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創薬シーズ探索の新方法を東大が開発、製品化につなげる ~糖転移酵素やリン酸化酵素の化合物スクリーニング新技術~研究成果

創薬シーズ探索の新方法を東大が開発、製品化につなげる
~糖転移酵素やリン酸化酵素の化合物スクリーニング新技術~

平成27年3月19日

東京大学創薬オープンイノベーションセンター

 

1.発表のポイント:
 ◆癌などさまざまな病態と関連する生体内分子である糖転移酵素やリン酸化酵素の活性を極めて低コストかつ迅速に測定できる方法を開発
 ◆本測定法は、これらの酵素の機能を調節できる化合物の探索(スクリーニング)研究に広く利用可能であり、今後、創薬研究の活性化が期待
 ◆同測定法を簡便に利用できるようにするため、和光純薬工業株式会社へ技術移転し、近日中に測定試薬製品として、販売が開始される予定
  
2.発表概要:
東京大学創薬オープンイノベーションセンターの熊谷和夫特任准教授(当時、現・神戸大学大学院工学研究科)らは癌などさまざまな病態に関わるとされる生体内分子である糖転移酵素群やリン酸化酵素(キナーゼ)群の活性測定に汎用できる新規な測定法を開発した。
本測定法は、従来のものと比べて極めて低コストで転移酵素群やリン酸化酵素群の活性が測定できるため、何十万もの化合物群から短期間でこれらの酵素群に作用する薬の候補を探し出す化合物スクリーニングに応用可能である。大学等アカデミアでも近年では化合物スクリーニングが行われるようになり、より多種類の化合物群から迅速に目的の化合物を見出すことが望まれているが、スクリーニングの規模が大きくなればそれに応じて労力と費用も増える。そのため、これらのコストを抑えつつ迅速に実施できる試験方法を開発した。
本測定法を広く利用できるようにするため、和光純薬工業株式会社に技術移転し、同社が製品化し、近日中に販売が開始される予定である。

3.発表内容:
糖転移酵素はヒトで9タイプ200種類以上の分子種が知られ、タンパク質など生体分子に糖鎖を付加する酵素である。近年、糖転移酵素は糖鎖の合成の異常に起因する疾患との関連も解明されつつあり、創薬標的の1つと言える。しかしながらこれまで、糖転移酵素の機能を調節する化合物の大規模な探索に適した方法がなかった。

そこで、熊谷特任准教授らは、糖転移反応の結果作られるヌクレオチドを、アデノシン二リン酸(ADP)に一定の比率で変換して、そのADPの生成量をレゾルフィンという色素の蛍光強度(590 ナノメートル)の変化として捉える測定法を開発した。本測定法は安価な試薬類の組み合わせで利用できるため、低コストで酵素活性が測定でき、感度や精度の面でも良好であることを確認した(文献1)。

キナーゼはそれぞれの酵素が標的とする生体分子にアデノシン三リン酸(ATP)のリン酸基を1つ取って付ける酵素であるが、ヒトでは500を超える種類が知られ、それらの変異体(酵素タンパク質を構成するアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わったタンパク質)が疾患に関わることも明らかにされており、癌などの創薬標的の一群として重要視されている。それらの機能を調節する化合物の探索方法として、これまで、キナーゼの反応の結果得られるリン酸化された生体分子を定量する方法、キナーゼ反応の原料となるATPの減少を測定する方法、キナーゼ反応の結果ATPからリン酸が一つ外されたADPを定量する方法などが開発されている。中でもADPを定量する方法は、キナーゼの種類を問わず用いることができ、測定キットも市販されているため、よく用いられている。しかし、大規模な探索には測定キットが高価であるため、より安価な測定キットの開発が課題となっていた。

熊谷特任准教授らは、上述の糖転移酵素の測定のために開発した測定法の後半部分、すなわちADP生成量を測定する部分をキナーゼ活性の測定に適用することで、安価にキナーゼの機能を調節する化合物のスクリーニングを実施できることを明らかにした(学会発表予定)。また本測定法は、キナーゼに限らずATP加水分解酵素など、ADPを生成する他の種類の酵素群の活性測定にも用いることが可能である。

本測定法は測定試薬調製に用いる試薬類の種類が多く、手軽に本測定法を利用できるようにするため、和光純薬工業株式会社に技術移転し、キット製品化の検討を経て、この度、ADP測定キット製品として近日中に販売される予定である。

(文献1)Kazuo Kumagai, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tetsuo Nagano  Development of a highly sensitive, high-throughput assay for glycosyltransferases using enzyme-coupled fluorescence detection.  Analytical Biochemistry, 447, 146-155 (2014).
(学会発表予定)平成27年3月27日 日本薬学会第135年会 27PB-am255、27PB-am256

4.問い合わせ先:
東京大学創薬オープンイノベーションセンター
特任教授 岡部隆義、小島宏建
 

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