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難波成任 東大農学生命科学研究科教授が「米国微生物アカデミー会員」に選出記者発表

難波成任 東大農学生命科学研究科教授が「米国微生物アカデミー会員」に選出

平成27年3月5日

東京大学大学院農学生命科学研究科

 

東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻の難波成任教授が、卓越した独創的研究成果により微生物学分野の発展に大きく貢献した功績により、米国微生物学アカデミーの会員に選出されました。2015年6月2日の第115回米国微生物学会において、セレモニーが執り行われる予定です。
米国微生物学アカデミーは、世界各国43,000人の会員からなる世界で最古・最大の生命科学分野の学会である米国微生物学会により、約60年前に設立された組織です。世界の微生物学研究をより一層発展させ、著しく優れた研究成果を広く社会に公知させる目的で設立され、これまでに約2,700名の著名な科学者が会員に選ばれてきました。日本からは過去に医学・理学の専門家を含む31名が選出されています。
 
難波教授は植物病理学が専門で、特に、植物に病原性をもつファイトプラズマ(注1)の統合生物学的研究とその臨床展開において、優れた業績を上げています。具体的には、ファイトプラズマが植物に感染した際に、その病原性を決める因子や、発病のしくみのほか、媒介される昆虫を決める因子など、常識を覆す方法で次々に生命観を変える発見を繰り返し、研究が困難とされていたこれら微生物の全容を解明してきました。また、植物病診断システムの開発や植物病院の設立などを通じ、植物病の診断・治療・予防の科学「植物医科学」(注2)を創設しました。
学界においては、日本植物病理学会長、日本マイコプラズマ学会副理事長、国際マイコプラズマ学会常務理事などを歴任し、国際研究チームの代表も長く務め、本分野における世界のトップリーダーと目されています。また、日本植物病理学会賞、日本マイコプラズマ学会北本賞、国際マイコプラズマ学会エミー・クラインバーガー・ノーベル賞、紫綬褒章、日本農学賞、読売農学賞など、数多くの賞を受賞・受章しています。
 
【用語解説】
注1:ファイトプラズマ
ファイトプラズマはもともと「マイコプラズマ様微生物(MLO)」と称され、植物に「天狗巣・葉化・萎黄叢生・枯死」などの症状を引き起こす「動物・人のマイコプラズマ」に似た昆虫媒介性病原体であり、東京大学農学生命科学研究科 植物病理学研究室で土居養二名誉教授らにより1967年に発見・命名されました。
ファイトプラズマは、温暖化に伴う媒介昆虫の生息域拡大により、世界の農業生産に深刻な打撃を与えており、その実体解明は喫緊の課題でした。難波教授は、この微生物に初めて分子のメスを入れることに成功し、遺伝子をPCR増幅・配列解析し、系統分類する手法を世界で初めて植物病原体に導入しました。MLOが系統的にマイコプラズマと異なることを発見し、「ファイトプラズマ」と改称しました。さらに、マイコプラズマではトリプトファンに翻訳されるUGAコドンが、ファイトプラズマでは真核生物や一般細菌と同じ終止コドンであることを発見し、その発見により遺伝子発現系が可能となり、ファイトプラズマ研究は飛躍的に発展しました。また、世界に先駆けファイトプラズマの全ゲノム解読に成功し、多くの必須代謝系やエネルギー合成系をも進化の過程で失った、生命の概念を覆す「究極の怠け者細菌」であることを示しました。さらに、ゲノムのマイクロアレイを世界で初めて作製し、ファイトプラズマと宿主の遺伝子発現応答を解析しました。また、ファイトプラズマ表面のタンパク質と、媒介昆虫腸管壁タンパク質の結合の可否が、特定の昆虫による媒介能を決定していることを、動植物病原体を通じ初めて発見しました。次いで、植物の茎・枝が異常に密生する天狗巣症状の原因遺伝子「TENGU」を発見し、その発病に至るまでの働きを解明しました。臨床現場で役立つ診断キットの開発も世界で初めてのものです。
 
注2:植物医科学
植物病(微生物病、害虫病、生理病、雑草害、気象害、汚染物質害などの総称)の診断・治療・予防など臨床分野に関する学術領域。世界の農業生産の3分の1が植物病により失われ、その損失は8億人分の食糧に匹敵します。難波教授は、植物医科学講座や植物病院を東京大学に開設し、植物医師養成に取り組んでいるほか、海外からの侵入病害をいち早く病院で発見し、キットを開発して国と根絶対策に取り組むなど、数々の社会的貢献が高く評価されています。

Prof. Namba

【難波成任教授の経歴】
略歴
1977年 東京大学農学部農業生物学科卒業
1982年 東京大学大学院農学系研究科
博士課程修了
1985年 東京大学農学部助手
1989年 米国コーネル大学客員研究員
1992年 東京大学農学部助教授
1995年 東京大学農学部教授
1999年 東京大学大学院新領域創成科学研究科
教授
2004年 東京大学大学院農学生命科学研究科
教授
2006年 東京大学総長補佐
2009年 東京大学総長特任補佐
 
受賞歴
1982年 日本植物病理学会奨励賞
2002年 日本植物病理学会賞
2004年 日本マイコプラズマ学会北本賞
2010年 国際マイコプラズマ学会エミー・クラインバーガー・ノーベル賞
2013年 紫綬褒章
2014年 日本農学賞・読売農学賞
 
問い合わせ先:
東京大学大学院農学生命科学研究科 総務課総務チーム 広報情報担当
HP:http://www.a.u-tokyo.ac.jp/index.html
 
参考 米国微生物学アカデミー ホームページ(選出者一覧)
http://academy.asm.org/index.php/fellows-info/fellows-elected-in-2015
 

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