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無害化対策後も都立公園から6価クロムが流出するメカニズムを解明研究成果

無害化対策後も都立公園から6価クロムが流出するメカニズムを解明

平成26年9月12日

東京大学大学院総合文化研究科

 

1. 発表者:
堀 まゆみ(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士課程3年、
日本学術振興会特別研究員)
松尾 基之(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授)
小豆川 勝見(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 助教)

 

2.発表のポイント:
◆都立大島小松川公園外周の歩道上や集水桝に、6価クロムを含んだ水が環境基準を超過して流出していることを確認しました。
◆大雨や積雪が6価クロムの流出を引き起こしていることを明らかにしました。
◆この地域における6価クロム汚染の将来予測のみならず、これまでの無害化対策を見直し、改善していく上でも重要な知見になりうるものと期待されます。

 

3.発表概要:
東京都江東区と江戸川区にまたがる都立大島小松川公園の地中には、発がん性が指摘される6価クロムを含むクロム鉱滓(こうさい、注)が、無害化処理をされた後埋められています。しかし、この公園周辺ではその後も6価クロムの流出が相次いで検出され、その都度無害化対策が施されています。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程3年の堀まゆみと松尾基之教授らの研究グループは、2012年から公園外周の歩道および集水桝の環境試料(水、雪、土壌)を採取し、6価クロムを含んだ水が環境基準を超えて流出している実態を確認しました。
異なる気象条件下で環境試料を採取することで、地中の6価クロムが大雨や積雪により溶け出す流出メカニズムを明らかにしました。
本成果については、2014年9月16日から富山大学で開催される日本地球化学会第61回年会で詳細を発表する予定です。

 

4.発表内容:
都立大島小松川公園の地中には、この地で1972年まで操業していたクロム酸工場の製造過程で生成したクロム鉱滓が埋められています。このクロム鉱滓には、発がん性が指摘され有毒とされる6価クロムが含まれています。東京都は、このクロム鉱滓を無害化処理し、鋼矢板で封じ込め、覆土をした上で都立公園として住民に開放しました。しかし、鉱滓の無害化処理にもかかわらず、公園周辺では40年が経過した今なお、6価クロムを含んだ水が検出されています。東京都では、6価クロムが検出される度に、検出された箇所の無害化対策を行っていますが、その後も流出が繰り返し起こり、恒久的な無害化対策はなされていない現状があります。

 

堀らの研究グループでは、2012年11月から都立大島小松川公園外周の歩道および集水桝において、水、雪、土壌試料を天候の異なる日にそれぞれ採取し、JIS K0102 工場排水試験方法に準拠した分析を行った結果、6価クロムの流出を確認し、その流出メカニズムを明らかにしました。


都立大島小松川公園外周の歩道上の全16地点から採取した試料のうち、「わんさか広場」北側から採取した5地点の水試料と雪試料から6価クロムが検出されました。大雪が降った2013年1月、歩道上に湧き出た水(滲出水:しんしゅつすい)から、最大で1リットル当たり37.0ミリグラムの6価クロムが検出され、1リットル当たり0.05ミリグラムの地下水基準を約740倍超過していました。歩道上に積もった雪は、6価クロム特有の黄色に着色されており、1リットル当たり11.8ミリグラムの6価クロムが検出されました。一方、晴れの日に採取した試料からは検出されませんでした。公園の集水桝の水からは、1リットル当たり133ミリグラムの6価クロムが検出され、1リットル当たり0.5ミリグラムの下水排除基準を260倍以上超過していました。集水桝では、環境基準を超える高い濃度で6価クロムが確認されることから、常に流入が起こっていることが示唆されます。さらに、2014年8月10日に都内を台風が通過する前後で別地点の集水桝の水を調査したところ、降水量45ミリを観測した台風の通過後に6価クロム濃度は台風通過前の約2倍高い値を示しました。

 

今回、天候別に6価クロムの検出有無を調査したことにより、6価クロムは雨や雪が降ると流出する傾向があることがわかりました。公園に埋められているクロム鉱滓に含まれる6価クロムは、水に溶けやすい性質を持つと言われていることからも、雨や雪が流出の引き金となると示唆されます。公園の覆土内に雨水や雪解け水が染み込むと、クロム鉱滓中の6価クロムが溶け出して地下水とともに流れ、大雨による地下水位の上昇とともに地表面に流出すると説明できます(図)。一方で、雨量が少ない場合では、染み込んだ雨水は覆土(土壌)に吸収されてしまうため、鉱滓中の6価クロムの溶出は起こりにくいと推察されます。それゆえ、大雨や積雪の場合に流出が引き起こされます。大雨によって都立大島小松川公園周辺のあらゆる場所で流出が起こるわけではありませんが、クロム鉱滓を通った雨水が流れてくる場所では、大雨が降ると今後も6価クロムの流出が起こり得る可能性があります。


都立大島小松川公園周辺では、今なお6価クロムの流出が起こることから、埋め立て当時の無害化対策の不十分さが指摘できますが、今回流出メカニズムが明らかになったことで、この地域周辺や同様の汚染が生じている地域での6価クロム汚染対策手法を考える上での一助となることが期待されます。

 

5.発表学会と雑誌:
学会名:日本地球化学会第61回年会
発表日時:2014年9月16日(火)
開催場所:富山大学五福キャンパス
発表会場:共通教育棟1階 D11教室(C会場)
セッション名:水圏環境の地球化学
発表時間:午前9時30分から9時45分を予定
http://www.geochem.jp/conf/2014/

 

※本成果の一部は、本学会発表に先立って下記の学術雑誌に発表されています。
雑誌名:Journal of Material Cycles and Waste Management(オンライン版: 3月16日 掲載)
論文タイトル:Hexavalent chromium pollution caused by dumped chromium slag at the urban park in Tokyo
著者:Mayumi Hori, Katsumi Shozugawa, Motoyuki Matsuo
DOI番号:10.1007/s10163-014-0243-0
アブストラクトURL:http://link.springer.com/article/10.1007/s10163-014-0243-0?sa_campaign=email/event/articleAuthor/onlineFirst

 

6.問い合わせ先:
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻
環境分析化学研究室 博士課程3年
堀 まゆみ
研究室URL: http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/matsuolab/

 

7.添付資料:

図:6価クロム流出のメカニズム。公園の覆土内に雨水や雪解け水が染み込むと、それが埋められたクロム鉱滓中の6価クロムを溶かし、溶け出した6価クロムは地下水とともに流れ、大雨による地下水位の上昇とともに地表面(地上)に流出する。

 

8.用語解説:
(注)クロム鉱滓(こうさい)
クロムを含んだ滓(かす)でスラグともいう。クロム酸製造過程の際に出る、クロムを含む副産物。

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