に代わる筋肉の活動を計測する方法として注目されています。本研究の成果は、人間の筋活動の情報を利用したロボットの制御や義手義足に応用できるものと期待されます。

(3) 「任意の周波数帯域で放射可能な液中超音波発生素子」:
下山 勲 教授、東京大学大学院 情報理工学系研究科 ディン ホアン ジャン 大学院生(修士課程2年)らは、金属発熱体の上に絶縁性の液体を置くことで、任意の周波数帯域の超音波を体内や導電性の海水を含む液中に放射する技術を実現しました。特定の共振周波数(*3)の超音波を放射する従来の圧電型発生素子と比べて、本技術では超音波の周波数を任意に変えられるため、さまざまな液中で対象液体中の形状や状態を詳細に計測するイメージング技術への応用が可能です。

4.発表内容
(1) 「有機半導体ナノ構造を用いた赤外線検出器」:
赤外線検出器は、防犯カメラなどセキュリティの分野、介護の見守りや、車載用の暗視装置など、身の回りの幅広い分野へ応用が進みつつあります。そうした中、高コストなゲルマニウムや水銀カドミニウムテルルを使わずに、低コストなシリコン(Si)と金属を用いた赤外線検出器が近年注目を集めています。このタイプの検出器は、金属に光を照射することで発生した電流を感知して赤外線を検出します。この方式で検出効率を上げる方法として金属表面に数10ナノメートル(1ナノメートルは1メートルの10億分の1)の構造(ナノ構造)を作り、赤外線を効率よく検出器に吸収させる方法がとられています。ところが、このようなナノ構造を作製するには、電子線描画(EB)法や、収束イオンビーム(FIB)法など、高価な製造装置と単品加工法を使うため量産ができず、しかも製作コストが高いという問題が存在していました。
東京大学の下山 勲 教授、九州大学の安達 千波矢 教授とNMEMS技術研究機構の安食 嘉晴 交流研究員(オリンパス株式会社)らは、図1 (a)に示す、有機半導体ナノ構造を用いた、赤外線検出器を提案しました。シリコン基板上に有機半導体(銅フタロシアニン:CuPc及び3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物:PTCDA)のナノ構造を自己組織化法(*4)で形成し、その有機半導体のナノ構造の上に金属(金:Au)を成膜するだけで、金属ナノ構造体を得ることができます。この方法を用いれば、温度などの有機半導体の成長条件を決めるだけで、自動的にナノ構造が形成されるので、高価な設備を必要とせず、量産が低コストでできます。図1(b)は製作した赤外線検出器の写真及び電子線顕微鏡拡大像です。電子顕微鏡像に見られるように、試作した検出器の表面に50ナノメートルの直径をもつナノ構造が多数存在しています。この検出器に赤外線を照射して、検出効率を測定したところ、ナノ構造がない赤外線検出器の出力と比較して、波長1200ナノメートルの赤外線に対する効率が約10倍向上しました。試作した赤外線検出器は、安価かつ高感度な赤外線検出器を量産する方法として、さまざまな赤外線検出用途への応用が期待されます。本研究の一部は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託研究業務の支援を受けて得られた成果です。

参考:
MEMS2014 website: http://www.mems2014.org/
Y. Ajiki, T. Kan, M. Yahiro, A. Hamada, J. Adachi, C. Adachi, K. Matsumoto and I. Shimoyama, “NEAR INFRARED PHOTO-DETECTOR USING SELF-ASSEMBLED FORMATION OF ORGANIC CRYSTALLINE NANOPILLAR ARRAYS”

(2) 「筋音センサ」
近年、筋肉の活動を定量的に取得する方法として、「筋音」の利用が注目されています。この方法では筋繊維の皮膚の発汗の影響によらずに筋繊維の活動を計測できます。従来研究によって、計測箇所や運動様式、筋疲労度などにより筋音の振幅や周波数が変化することが認められており、筋電計に代わる筋活動計測の方法として期待されています。マイクロフォンを用いた従来の筋音計測では、皮膚とマイクロフォンの間に空気層があったため、圧力波が皮膚表面で体内に反射し外に出ないという問題がありました。
下山 勲 教授、東京大学大学院 情報理工学系研究科 金子 智則 大学院生(修士課程1年)らは、液体と空気の境界面に片持ち梁を配置し、筋肉の収縮によって生じた圧力波の皮膚表面での反射を抑えることによって、効率よい筋音の計測を実現しました。本研究では、図2に示すように、圧力センサと皮膚表面の間に液体を満たしました。この構造により、体内を伝播した圧力波を圧力センサまで伝えることができます。
圧力センサとしては、表面にピエゾ抵抗層(*5)をもつ片持ち梁(水泳の飛び込み板のような、片側の端が固定されてもう一方の端は動くことができる構造体。厚さ300 ナノメートル)を用いています。ピエゾ抵抗は伸びや縮みによって抵抗値が変化するので、片持ち梁のたわみを知ることができます。筋繊維が収縮する際に発生した圧力波が皮膚とその上の液体を伝播して片持ち梁に達すると、片持ち梁は振動します(図2)。このとき、片持ち梁の変形に応じてピエゾ抵抗層の抵抗値が変化します。この抵抗値の変化を計測することで、圧力波を計測することができます。計測の際、片持ち梁のまわりには壁との間に小さな隙間(5 マイクロメートル)がありますが、液体の表面張力がはたらくので、液体がセンサ外部に漏れることはありません。
図3が試作した筋音センサおよび圧力センサチップです。実験の結果、ハウジング内に液体を満たした場合には筋音が計測できました(図4)が、液体をとりさると筋音はほとんど計測されませんでした。本研究の成果は筋電計測に代わり、人間の運動時の筋活動の計測や、筋音を入力としたインターフェースを持つ装置やロボットへの応用が期待されます。

参考:
MEMS2014 website: http://www.mems2014.org/
T. Kaneko, N. Minh-Dung, R. Aoki, T. Takahata, K. Matsumoto, and I. Shimoyama, “MEASUREMENT OF MECHANOMYOGRAM

(3) 「任意の周波数帯域で放射可能な液中超音波発生素子」:
対象物に超音波を放射し、その反射を計測することで対象物の形状や状態を探る超音波エコーが、医療、工業などの分野で用いられています。現在、実用化されている超音波発生素子の多くは、電圧を加えることで変形する圧電素子という材料を使用しています。しかしこの材料は、特定の共振周波数でのみ大きく変形して超音波を放射するため、単一素子から任意の周波数の超音波を極めて短時間だけ放射することは困難でした。
下山 勲 教授、東京大学大学院 情報理工学系研究科 ディン ホアン ジャン 大学院生(修士課程2年)らは、同研究グループが研究を進めてきた、液体を高分子膜で封止するPoLD (Parylene on Liquid Deposition) 技術を応用し、金属発熱体の上にシリコンオイルを配置した液滴超音波発生素子を実現しました。この素子はシリコンオイルを周期的に加熱することで、超音波を生み出します。この方法は、構造の共振現象を利用する必要がないため、任意の周波数帯域の超音波を極めて短時間で放射することが可能となります。
本研究では、直径10 ミリメートル の金属発熱体上にシリコンオイルを封止した液滴超音波発生素子を実現しました(図5)。シリコンオイルを配置することで発熱体と外部液体を絶縁した状態で、水中に超音波を放射することができます。
この技術は、体内の病変部の表面形状や組織の状態を観測する超音波内視鏡や、水中の物体形状を詳細に計測する超音波エコーなどへの応用が期待されます。

参考:
MEMS2014 website: http://www.mems2014.org/
D. Hoang-Giang, N. Thanh-Vinh, K. Noda, P. Hoang-Phunong, N. Binh-Khiem, T. Takahata, K. Matsumoto and I. Shimoyama, “MICRO LIQUID-BASED THERMO-ACOUSTIC TRANSMITTER FOR EMITTING ULTRASOUND IN LIQUID MEDIUM.”

5.お問い合わせ先:
東京大学IRT研究機構 機構長
東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 下山 勲

6.用語解説: 
(*1) IRT研究機構:少子高齢化社会をロボット技術で支えることを目的とし、2008年4月1日に東大総長室直轄として誕生した研究組織。

(*2) 筋音 :筋繊維が収縮する際に生じ、皮 膚表面まで伝わる圧力波。

(*3) 共振周波数 :加振によって物体が大きく変形・振動する、物体固有の周波数。

(*4) 自己組織化法:自律的に秩序をもつ構造を作り出す方法。

(*5)ピエゾ抵抗層:応力・たわみによって電気的な抵抗値が変わる材料。

添付資料はこちら

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる