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「健康・医療戦略」の成果 腎臓病等治療薬創製に向けたリード化合物の塩野義製薬株式会社への導出研究成果

「健康・医療戦略」の成果
腎臓病等治療薬創製に向けたリード化合物の塩野義製薬株式会社への導出

平成26年9月18日

東京大学創薬オープンイノベーションセンター
東京大学大学院薬学系研究科
東京大学大学院理学系研究科
東北大学大学院薬学研究科

 

1.発表のポイント: 
 腎臓病等の治療薬創製につながる候補物質(リード化合物)を塩野義製薬株式会社へ導出(提供)
 政府の「健康・医療戦略」に基づき、日本発の新薬創製につながる新規化合物をアカデミアの総力を結集して発見
 日本の創薬研究における産学連携の好例であり、今後の日本の創薬研究の加速に貢献

2.発表概要: 
  東京大学創薬オープンイノベーションセンターおよび同大学院薬学系研究科の長野哲雄名誉教授、同大学院理学系研究科の濡木理教授らと東北大学大学院薬学研究科の青木淳賢教授らは、この度、創薬の共同研究を通じて得られた成果の一つを、慢性腎臓病等の治療薬の開発につながる候補物質(リード化合物)として塩野義製薬株式会社に導出(提供)しました。これを受け、同社は、臨床開発段階に移行させるべく、本リード化合物に関する構造最適化研究を開始し、精力的に進めています。
  約20万種の医薬品候補化合物群で構成される東京大学の大型化合物ライブラリーから、臓器の線維化や炎症等に関わる酵素、「オートタキシン」の作用を抑制する化合物を東京大学と東北大学が共同研究において新たに見出しました。その化合物が標的分子オートタキシンに結合している様子をX線結晶構造解析により明らかにし、その知見に基づき、更に優れた化合物を論理的に設計・創出することに成功しました。今回の塩野義製薬株式会社への創薬リード化合物の導出は、東京大学および東北大学の研究グループが見出した化合物の薬理効果も合わせて、アカデミアで得られた成果を同社が高く評価したことによるものです。
大学などアカデミアで行われている生命科学の基礎研究の成果を日本発の新薬開発につなげる「健康・医療戦略」が安倍政権の重要施策の一つに掲げられています。東京大学の大型化合物ライブラリーは文部科学省ターゲットタンパク研究プログラムおよび同省創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業の一事業である創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業の一環として構築されました。国家プロジェクトで整備された大型創薬基盤設備を用いて得られた今回の成果はその施策を具現化したものです(参考:「平成27年度医療分野の研究開発関連予算要求のポイント」2ページ。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/siryou/pdf/h27_yosan.pdf

 

3.発表内容: 
  従来、大学等アカデミアが創薬シーズの探索研究に利用できる大型の化合物ライブラリーは日本には存在しなかったため、低分子に基づく医薬品開発においては、偶然の発見や長年にわたる天然物の地道な探索に基づく以外に創薬シーズを見出すことはできませんでした。そこで、東京大学を中心として効率的に創薬シーズを発見するために、その候補となり得る化合物サンプルを多種取り揃えた大型化合物ライブラリーを整備し、創薬研究を志すアカデミア研究者の誰でもが容易にアクセスできるシステムを国家プロジェクトとして構築してきました。

  一方、東北大学大学院薬学研究科の青木教授らは、現在までオートタキシンを始めとする種々のリン脂質関連タンパク質や生体内情報伝達についての最先端研究を精力的に進めてきています。オートタキシンはリゾホスファチジルコリンをリゾホスファチジン酸に加水分解する酵素で、リゾホスファチジン酸は細胞膜表面上に発現するG蛋白質共役型受容体を介して細胞増殖、細胞内カルシウム流入、細胞骨格変化、細胞遊走など多彩な作用を発揮する脂質です。この脂質は、臓器の線維化、疼痛、癌、炎症、動脈硬化などの生体の異常に関与することが報告されています。

  新薬創出の観点から、種々の疾患に関わるタンパク質であることが明らかにされているオートタキシンの働きを止める阻害剤の開発研究を東京大学と東北大学が共同で取り組みました。その際に、上述の化合物ライブラリーから供給された多種のサンプルを網羅的に効率良く調べる(スクリーニング)必要があります。スクリーニング系に関しても独自のアイディア、すなわちオートタキシンの活性に依存して蛍光強度が変化する色素を新規に開発し、この阻害剤の探索試験に適用しました(本方法は米国化学会の学術誌に発表済Kawaguchi et al. ACS Chemical Biology, 8, 1713-1721 (2013).)。

  その結果、オートタキシンの阻害剤として有効な物質を発見することに成功し、タンパク質の立体構造解析の専門家である東京大学大学院理学系研究科の濡木教授らと共同で、その物質とオートタキシンの共結晶を得、X線結晶構造解析を行いました。その構造に基づいて、さらに化合物の化学構造を改変し、より強い阻害剤を創り出すことができました。これらの化合物の薬理効果も同時に確認しました。

  これらの研究成果を塩野義製薬株式会社に紹介したところ、同社は成果の有用性・新規性・独創性を高く評価し、慢性腎臓病等の線維化疾患治療薬としての製品化を目指すべく導入し、本化合物をリード化合物とした最適化研究を開始した次第です。


4.問い合わせ先:
東京大学創薬オープンイノベーションセンター
担当:特任教授 岡部隆義、小島宏建

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