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(1)本専修課程について

 本専修課程で教育・研究の中心をなすのはイタリア語イタリア文学である。イタリア文学は、古代ローマ帝国の本拠地イタリアに生まれたという事実をとっても明らかなように、古代ラテン文化の遺産を直接継承し、いわゆる近代西ヨーロッパ民族文化のなかでは、他に先がけて、最も早く開花した文学の一つに数えられる。わけても「文芸復興(ルネサンス)」運動は、すでに13世紀末頃からその胎動がみられ、14世紀の中葉に至れば、ペトラルカやボッカッチョの傑作という見事な花を開く。そしてイタリアを発祥の地として、西ヨーロッパ全体を覆う一大文化潮流となった。
 この間、古典学の復興をめざす「人文主義」、近代政治学や自然科学の基礎を置いたマキャヴェッリやガリレオ、万能の芸術家レオン・バティスタ・アルベルティ、ミケランジェロ・ブォナローティなどが文学においても活躍する一方、ポリツィアーノ、サンナザーロ、アリオスト、タッソらの文人が輩出し、15・16世紀のイタリア文学は、他の分野におけると同様、ヨーロッパ全体をリードした感があった。
 以後17・18世紀および19世紀の後半に至るまで、イタリアは、小国分立と外国支配に起因する極めて不安定な政治的・社会的状況に置かれ、それまでの華やかな歴史に較べると見劣りするとはいえ、哲学者・思想家のヴィーコ、劇詩人のメタスタージオ、戯曲家ゴルドーニ、抒情詩人レオパルディ、小説家マンゾーニなど、多彩な顔ぶれで、西ヨーロッパ文学の一角を担う。 また1861年の国家再統一から、両度の世界大戦を経て現代に至る期間にも、ヴェルガ、ダヌンツィオ、カルドゥッチ、ピランデッロ、クローチェ、グラムシ、モラーヴィア、クワジーモド、ウンガレッティ、サーバ、モンターレ、パヴェーゼ、パゾリーニなどが、あらゆる文芸ジャンルにおいて、活発な活動を展開してきた。
 本専修課程では、このようなイタリア文学およびイタリア語についての教育・研究を中心として、同じロマンス語系文化圏に属するイベリア系の言語・文学や中世オック語文学をも視野に入れた、南欧語南欧文学科としての教育・研究体制を整えている。

(2)カリキュラムについて
 上述した状況を踏まえ、本専修課程では、現代イタリア語の修得に眼目の第一が置かれる。幸いなことに、イタリア語の場合は、ダンテ、ペトラルカ、ボッカッチョというトスカーナ出身の三大作家の傑作によって、標準語の基礎が実質的に14世紀中に築かれたという事情があるので、現代語の確実な知識が得られるなら、イタリアの主要作家の作品はほぼ読みこなせる範囲に入るという大きな利点がある。また単に読解力のみならず、作文能力、会話能力も考慮に入れた、生きたイタリア語の重点的な教育を行う。
 文学面では、イタリア文学の古典に親しむことをもって主眼とする。このため毎年ダンテ、ペトラルカ、ボッカッチョのいずれかの作品講読を必ず設け、これに配するにすでに挙げたアリオスト、マキャヴェッリ、ポリツィアーノらの作品研究をもってする。もちろん授業科目には韻文以外にも、戯曲・小説・論考その他各分野に属する作品を、かたよることなく選ぶよう、また時代についても、中世から現代に至るまで、限られた講義時間数のなかで、できるだけ網羅的に作家を選択するよう、配慮するつもりである。イタリア語イタリア文学以外の南欧ロマンス語圏の言語・文学に関する講義も開講されている。

(3)卒業後の進路について
 ここで本専修課程修了者にとって予想される進路について触れておく。学部を終えて社会に出ることを希望する者にとって、就職の機会は、文学部の他の専修課程修了者の場合と別に異なるところはない。近年におけるヨーロッパ連合(EU)とわが国との間の関係の緊密化、それにわが国における南欧ロマンス語系文化圏研究の未発達による稀少価値観などの要因もあって、専修課程で習得した知識を就職の際に活かしえた幸運な事例も見られる。
 しかし学部修了後さらに大学院に進み、研究を志す場合は、わが国におけるイタリア文学や南欧文化圏研究の遅れのため、教育・研究関係の職に携る可能性はきわめて限られていることを十分承知して、それなりの覚悟と努力をもって勉学に励むことが必要である。

(4)本専修課程への進学を考えている人へ
 本専修課程への進学希望者は、教養学部在学中に、第2外国語ないし第3外国語として行われるイタリア語の授業、また駒場生向けに本郷あるいは駒場キャンパスで開講される本専修課程の授業を受講することを強く希望する。さらに、イタリア語の祖語に当るラテン語、イタリア語と同じロマンス語系統に属するフランス語やスペイン語の習得にもできる限り務めてもらいたい。
 南欧ロマンス語圏の文学のうちでも、イタリア文学は近代西ヨーロッパ文化圏において有数の豊饒さを誇る文学である。と同時に、その文化的先進性によって、他の文学に与えた大きな影響からしても、イタリア文学を理解することは、近代西欧文化の根底に触れ、その行き届いた理解を獲得する重要な一歩たりうる。単なる好奇心などからではなく、ヨーロッパ文学、ひいては文学全体に関わる知識と理解とを少しでも深めようとする、好学の諸君の進学を期待する。

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