このページのトップです。
東京大学ホーム > 広報・情報公開 > 記者発表 > 研究成果発表一覧 > 2014年度 > うまれつき肝臓に病気があるこどもたちに光明! ~「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症」を原因としたかゆみに有効な薬剤を世界で初めて発見~
space

広報

記者発表一覧

うまれつき肝臓に病気があるこどもたちに光明!
~「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症」を原因としたかゆみに有効な薬剤を世界で初めて発見~

平成26年7月15日

東京大学大学院薬学系研究科

 

1.発表者: 林 久允(東京大学大学院薬学系研究科 薬学専攻 助教)

 

2.発表のポイント: 
  ◆うまれつきの肝臓の病気である「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症」のかゆみに対する薬剤を世界で初めて発見した
  ◆上記の病気に限らず、肝臓の病気によるかゆみに対する治療法は現在無く、この薬剤が初めてとなる
  ◆かゆみは著しい生活の質の低下を引き起こすため、今回の発見は患者、その家族にとって新たな光明となる

 

3.発表概要:
患者数が極めて少ないまれな疾患(希少疾患)の1つに、こどもの肝臓に関する病気で、無治療の場合には成人前に肝不全となり、死に至る難病があります。この難病は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症と呼ばれる遺伝子の変異が原因となる疾患で、患者は肝臓の機能の低下に伴う強いかゆみのために、物事に集中できない、夜間深い睡眠をとることができない等、日常生活において悩みを抱えています。
今回、東京大学大学院薬学系研究科の林久允助教、直井壯太朗大学院生(同博士課程3年)、楠原洋之教授らの研究グループは、大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座(小児科学)の近藤宏樹助教、長谷川泰浩医員、大薗恵一教授らと共同で、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型の患者を対象とした臨床研究(注1)を実施し、尿素サイクル異常症(注2)の治療薬であるフェニルブチレートには、この病気を原因としたかゆみを改善させる効果があることを世界で初めて発見しました(図)。進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に限らず、肝臓の病気を原因としたかゆみに対する有効な治療法は現在無く、こどもたちの生活の質を低下させる主な要因になっています。本薬剤は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症のこどもたちをかゆみという悩みから救い出すだけではなく、他の肝臓の病気によるかゆみに対する効果も期待できます。

 

4.発表内容:
患者数が極めて少ないまれな疾患(希少疾患)の1つに、こどもの肝臓に関する病気で、無治療の場合には思春期前に肝不全に陥り、死に至る難病があります。この難病は、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(Progressive familial intrahepatic cholestasis; PFIC)と呼ばれる遺伝子疾患で、原因遺伝子の違いにより、PFIC1~PFIC3に大別されます。東京大学大学院薬学系研究科の林久允助教らの研究グループや他の研究グループにより、PFIC1、PFIC2における肝臓の機能の低下は、肝細胞に存在するBile Salt Export Pump(BSEP)というタンパク質の機能の破綻に原因があることが示されています(Hayashi H, Hepatology 2005;41(4):916-24, Paulusma CC, J Biol Chem. 2009;284(15):9947-54)。しかしながら、PFIC1、PFIC2に対して有効な内科的療法は未だ確立していません。この病気のこどもたちは、肝臓の機能の低下による強いかゆみのために、物事に集中できない、夜間深い睡眠をとることができない等、日常生活においても悩みを抱えています。


以上の背景から、林助教らは、PFIC1、PFIC2の治療薬となる化合物の探索に取り組み、尿素サイクル異常症の治療薬であるフェニルブチレートが、BSEPの機能を増強させるという薬理作用を示すことを基礎研究から独自に見出しました(Hayashi H, Hepatology 2007;45:1506-1516, Hayashi H, Hepatology 2012;55:1889-1900)。さらに林助教らは、この知見に基づき、PFIC1、PFIC2に対するフェニルブチレートの有効性を調べるため、これらの病気のこどもたちを対象とした臨床研究を企画し、PFIC2に関しては、フェニルブチレートが著明な治療効果を示すことも明らかとしていました(Naoi S, J Pediatr. 2014;164(5):1219-1227.e3)。


今回、林助教、直井壯太朗大学院生、楠原洋之教授らの研究グループは、大阪大学医学部附属病院に通院しているPFIC1のこどもたち3名を対象としたフェニルブチレートの用量漸増試験(注3)を大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座(小児科学)の近藤宏樹助教、長谷川泰浩医員、大薗恵一教授らと共同で実施しました。試験期間中に、肝機能の指標となる生化学検査値(注4)、組織学的検査(注5)による肝臓の病理像が改善することはありませんでしたが、薬剤の用量の増加に伴い、かゆみが著明に改善しました(図)。かゆみが原因でできていたひっかき傷は、かゆみの改善により消失し、きれいな皮膚が再生してくることも確認できました。また、夜間に熟睡することができるようになり、こどもだけではなく家族の生活の質も向上することがわかりました。


現在のところ、PFICのような肝臓の病気を原因としたかゆみに対しては有効な治療法はありません。こどもたちは、かゆみのために物事に集中できない、体じゅうにひっかき傷ができる、夜間は深く眠ることができないなどの悩みを抱え、家族の生活の質も著しく低下していました。同じように生活の質を低下させる症状として「痛み」がありますが、痛みに関しては、現在効果のある薬剤があり、ほぼコントロールできるようになってきています。今後、本薬剤による治療法が普及することにより、こどもたちの日中の活動性があがり、日中及び夜間の安静を得ることができるようになるものと期待されます。


本研究グループは現在、治験開始に向けた準備を進めています。本治験の参加にご興味をお持ちの方は、遺伝子変異検査などによる確定診断も併せて実施いたしますので、6.の問い合わせ先までご連絡ください。

 

5.発表雑誌:
雑誌名:Orphanet Journal of Rare Diseases
論文タイトル:Intractable itch relieved by 4-phenylbutyrate therapy in patients with progressive familial intrahepatic cholestasis type 1
著者:Yasuhiro Hasegawa, Hisamitsu Hayashi*, Sotaro Naoi, Hiroki Kondou, Kazuhiko Bessho, Koji Igarashi, Kentaro Hanada, Kie Nakao, Takeshi Kimura, Akiko Konishi, Hironori Nagasaka, Yoko Miyoshi, Keiichi Ozono, Hiroyuki Kusuhara

 

6.問い合わせ先: 
東京大学大学院薬学系研究科 分子薬物動態学教室
助教 林 久允
Email: hayapi[at]mol.f.u-tokyo.ac.jp([at]を@に置き換えてください。)

 

大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座 小児科学
助教 近藤 宏樹
医員 長谷川 泰浩

7.用語解説:
(注1)臨床研究:病気の予防や診断、治療方法の改善や、病気の原因を明らかにする等を目的とし、人を対象として実施される研究。
(注2)尿素サイクル異常症:正常なヒトが本来持つ経路である、アンモニアを解毒してヒトにとって安全な尿素をつくる尿素サイクルにうまれつきの異常があるためにおこる病気。フェニルブチレートが有効な薬剤である。
(注3)用量漸増試験:試験薬の用量を徐々に上げていきながら、その有効性を評価する試験方法。
(注4)生化学検査:病気の診断、治療の判定の目的で、血液中に含まれているさまざまな成分を分析する検査。
(注5)病理学的検査:生体より採取した組織から作製された顕微鏡標本における形態的な変化を観察する検査方法。
(注6)治験:医薬品、及び医療機器の製造販売に関して、薬事法上の承認を得るために実施される臨床試験。

 

8.添付資料:

図:フェニルブチレートを飲んでいる間のかゆみの程度の推移

space