microRNAがタンパク質合成を抑制するしくみを解明研究成果

microRNAがタンパク質合成を抑制するしくみを解明

平成26年10月3日

東京大学分子細胞生物学研究所

 

1．発表者： 泊　幸秀（東京大学 分子細胞生物学研究所 教授）

 

2．発表のポイント：
　 ◆ microRNAがタンパク質合成を抑制するしくみを解き明かしました
　 ◆ microRNA作用原理の正確な理解に基づいた医薬応用等が期待されます

 

3．発表概要：
microRNAと呼ばれる小さなRNA（注1）は、標的となる遺伝子からのタンパク質合成を抑制することによって、遺伝子の発現を緻密に制御しています。近年の研究により、microRNAは発生（注2）や分化（注3）といった高次な生命現象、および癌をはじめとするさまざまな疾患と深く関与することが明らになっています。しかしその一方で、どのようにmicroRNAがタンパク質合成を抑制しているのかという根本的な問いは未解明のままでした。
　 今回、東京大学分子細胞生物学研究所の泊幸秀教授らは、試験管内でmicroRNAの働きを再現し、その機能を解析する新たな実験手法を開発することにより、microRNAが標的遺伝子からのタンパク質合成を阻害する分子機構を、モデル生物であるショウジョウバエにおいて解き明かすことに成功しました。将来的には、microRNA作用原理の正確な理解に基づく医薬等への応用が期待されます。

 

4．発表内容：
microRNAと呼ばれる小分子RNAは、標的とするmRNAからのタンパク質合成（翻訳）を抑制することによって、発生や分化といった高次生命現象を制御しています。またmicroRNAは、癌をはじめとする重篤な疾患とも深く関与しており、それらを標的した治療法なども精力的に研究されています。しかしその一方で、microRNAがどのように翻訳を抑制するのかという根本的な問いに対する答えは未だに明らかとなっていません。

　 通常、翻訳を開始するためには、タンパク質の設計図であるmRNAに、リボソームと呼ばれるタンパク質合成装置が呼び込まれる必要があります。そして、このリボソームの呼び込みには、翻訳開始因子と呼ばれる一連のタンパク質群があらかじめmRNA上で複合体を形成する必要があります。これまでの研究から、microRNAはリボソームの呼び込み過程を阻害することによって、標的遺伝子の翻訳を抑制していることがわかっていましたが、その作用機序は依然として不明のままでした。

　 今回、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程（当時）の深谷 雄志さん、分子細胞生物学研究所の岩川 弘宙助教、同研究所の泊 幸秀教授らは、mRNA上に結合している翻訳開始因子複合体を検出できる新しい実験手法を開発し、microRNAがその形成にどのような影響を与えるのかについて詳細な解析を行いました。その結果、microRNAはeIF4Aと呼ばれる特定の翻訳開始因子を標的mRNA上から解離させることによって、リボソームの呼び込みを阻害していることを明らかにしました（添付資料の図を参照）。本研究は、モデル生物であるショウジョウバエを用いて行われましたが、名古屋市立大学薬学研究科の藤原 俊伸教授らによる解析により、ヒトにおいても同様の結果が得られました（同号のMolecular Cell誌に掲載予定）。このことから、microRNAによる翻訳開始因子複合体の形成阻害は、生物種間を越えて保存された普遍的なしくみであることが示されました。今回の発見は、microRNAが遺伝子発現を緻密に制御するしくみの解明につながる成果であり、その正確な理解に基づく医薬等への応用が期待されます。

 

5．雑誌名： Molecular Cell （オンライン掲載: 米国東部夏時間 10月2日）

論文タイトル：microRNAs block assembly of eIF4F translation initiation complex in Drosophila
著者：Takashi Fukaya†, Hiro-oki Iwakawa† and Yukihide Tomari (†Co-first author)

 

6．問い合わせ先： 　

東京大学　分子細胞生物学研究所
教授　泊 幸秀 （とまり ゆきひで）

7．用語解説：
　
（注1） RNA: 日本語ではリボ核酸。一般的に知られているmRNAは、DNA(デオキシリボ核酸)がもつ遺伝情報のコピーであり、タンパク質の設計図として働く。一方、小さなRNAはタンパク質の設計図にはならない。

（注2） 発生: 受精卵から成体ができる過程のこと。

（注3） 分化: 未成熟な細胞が、特定の機能を担う細胞へと特殊化する過程。

8．添付資料：　

図　microRNAが標的遺伝子からのタンパク質合成を阻害するメカニズム