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難治性スキルス胃がんの治療標的候補となる活性化遺伝子変異を同定 ―がんのゲノムシーケンシングの成果―研究成果

難治性スキルス胃がんの治療標的候補となる活性化遺伝子変異を同定
―がんのゲノムシーケンシングの成果―

平成26年5月12日

国立大学法人 東京医科歯科大学
国立大学法人 東京大学

 

【ポイント】
◆日本人のスキルス胃がん(びまん性胃がん)のゲノムシーケンシングによりRHOA(ローエー)遺伝子の変異を同定しました。
◆RHOA遺伝子は細胞運動・増殖制御に関わる遺伝子で、今回見つかった変異は解析の結果、がん化を促進する活性化変異であることが分かりました。
◆スキルス胃がんは難治がんの代表であり現在有効な分子標的治療薬が存在しません。今回発見したRHOA遺伝子の活性化変異はスキルス胃がんに対する新規の治療標的となる可能性があります。

 

 東京医科歯科大学・難治疾患研究所・ゲノム病理学分野(石川俊平教授)と東京大学 先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス部門(油谷浩幸教授、垣内美和子大学院生)及び大学院医学系研究科 人体病理学・病理診断学分野(深山正久教授)らの研究グループは、難治性がんであるスキルス胃がん(びまん性胃がん)のゲノムシーケンシングを行い新規創薬の標的候補となるRHOA遺伝子の活性化変異を同定しました。
この研究は東京大学 医学部附属病院 胃・食道外科の協力を得て、文部科学省 新学術領域研究「システム的統合理解に基づくがんの先端的診断、治療、予防法の開発」、文部科学省の産学官連携プログラムである先端融合領域イノベーション創出拠点の形成プログラム「システム疾患生命科学による先端医療技術開発」等の支援のもとで行われたものです。機能解析や構造解析は未来創薬研究所と共同で実施しました。本研究成果は国際科学誌Nature Geneticsに2014年5月11日付オンライン版で発表されます。


【図】 スキルス胃癌のゲノムシーケンシングによる治療標的候補の同定


【研究の背景】
胃がんは日本におけるがんの主な死亡原因の一つであり、年間約5万人が亡くなっています。胃がんは臨床病理学的に腸型胃がんとびまん性胃がんに大別されます。びまん性胃がんは強い浸潤傾向を持ち、線維組織の増殖増生を伴う硬い(スキルス性)間質を持つことからしばしばスキルス胃がんと呼ばれます。スキルス胃がんは極めて悪性度の高い難治がんであり、これまで有効な分子標的治療薬がなく日本の保健衛生に重大な影響を及ぼしています。
一方、近年では、イレッサなどのような特定のがんに対する分子標的治療薬が開発されており、次世代シーケンサー等によるDNAシーケンシング技術の発達がその流れを加速させています。
スキルス胃がんに対しても、がんゲノムのシーケンシングによって体細胞変異(注1)の全体像を明らかにすることにより有効な治療標的を探索することが求められていました。

 

【研究成果の概要】
この研究ではスキルス胃がん組織からゲノムDNAを取り出し、次世代シーケンサーを用いてゲノム中のタンパク質をコードする部分(エクソン部分)の全配列を決定しました(全エクソーム解析)。その結果、スキルス胃がん症例の約1/4(87症例中22症例:25.3%)にRHOA遺伝子の体細胞変異が存在することがわかりました。RHOAは細胞運動・増殖制御に関わるシグナル分子であり、スキルス胃がん症例で見つかった体細胞変異はRHOA分子の特定の部位に集中しています(図 タンパク構造の紫色のアミノ酸)。複数の検証実験の結果RHOA遺伝子の変異は機能を獲得した活性化変異であり、スキルス胃がんの重要な原因であるドライバー変異(注2)であることが分かりました。この変異したRHOA遺伝子の機能を阻害することによりがん細胞の増殖が大きく低下することも確認されています。

 

【研究成果の意義】
  この研究成果は、日本国内だけでなく世界的にもがんの死亡原因の主要な位置を占めるスキルス胃がんにおけるがんゲノムの概要を、世界に先駆けて明らかにしたものです。またこれまで有効な治療標的のなかったスキルス胃がんに対して治療標的の候補となるドライバー遺伝子変異を同定したことは、がん治療の進展に向けて社会的にも重要なものとなります。今後引き続き症例数を増やした解析および、治療標的としての妥当性を検討する研究が行われる予定です。

 

【用語解説】
(注1)体細胞変異:親から子へと遺伝するゲノム変異(胚細胞変異と呼ばれる)に対して、がん細胞のみが持つゲノムの異常でDNA配列変異・遺伝子増幅・キメラ遺伝子などが含まれます。
(注2)ドライバー変異:発がんやがん悪性化の直接的な原因となるような遺伝子変異のこと。遺伝子の機能が失われる変異と、新たな機能を獲得する変異とがあり、後者は特に活性化変異と呼ばれ良い治療標的となる可能性が高いと考えられています。

 

【発表雑誌】
雑誌名:「Nature Genetics」(2014年5月11日にオンライン掲載)
論文タイトル
Recurrent gain-of-function mutations of RHOA in diffuse-type gastric carcinoma

 

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
  ゲノム病理学分野 石川 俊平(イシカワ シュンペイ)

東京大学 先端科学技術研究センター
  ゲノムサイエンス部門 油谷 浩幸(アブラタニ ヒロユキ)

東京大学 大学院医学系研究科
  人体病理学・病理診断学分野 深山 正久(フカヤマ マサシ)

<報道に関すること>
東京医科歯科大学 広報部広報課

東京大学先端科学技術研究センター 広報・情報室

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