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東日本大震災 <東京大学の対応について>

ひょうたん島通信 第8回

 岩手県大槌町の大気海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センターのすぐ目の前に、蓬莱(ほうらい)島という小さな島があります。井上ひさしの人形劇「ひょっこりひょうたん島」のモデルともされるこの島は、「ひょうたん島」の愛称で大槌町の人々に親しまれてきました。ひょうたん島から毎月、沿岸センターと大槌町の復興の様子をお届けします。

「ひょうたん島通信 第8回」は、東京大学学内広報NO.1428 (2012.8.27)に掲載されたものです。

海の豊かさを利用した養殖生産

古谷 研(農学生命科学研究科教授)

 

*【写真】蓬莱島と調査船「グランメーユ」(フランス語で「大きな槌」の意)。

 緑の山を背に水面は穏やかに陽光を反射し、夏の三陸らしい風景が広がっている。プランクトン(浮遊生物)とベントス(底生生物)の生態調査のために訪れた7月末の大槌湾は、津波の前と全く変わらない様子を見せている。しかし水面を見ると「あば」(網端、浮き玉)がとても少ない。震災前の三陸では、どの湾にも数多くのあばや筏が海面に浮かび、カキやホタテ、ワカメの養殖が活発に行われていた。津波により施設ばかりでなく、種苗を作るための天然母貝も失われてしまったが、昨年夏、大槌の漁業者は何とか手に入れた稚貝を使って貝類養殖を立ち上げた。松島湾からカキを、北海道からホタテを入手したと聞いた。

 

*【写真】大槌湾の「あば」。津波前に比べると遥かに少ない。

 

  こうして再開した養殖は驚くほどの貝類の高成長を得て、カキは既に出荷が始まっていた。これまで3年かかったところを1年での出荷である。ワカメ養殖も大成功で、この春には例年になく品質の良いワカメが収穫され、今は来春に向けたワカメの種苗糸の採苗作業が最盛期を迎えている。ホヤの養殖もこの夏から再開されており、これから貝類・ワカメ養殖の規模が増していくだろう。

  カキやホタテ、あるいはワカメの養殖は、成育に必要な餌(プランクトン)や栄養塩(窒素やリン、ケイ素の無機塩)を天然の海水中に求めることから「無給餌養殖」と呼ばれる。海の豊かさに依存した営みである。海の豊かさをひと言で表すと栄養塩の供給量の多さになる。大槌湾はその地形と海洋学的な特性から湾内外の海水交換が活発で、湾外から栄養塩濃度の高い海水が底層に沿って湾内に入り、湾内水は表層を通って湾外に流出する循環が存在する。この循環で供給される栄養塩は、養殖ワカメだけではなく、天然の海藻類や植物プランクトンに利用される。一方、植物プランクトンは湾内の動物プランクトンやその他の植物を食べる動物の餌になるとともに養殖カキ、ホタテの餌となる。震災後、無給餌養殖が大成功なのは、以前よりも養殖規模が縮小したため生物間での栄養塩や餌の競争が緩和されて成長が良かったためと考えられる。

  今後、養殖規模が拡大するにつれて餌や栄養塩の競合が起こることが予想される。競合が過度になれば養殖生産の効率は低下し、生態系はやせてしまいかねない。海の豊かさを持続的に利用するには、環境収容力に見合った養殖規模が求められる。それを決めるために、海水流動、栄養塩供給、プランクトンやベントスの群集動態、養殖生物の成長などをふまえた生態系内の物質循環の理解が大いに役立つに違いない。

*
【写真】「グランメーユ」上での観測風景。

 

【かわべコラム】

キズあと残る白い砂浜 ―Boys of Summer―

(かわべコラム)国際沿岸海洋研究センター専門職員・川辺幸一です。大槌町にある沿岸センターで震災に遭いました。今は、釜石市から提供を受けた仮設住宅に住み、そこから大槌町中央公民館内にある復興準備室に通勤しています。

 

 *吉里吉里海岸

 

 国際沿岸海洋研究センターより車で約15分程のところに位置する吉里吉里(きりきり)海岸。透明度の高い海と歩くとキュッキュッと鳴る「鳴き砂」の海岸として岩手でも有名な海岸です。

  震災前、夏になると多くの人びとが海水浴に訪れて賑わいをみせていた場所ですが、今はほとんど人の姿を見かけません。震災後、大きなガレキや流木などで汚れた海岸は、自衛隊や地元の漁業組合、町役場の皆さんが撤去作業を行い、1年を過ぎた今でも綺麗な砂浜を復活させるべく、ボランティアの皆さんを中心に清掃活動が続いています。しかし写真をご覧いただくと分かるように、海岸にはいまだに防潮堤の残骸が残っており、表面は綺麗な砂浜も少し掘り起こしてみれば石やガラスが出てくる状態です。

  町にあふれるガレキの処理、仮設住宅に代わる住宅地の開発、防潮堤の整備など、さまざまな問題が山積みの被災地。それらの問題を解決していくことが最優先なのでしょうが、以前のような綺麗な海岸を取り戻すことも被災地・大槌町として希望のひとつになるのではないでしょうか。

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「ひょうたん島通信」第8回
制作: 大気海洋研究所広報室
掲載: 東京大学学内広報 NO.1428 (2012.8.27)

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