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文化資源学

 専修課程を持たない大学院だけの研究室ですから、進学振分け時に進路として選択することはできません。しかし、その2年先の大学院進学時に参考となるように、文化資源学研究室の基本的な性格を説明します。
 2000年度に創設された研究室です。正しくは文化資源学研究専攻といい、文化経営学、形態資料学、文字資料学の3コースから成り、文字資料学コースはさらに文書学、文献学の専門分野に分かれています。
 この構成はつぎのように発想されました。われわれの前には、「かたち」と「ことば」の膨大な蓄積があります。文書とは書かれた「ことば」、文献とは書物になった「ことば」です。多くの人文科学系の学問は、もっぱらこれら「ことば」を相手にしてきたといえるでしょう。ところが現代では、学問領域はあまりにも細分化されたばかりか、さらに情報伝達技術の発達が、「ことば」とそれを伝えるメディアとの関係を希薄なものに変えてしまいました。そこでは、「ことば」を読むことの訓練は盛んに求められるものの、肝心の「ことば」を過去から、あるいは遠方からわれわれのもとへと伝える「文字」や「文書」や「書物」などのメディアそのものに対する関心が希薄になりがちです。
 しかし、「文字」が発明された時点から、「ことば」は各メディアの具体的な「かたち」と無縁ではなかったはずです。両者を切り離して考えることはできません。「かたち」は、「ことば」を拘束もすれば、伝達や保存に関するさまざまな可能性をも与えるからです。「文書」や「書物」という物体、紙や石や木という物質にも目を向ける必要があるはずです。
 一方、「かたち」のみを研究対象とする既成の分野は、文学部においては美術史学と考古学ぐらいですが、いったん学問領域が設定されると、そこからは、美術作品ではない、考古遺物ではないという理由で、無数の「かたち」が視野の外へと追いやられてしまいます。そのうえ、「ことば」をめぐる学問とよく似たことも起こります。すなわち、「かたち」をめぐっても、それを現実に作り出している物質や物体に対する関心が希薄になりがちです。
 絵画を例にとれば、画面に描かれた画像は、絵画本体を離れて、版画や写真や印刷物やテレビやインターネットなどさまざまなメディア上をいくらでも移動可能です。そうした画像のみを論じることも十分にできます。しかしまた、絵画の形態(壁画、屏風、襖絵、天井画、掛け軸、絵巻、絵馬、額装画など)や物質的な側面は、そもそも絵画とは何であるかを考える重要な手掛かりなのです。なぜなら、それらの「かたち」は、絵画がそれぞれの時代にそれぞれの場所でどのような役割を果たしていたかを教えてくれるからです。
 このような観点から、形態資料学は、文字以外のさまざまな表象手段によって創られ、伝えられ、記録された文化資料を総合的に研究します。画像や音声や身ぶりなどの視覚的・聴覚的・身体的な形態を含みこんだ文化を対象に、その分析と解読に挑み、記録、保存、公開といった課題について考えます。有形無形の文化財や芸術、映像作品や技術文化などを、それぞれの視角からとらえてきた歴史学、民俗学、考古学、人類学、美術史、芸能研究、メディア論などの蓄積と問題提起に学びながら、形について考える新しい総合を模索しています。
 文化資源学とは、いわば既成の学問体系の側に立つことよりも、体系化のもとになった資料群の中に分け入ることから始まります。文化を根源に立ち返って見直し、資料群から多様な観点を通して新たな情報を取り出し、社会に還元することを目指しています。あえて「資料」ではなく、「資源」を使うことにしました。資源は英語でresourcesといいます。sourceの第一義は水源であり、川や流れの始まる場所です。そこにreが加わることにより、水源に臨むという意味が強められています。源泉からもう一度考え直そうというわけです。
 このように、「源泉」に立ち返って得た知識や情報を社会へと還元させることが「文化経営学」にほかなりません。具体的には、史料館、文書館、図書館、博物館、美術館、劇場、音楽ホール、文化政策、文化行政、文化財保護制度などの過去と現在と未来を考えようとするものです。ここで強調しておきたいことは、あくまでもこうした「かたち」と「ことば」に関する思考、研究の上に立脚して、文化経営の在り方を探究するという本研究室の姿勢です。形態資料学は博物館や美術館や劇場に、文字資料学は文書館や図書館につながるものの、はじめに「かたち」や「ことば」ありきであって、決してその逆、はじめに博物館や文書館ありきではありません。それら文化施設のマネ−ジメントを身につけるためには、経営技術の習得のみでは不十分で、「かたち」と「ことば」が織り成す文化に通暁する必要があります。文化資源学研究室は、そうした関心を強く持つ人の訪れを待っています。

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