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小型イオン推進システムの宇宙作動実証に成功
~100 kg以下の小型衛星における世界初のイオンスラスタ作動~

平成26年12月5日

東京大学
次世代宇宙システム技術研究組合

1.発表者:
東京大学先端科学技術研究センター 小泉宏之 准教授
東京大学大学院工学系研究科 中須賀真一 教授(内閣府最先端研究開発支援プログラム中心研究者)

 

2.発表のポイント: 
  ◆超小型衛星「ほどよし4号」に搭載した小型イオン推進システムの宇宙での作動実証に成功した。
  ◆この作動実証は、100 kg以下の小型衛星における世界初の小型イオンスラスタ(イオンエンジン)のものとなる。
  ◆低コスト・短期間で開発できる小型人工衛星の利用拡大に貢献

 

3.発表概要: 
東京大学先端科学技術研究センターの小泉宏之准教授と次世代宇宙システム技術研究組合(代表理事:山口 耕司)が共同で開発を進め、ロシアのヤスネ基地から2014年6月19日19:11(UTC;日本時間20日午前4:11)に打ち上げられた超小型衛星「ほどよし4号」に搭載した小型イオン推進システム(MIPS:Miniature Ion Propulsion System、表1)の宇宙での初作動に2014年10月28日成功しました。現在、「ほどよし4号」において小型イオン推進システムの初期運用を行っています。これは、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授が中心となり進めている最先端研究開発支援プログラム「日本発の『ほどよし信頼性工学』(注1)を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」の一環として行われています。


近年、高性能宇宙用推進機であるイオン推進システム(イオンスラスタを搭載した推進システム)は、宇宙探査および商用衛星における実用化が急速に進んでいます。しかし、これまで100 kg以下の小型衛星に対する実用化は、電力およびサイズの制限により実現されていませんでした。本小型イオン推進システムは低電力小型イオンスラスタ(イオンエンジン)を使用し、かつ各コンポーネントの小型化、軽量化および低消費電力化を進めたことで、50 kg級衛星への搭載が可能となりました。超小型衛星「ほどよし4号」への搭載による宇宙での作動実証は、100 kg以下の小型衛星における世界初の小型イオン推進システムの実証であり、今後の小型衛星におけるイオン推進システム利用の先駆けとなるものです。
イオン推進システムは長時間(100時間以上)の作動によって真価を発揮するシステムのため、今後は衛星の軌道修正計画に沿った定常運用を実現するべく初期運用を継続していきます。

 

4.発表内容: 
近年、大きな注目を集めているイオンスラスタ(イオンエンジン)は、その高い比推力、豊富な作動実績、精密な推力制御能力といった利点のため、現在人工衛星への実用化が急速に拡大しています。またイオンスラスタは、低コスト・短期開発が可能で、近年研究開発が活発化している小型衛星用のスラスタとしても非常に適しています。しかしながら、小型衛星に適合する電力消費量のイオンスラスタならびに推進システムのためのサブコンポーネント(注2)はこれまで開発が進んでおらず、100 kg以下の小型衛星においてイオンスラスタが搭載および実用された例はありませんでした。


  このような背景の中、東京大学先端科学技術研究センターの小泉宏之准教授は次世代宇宙システム技術研究組合と共同で、イオンスラスタを利用した新しい小型の推進システムMIPS: Miniature Ion Propulsion Systemの開発に取り組んでいました。新しい推進システムには、小泉准教授らが研究・開発を進めている「低電力小型イオンスラスタ」を使用し、システムの低電力化および軽量化を図りました。さらに、このスラスタを駆動するための電源、ガス供給システム、制御器などのサブコンポーネントを、小型衛星に適したサイズおよび消費電力で新規に開発し、小型低電力のイオン推進システムを実現しました(図1はシステム構成図)。全システムのモジュール化により汎用性が高まり、多くの小型衛星への適用が期待されています。本システムの開発は、エンジニアリングモデル(注3)の開発を経て、フライトモデル(注4;図2は外観写真)の開発を2014年3月に終了しました(図3は地上試験におけるフライトモデルのイオンスラスタ写真)。MIPSフライトモデル(MIPS-FM)は、全質量8.1 kg(推進剤キセノン(Xe)0.9 kg込み)および全消費電力27 Wを達成し、その結果、50 kg級小型衛星に使用可能な推進システムの構築に成功しました(性能詳細は表1に記載)。この推進システムにより50 kg級小型衛星は最大で140 m/sの速度増分(注5)を達成することができます。さらに、マイクロ波電力および搭載キセノン質量を調整することで、同じコンポーネントを用いてより高性能仕様(高ΔVセッティング)を施すことも可能です。


開発された小型イオン推進システムMIPSは、「日本発の『ほどよし信頼性工学』を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」で開発・打ち上げられた超小型衛星「ほどよし4号」に搭載されました。「ほどよし4号」はロシアのドニエプルロケットを用いて、ロシア国内のヤスネ基地から2014年6月19日19:11(UTC;日本時間20日午前4:11)に打ち上げられました。打ち上げ後、小型イオン推進システムはコンポーネントレベルでの動作確認を繰り返し、2014年10月28日および同11月18日に宇宙でのイオンスラスタ作動実証に成功しました(図4は10月28日のイオンスラスタ作動のデータ)。それぞれの運転時間は5分および6分とイオンスラスタとしては短いものの、これまで世界的に見ても100 kg以下の小型衛星におけるイオンスラスタの作動実績はなく、今回の宇宙作動実証が100kg以下の小型衛星における世界初の小型イオンスラスタ作動です。

 

これまで中・大型衛星の開発には莫大なコストと期間を要し、衛星の利用者はほとんど国や一部の企業に限られており、利用目的も通信・放送・測位・地球観測・宇宙科学など限定的でした。しかし、小型衛星は低コスト・短期間での開発が可能となり、小型イオン推進システムを搭載した小型衛星の運用が進めば、教育や農林水産業、輸送業やエンターテイメントなどさまざまな分野において小型衛星のミッションの幅が格段に広がることが期待されます。
なお、本システムの開発には、一部、科学研究費補助金による開発項目も含まれています。

 

5.問い合わせ先: 
東京大学先端科学技術研究センター 小泉宏之 准教授
次世代宇宙システム技術研究組合(担当 里形)

 

6.用語解説: 

(注1)ほどよし信頼性工学:設計信頼度をとことん追究するよりも、性能・信頼性・コストのバランスがほどよくつりあうことを重視するという考え方に基づいた小型衛星研究開発プロジェクト。

(注2)サブコンポーネント:イオンスラスタを作動させるために必要なコンポーネント。高電圧、マイクロ波、ガスを供給するコンポーネントや、衛星との通信を行う制御器が該当する。

(注3)エンジニアリングモデル:設計の妥当性を確認しフライトモデルに移行するための設計を固めるためのデータ取得を行うモデル。

(注4)フライトモデル:実際に宇宙に打ち上げるモデルで、実際の宇宙環境より厳しい環境での試験をクリアしているモデル。

(注5)速度増分:推力以外の力が加わらない環境下において、推力によって宇宙機が得る速度の増加量。

 

7.添付資料
小型イオン推進システムの動作原理
・推進剤であるキセノン(Xe)を高圧タンクに圧縮貯蔵する(初期状態7 MPa (メガパスカル))。
・流量制御システムによりイオン源および中和器に合計約29 μg/s(マイクログラム毎秒)のキセノンを供給する。
・イオン源および中和器それぞれにマイクロ波を投入しプラズマを生成する。
・イオン源に1500 Vの高電圧を加えてグリッドを通してプラズマからイオンを外部に高速で排出する。
・中和器に最大-80 V(典型値-10 V)の負電圧を加えてオリフィスを通して電子を外部に排出する。
・イオン源から高速排出されたイオンの反作用により宇宙が推力を受ける(典型値200 μN(マイクロニュートン))。
・中和器から放出される電子により宇宙機の帯電を防止する。

 

表1 MIPS-FM性能諸元

 

図. 1 MIPS(小型イオン推進システム)の構成

 

図. 2 MIPS-FM(小型イオン推進システムのフライトモデル)の外観

 

図. 3 MIPS-FMのイオンスラスタ作動写真
作動中のイオンスラスタを横から撮影した様子。発光部下側はイオンスラスタから発せられるイオンビーム(イオンジェット)、発光部上側は中和器からの電子放出に伴うプラズマ発光。

 

図. 4 「ほどよし4号」におけるイオンスラスタ作動時のデータ
「Ion current」がイオンスラスタから排出された電流を表し、10:15付近での立ち上がりが作動に成功したことを意味する。「Neut. current」は中和器から放出された電子電流を表し、健全な電子放出を表している。電流値が減少しているのは、作動開始直後の特性と推進剤流量(Mass flow rate)が設定値に向けて減少しているためである。この作動における性能は、推力:250 μN、比推力:880 s、消費電力:28.8 Wである(表1の値よりも高いのは作動開始直後の特性)。

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