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韓国朝鮮文化
(1)研究室の概要
韓国朝鮮文化研究室は、学部学生の定員をもたない大学院(修士課程・博士課程)のみの独立専攻である。1993年4月に文学部附属文化交流研究施設に設置された朝鮮文化部門を母体として、韓国朝鮮文化研究専攻として2002年4月に新設された。日本では最初の韓国朝鮮文化に関する専門的な教育・研究組織である。
研究室は、文学部の主な研究室のある法文Ⅰ、Ⅱ号館から離れて、赤門前の赤門総合研究棟の7階にある。文学部学生の利用には少し不便な位置だが、日本で最大規模の韓国朝鮮関係図書を所蔵しており、韓国朝鮮に関心をもつ諸君には宝庫のようなところである。本研究室は、前身が研究施設の一部門ということで、研究と国際交流の活動を引き継いでいる。この間、意欲的な資料収集を続け、研究文献や史料の集積は短期間で日本有数のコレクションをもつに至った。とりわけ韓国の人文系学術雑誌については、日本最大の所蔵を誇っている。日本における韓国朝鮮研究の中心として、共同研究や資料収集のために日本国内のみならず外国から訪れる研究者も多い。
朝鮮半島と日本列島という地理的に近接した2つの地域は、古代から現代に至るまで、政治・経済・社会・文化という、人間生活のさまざまな分野で深い交流を結んできた。日本列島で人々が作り出してきた歴史と文化が、朝鮮半島のそれと分かちがたく結びつき、今日もなお続いている。その重要性をいち早く認識したのが東京大学であり、すでに1916年、全国の大学にさきがけて文学部に朝鮮史講座を設置し、本格的な研究と教育を始めた。朝鮮文化部門はその伝統のよき部分を受け継いでさらに発展させ、韓国朝鮮文化研究専攻の開設へと結びついた。本専攻は、歴史学・考古学・社会学・思想史・科学史・言語学・文学・文化人類学など、多方面から韓国朝鮮の社会と文化を総合的に教育・研究することを目的として開設され、韓国朝鮮歴史文化と韓国朝鮮言語社会の2つの専門分野で構成されている。
韓国朝鮮文化研究専攻は他研究室と異なり、所属する学部学生がいない。そのため学部学生諸君からはその姿が見えにくいことと思う。しかし、東洋史学、日本史学、考古学、社会学、中国思想文化学、言語学など、専門的に関係の深い各専修課程と密接な協力関係をもって、韓国朝鮮文化に関する学部授業を担当している。講義と演習は関連各専修課程の必修科目に認定され、文学部各専修課程に所属しながら韓国朝鮮文化研究室教員の指導をうけて卒業論文を書き上げ、韓国朝鮮研究者への道を歩む学生も多い。韓国朝鮮に関心をもつ学生であれば、専門に関係なく訪れてほしい。研究室の扉は常に皆さんに向かって開かれている。
(2)教員と授業
歴史文化専門分野
川原秀城教授は、思想学を専門としている。詳細は中国思想文化学研究室に記載されている。
早乙女雅博准教授は、考古学を専門分野としている。長い間、東京国立博物館で北東アジア室長として海外発掘調査や文化遺産の管理・修理・展示に従事しており、現場に強い研究者である。韓国国立中央博物館(ソウル)をはじめ韓国の博物館や大学とは太いパイプをもっている。現在の研究テーマは、考古学から見た新羅の国家形成史、高句麗壁画古墳の研究、朝鮮考古学史研究などであり、朝鮮半島の考古学と文化遺産を研究している。また、日本や韓国で行なわれる韓国朝鮮関係の展覧会にも関わっている。主要著書に『朝鮮半島の考古学』(同成社、2000年)、「新羅の考古学調査「100年」の研究」『朝鮮史研究会論文集』(2001年)、『古代朝鮮の考古と歴史』(共編著、雄山閣、2002年)『関野貞アジア踏査』(共編著、東京大学総合研究博物館、2005年)、『高句麗壁画古墳』(監修、共同通信社、2005)、「装身具からみた日韓の暦年代」『日韓古墳・三国時代の年代観Ⅱ』(2007年)がある。講義では最近の発掘資料を紹介しながら韓国考古学をとりあげ、演習では韓国と日本との交流をとりあげる。授業は考古学・中国思想文化学の各専修課程で必修科目に認定されている。
六反田豊准教授は、中近世(高麗・朝鮮時代)史研究を専門としている。韓国精神文化研究院(現韓国学中央研究院)での留学経験をもち、韓国の学界と太いパイプをもっている研究者である。最近の論文に「朝鮮成宗代の漕運政策論議 ― 私船漕運論を中心として ―」(『史淵』136・137,1999・2000年)、「対馬宗家文庫所在内賜本『陣法』について」(『史淵』139,2002年)、「朝鮮後期済州島漂流民の出身地詐称」(『朝鮮史研究会論文集』40,2002年)、「朝鮮初期における田税穀の輸送・上納期限―漕運穀を中心として―」(『東洋史研究』64-2,2005年)などがある。近年は海と人間の関係に興味をもち、韓国最南端の済州島の研究も進めている。講義では朝鮮時代の税制や国家財政を扱い、演習では朝鮮時代史の基本史料である『朝鮮王朝実録』などを講読する。授業は東洋史学・日本史学・西洋史学・中国思想文化学の各専修課程で必修科目に認定されている。
言語社会専門分野
服部民夫教授は、韓国をフィールドとした社会学的研究を行っている。大学に籍を移すまで、20年近くにわたってアジア経済研究所で韓国の社会と経済を分析してきたため、実務の現場にも明るい。著書・編書に、『韓国の企業―人と経営―』(共著、日本経済新聞社,1985年)、A Pattern of Skill Formation in Korean Industries, co-auth. with Yoo-kuen Shin (Institute of Developing Economies, March, 1986)『韓国政治エリート研究資料-職位と略歴-』(共著、東京大学東洋文化研究所東洋学文献センター、1987年)、『韓国の工業化-発展の構図 -』(編著、アジア経済研究所、1987年)、『韓国の経営発展』(単著、文眞堂、1988年)、『韓国-ネットワークと政治文化』(東京大学出版会、1992年)、『韓国・台湾の発展メカニズム』(共編著、アジア経済研究所、1996年)、『韓国経済の解剖 - 先進国移行論は正しかったのか』(共編著、文眞堂、2001年)、『アジア中間層の生成と特質』(共編著、アジア経済研究所、2002年)、『日本型資本主義』(共著、有斐閣、2003年)、『韓国社会と日本社会の変容』(共編、慶應義塾大学出版会、2005年)、『開発の経済社会学』(単著、文眞堂、2005年)、『日韓政治社会の比較』(共編、慶應義塾大学出版部、2006年)等がある。『韓国の経営発展』で大平正芳記念賞と組織学会高宮賞を併せて受賞している。韓国の企業経営や政治運営などと伝統的な人間関係との関係を解析し、常に新しい提言を行ってきた。また、経済分野ではことに技術・技能形成やその蓄積によって形成される工業化のパターンに関心を持ち、特性に沿った交易関係が形成されることも研究している。伝統と現代を合わせ論じられる数少ない韓国研究者の一人である。
韓国朝鮮文化研究室では、毎年1名ずつ外国人客員教授を招聘して、最先端の研究を紹介してもらっている。本年度の鄭承喆教授は、韓国ソウル大学校人文大学国語国文学科教授で、韓国語の方言学、とくに済州島方言の専門家であり、方言を通した韓国語史の研究で著名である。このほか、19世紀末の開化期の文献に関する研究など、幅広い分野で活躍している。『済州島方言の通時音韻論』(太学社)、『韓国近代初期の言語と文学』(共著、ソウル大学校出版部)、『方言のはなし』(共著、太学社)、『日帝植民地時期韓国の言語と文学』(共著、ソウル大学校出版部)などの著作や数多くの論文がある。一石国語学奨励賞(国語学会)、第17回斗溪学術賞(震檀学会)、などの受賞歴がある。演習と講義は大学院生を対象とするが、学部学生も参加することが可能である(使用言語:韓国語)。
福井玲准教授は、韓国朝鮮語の歴史言語学的研究、音声・音韻に関する研究、ハングル資料についての書誌学的研究、韓国語の方言に関する研究を専門としている。より具体的には、15世紀を起点とする音韻史の研究や、日本と同様のピッチアクセントをもつ韓国南部方言についての研究などのほか、近年では、本学部所蔵の小倉文庫において、雨森芳洲が編纂したと推定されながらも、これまで研究されたことのない韓国語の近代語研究にとって重要な資料を見出して研究を進めている。また言語研究におけるコンピューターの利用にも積極的に関わってきた。最近の論文に、「全南光陽市方言のアクセント体系とその地理的分布について」(韓国語、『国語学』31,1998)、「16世紀朝鮮語傍点資料についての基礎的研究」(『朝鮮文化研究』7, 2000)、「韓国語のアクセント」(『音声研究』5–1 日本音声学会, 2001)、 ‘Pitch accent systems in Korean’”. (Kaji S. (ed.) Proceedings of the Symposium: Cross-linguistic Studies of Tonal Phenomena: Historical Development, Phonetics of Tone, and Descriptive Studies. 東京外国語大学AA研, 2003).、「朝鮮語音韻史の諸問題」(『音声研究』7–1 日本音声学会, 2003)、「古代朝鮮語についての若干の覚え書き」(アレキサンダー・ボビン、長田俊樹(共編)『日本語系統論の現在』日文研叢書31 京都:国際日本文化研究センター, 2003)、「中村庄次郎が遺した韓国語学習書について」(韓国語、『李秉根先生退任紀念 国語学論叢』太学社, 2006)、「訓民正音の文字論的性格」(韓国語、『世宗学研究』14, 世宗大王記念事業会, 2006)などがある。
本田洋准教授は、社会・文化人類学を専門とし、主として韓国の地方社会を対象とする民族誌的調査研究に従事している。当初は全羅北道南原地域農村部での長期のフィールドワークを通じて、韓国の産業化・高度経済成長と都市化の過程における農村の社会組織と民俗文化の変化を考察していたが、その後は地域活性化と観光開発、吏族家系出身者の社会関係と身分伝統の再構築、漆器産業の変遷と技能工の生活史を通じた小生産物資源の構築等の主題について、近現代韓国朝鮮地方社会を対象として、社会史・歴史人類学的視角をも合わせ、多岐にわたる研究を行うようになった。近年では、農村調査で得た知見と民族誌資料の再読による共同体論の再検討を行う一方で、工業化・高度経済成長後の韓国社会における新共同体創設運動と代案的な生き方の模索にも調査研究の対象を広げつつある。主たる編著・論文に、「墓を媒介とした祖先の<追慕>―韓国南西部一農村におけるサンイルの事例から」(『民族学研究』58(2)、1993年)、「郷土芸能は誰のもの?―現代韓国農村における民俗伝承の一側面」(『朝鮮文化研究』2、1995年)、「韓国の地方邑における「郷紳」集団と文化伝統―植民地期南原地域における都市化と在地勢力の動向」(『アジア・アフリカ言語文化研究』58、1999年)、『東アジアにおける文化の多中心性』(三尾裕子と共編、風響社、2001年)、「吏族と身分伝統の形成―南原地域の事例から」(『韓国朝鮮の文化と社会』3、2004年)、『東アジアからの人類学:国家・開発・市民』(宇田川妙子・中村淳と共編、風響社、2006年)、『韓国の在地エリートに関する社会人類学的研究』(単著、科学研究費補助金基盤研究(B)研究成果報告書、2006年)、『社会空間の人類学:マテリアリティ・主体・モダニティ』(共著、世界思想社、2006年)、『資源人類学04 躍動する小生産物』(共著、弘文堂、2007年)、Status and Stratification: Cultural Forms in East and Southeast Asia(共著、Trans Pacific Press、2008年)等がある。研究成果の一部は、ホームページでも公開されている(http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~hhonda/)。韓国朝鮮文化研究共通講義では特殊講義として社会人類学方法論と韓国朝鮮民族誌を担当し、同演習では民族誌の方法と実践を主題として、文献講読と研究発表、討論を内容とする演習を行なっている。特殊講義は社会学専修過程の必修選択科目にも認定されている。文学部授業科目として、この他に社会学演習、社会学概論、社会学史概説(社会学専修課程)と文化人類学(一般講義)を担当している。
(3)研究室事業
(1) コリア・コロキュアム。毎年6~8回のペースで、原則として法文2号館1番大教室で水曜日夕刻から開催しており、参加は自由である。変動する朝鮮半島の現在と過去を把握するために、内外の専門家に自由な立場から話してもらっている。韓国語・英語話者の場合は、日本語通訳もついている。
(2) 韓国朝鮮研究文献コレクション。日本における韓国朝鮮研究関係文献センターとなることをめざして、各種史料・研究文献の収集と整理作業をおこなっている。基本史料や研究図書の収集が中心となるが、韓国の学術雑誌、とりわけ大学・学会が出版したものの重点的整備を行っている。また、故末松保和学習院大学名誉教授の御遺族から同教授収集の朝鮮関係図書約3000冊、韓国文化交流財団から語学関係学術新刊図書約1000冊、韓国精神文化研究院(現韓国学中央研究院)から同研究院発行図書など、多くの寄贈もうけいれ、韓国・米国など各国の大学・研究機関・学会と出版物の交換を行っている。
(3) 国際交流。東京大学や人文社会系研究科を代表して、ソウル大学校(韓国)、イリノイ大学(米国)、高麗大学校(韓国)、釜山大学校(韓国)、成均館大学校(韓国)と交流協定を締結し、学術交流や学生交換を行っている。
(4) 外国人研究員。国際的な研究交流を行うために、日韓文化交流基金や国際交流基金の助成などをうけて、毎年各分野で数名の外国人研究員をむかえている。
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